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中国で1日20億円を売り上げたラッキンコーヒーの新商品「醤香ラテ」は若者の心を掴むか?

中島恵ジャーナリスト
人気の醤香ラテ(ラッキンコーヒーの微博より筆者引用)

茅台酒入りのラテが話題

9月4日、中国最大のコーヒーチェーン、ラッキンコーヒー(瑞幸珈琲)が発売した新メニュー「醤香ラテ」が発売初日に中国全土で542万杯、1億元(約20億円)の売り上げを達成し、SNSを中心に大きな話題となっている。

「醤香ラテ」とはラッキンコーヒーと中国を代表する酒造メーカー、貴州茅台(マオタイ)酒が共同で開発したコラボ商品。定価は1杯38元(約760円)だが、クーポン券を利用すれば1杯19元(約380円)になる。「醤香」とは茅台酒が分類される蒸留酒、白酒(バイチュー)の香りの一種を指す言葉だという。日本では「白酒ラテ」とも紹介されている。

中国メディアによると、ラテに直接、茅台酒が入っているわけではなく、茅台酒風味の濃いミルクが注入されている。茅台酒はアルコール度が53度と高いお酒だが、同ラテのアルコール度数は0.2~0.3ほど。基本的には「お酒の風味があるラテ」として、未成年者や妊婦などを除き、誰でも楽しめる。

ラッキンコーヒーは通常、事前注文して店舗に取りに行くスタイルのカフェだが、武漢に住む筆者の20代の知人は、注文後に店舗に行ったところ、同時間に注文した顧客やSNSで知った野次馬などで店内があふれ返っており、「すごいブームになっている」と興奮ぎみに語っていた。

微博(ウェイボー)などのSNSや動画でも「醤香ラテ」を検索する人が多く、実際に飲んだ人たちから「香りが高いラテという感じ。かなり甘い」「(茅台酒のボトルと同じカラーの)カップや専用の紙袋がかわいかったので買った」「話題になっているので、早く飲んでみたかった。とても美味しい」といった感想が寄せられている。

若者の酒離れが進んでいる

中国メディアの分析では、「ラッキンコーヒー側としては、新商品で話題を作り顧客拡大を目指すこと、茅台(マオタイ)酒側としては、茅台酒を若年層にアピールし、認識してもらうことを目指している。コーヒー店の競争が激化する中、コラボし、差別化を図ったのでは」としている。

近年、中国では若者の中国酒離れが進んでいる。とくにビールよりも中国酒は人気がなく、成人になっても「飲んだことがない」「強いお酒はあまり好きではない」という人が増えている。3年間のコロナ禍や経済悪化、大人数での食事会が減少したことなども関係していると言われている。

近年はむしろ日本酒やウイスキーなど海外のお酒のほうが「おしゃれ」「SNS映えする」と人気が出ているが、高級酒である茅台酒は市場価格が1本(500ミリリットル)3000元(約6万円)と高く、お金のない若者らから敬遠されている。

貴州茅台酒はこれまでに茅台酒アイス、茅台酒ミルクティーなども開発しており、何とか若者の心を掴もうとしてきたが、成功といえるほどのヒットにはつながらなかった。その点、今回のラッキンコーヒーとのコラボは見た目のインパクトなどもあり、発売前から話題となる人気ぶりで、期待が高まっている。しかし、中国では若者に限らず、新商品に対して熱しやすく冷めやすい傾向が高いことから、人気が持続するかどうかは未知数だ。

中国に根づくコーヒー文化

こうした商品が開発された背景には、むろん、中国のコーヒー文化も関係している。若者を中心に急速にコーヒーの人気が高まっており、全国に約12万店のカフェがある。とくに上海市はカフェ数が約8000店と世界一だ。中でも20~40代のホワイトカラーの間で人気があり、オフィスでコーヒーを飲む習慣が定着していて、コーヒー豆などに対してこだわりが強い人も多い。

ラッキンコーヒーは2017年に創業。当初からテイクアウトを中心としたスタイルで話題となったが、2020年には不正会計問題が発覚し、一時低迷していた。しかし、その後V字回復を果たし、今年6月末現在、店舗数は約1万836店にまで拡大。米国発で、中国でこれまで最も店舗数が多かったスターバックス(星巴克)の6480店を追い抜いて、中国一の店舗数となっている。

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミアシリーズ)、「中国人のお金の使い道」(PHP研究所)、「中国人は見ている。」、「日本の『中国人』社会」、「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」、「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」、「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」、「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国などを取材。

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