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安倍元首相襲撃事件 中国でも検索ランキング第1位 中国人がこれほど高い関心を示す理由

中島恵ジャーナリスト
(写真:西村尚己/アフロ)

7月8日、午前11時半過ぎ、安倍晋三元首相が奈良市で演説中に襲撃され死亡した事件は、中国でも非常に高い関心を持って受け止められている。なぜ、中国人はこれほど注目したのか?

検索ランキング第1位

事件が起きた直後、日本の報道をすぐに追いかける形で中国の人民日報、新華社などが速報した。微博(ウェイボー)などのSNSでも、事件から1時間半が経った13時の時点で、検索ランキングの上位1~3位がこのニュースで占められた。

午後になると、中国の各メディアも続々と報じ始め、微博、微信(ウィーチャット)などSNSへの個人の書き込みも爆発的に増加した。

折しも、前日の7月7日は日中戦争の発端となった盧溝橋事件から85年という節目を迎えたばかりというタイミングもあり、ナショナリズムが高まっている若者を中心に、安倍氏に対して批判的で辛辣なコメントも多かった。

環球時報は安倍元首相が総理在任中に靖国神社を訪問したことや、台湾有事に関する発言をしたことなどを強調した。

その一方で、個人の投稿の中には「無事の生還を祈る」「安全だと思っていた日本で、このような事件が起こるなんて信じられない」「事件の続報に注目したい」といった書き込みもあり、必ずしも批判一色ではなかった。

安倍氏に関する関心は非常に高い

SNSで賛否両論が飛び交う中、中国外務省は午後、「我々は事件に驚愕している。安倍元首相は中日関係の改善と発展に貢献した」とのコメントを発表。夕刻、死亡が確認された後、東京の在日中国大使館は「哀悼の意を表し、ご遺族の方々にお悔やみを申し上げる」との声明を発表した。

夜間になっても、微博は「安倍元首相襲撃」に関する内容の投稿が多く、検索ランキングは第1位をキープ、国内ニュースへの関心を上回るほどの注目ぶりだった。

SNS上には、安倍元首相が襲撃された瞬間がはっきりと映っている映像が繰り返し流れ、「SPや警察は一体何をしているのか」「日本はもはや安全な国ではない」などのコメントも多く見られた。

中には中国中央テレビがまとめた安倍元首相の生涯を紹介する60秒間のビデオを紹介し、「政治信条はともかく、日本で長く活躍した著名な元首相。どうか安らかに」といったコメントもあった。

中国中央テレビのアプリで紹介されていた安倍元首相死去に関するニュース画面(筆者引用)
中国中央テレビのアプリで紹介されていた安倍元首相死去に関するニュース画面(筆者引用)

在日中国人の中には「今日は日本と日本人にとってとても悲しい日。私たちも非常にショックを受けている」との書き込みをする人も多く、安倍氏が母親の誕生日を一家で祝う写真を投稿し、追悼している人もいた。

安倍氏は最も著名な日本の政治家

中国人がこれほど高い関心を示す理由は、安倍氏が中国で最も有名な日本の政治家であるからだ。

歴代で最も長い政権を樹立し、習近平国家主席と10回にも及ぶ会談を行ったこと、2006年に首相就任後、初の外国訪問が中国であり、小泉政権で冷え込んだ日中関係を改善する「氷を溶かす旅」を行ったこと、アベノミクスなどの影響で中国人の訪日旅行が加速したこと、などが大きく関係している。

安倍元首相の前、小泉純一郎元首相が在任中、尖閣諸島の領土問題などが起きて日中関係は「過去最悪」と呼ばれるほど冷え込んだが、そのときも中国人の間では、小泉氏を否定する声ばかりでなく、当時まだ始まったばかりのSNSでは「小泉氏には独特の存在感がある」などの意外な意見もあり、注目度は高かった。

安倍氏の在任後、中国ではSNSでの情報収集が一般的となり、日本のニュースはほとんどすべてが時差なく、詳細に報道されるようになった。

また、大手メディアの公式的な報道、政府見解とは別に、日本に関するニュースは、在日中国人から直接もたらされる「生の情報」やワイドショー的な内容も増え、中身がより多様化、細分化した。

そのため、安倍昭恵夫人に関する情報や、森友・加計問題などに関する情報も、中国にも多数出回った。よきにつけ、悪しきにつけ、日本に関する情報は中国の政府発表以外にも大量に増えた。

今回の襲撃事件でも、安倍氏の親友といわれる人々が、死亡の公式発表より以前にSNSに書き込みしたことなどまで中国人のSNSで話題になっている。つまり、安倍氏襲撃事件への中国人の関心の高さは、それほど日中の情報格差がなくなったことを意味している、ともいえる。

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミアシリーズ)、「中国人のお金の使い道」(PHP研究所)、「中国人は見ている。」、「日本の『中国人』社会」、「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」、「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」、「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」、「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国などを取材。

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