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上海市で2ヵ月以上続いたロックダウンが解除 上海市民に去来する喜び、不安、後遺症

中島恵ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

6月1日、午前0時、中国・上海市で2ヵ月以上続いていたロックダウン(都市封鎖)が事実上、解除された。これにより、過去10日以内に感染者が出た一部の地区を除き、上海市の人口の約9割に当たる約2250万人の外出が可能になった。

また、地下鉄やバスなどの公共交通機関が再開され、自家用車やタクシーでの外出も可能に。上海市民と新型コロナとの長い戦いに、ようやくピリオドが打たれた。

突然のロックダウン解除に驚き

6月1日以降、上海市民がスーパーやコンビニ、公共交通機関などを利用する際は、72時間以内のPCR検査の陰性証明のほか、ロックダウン以前と同様、体温検査、健康コードアプリ、場所アプリの提示などが求められる。

映画館や美術館などの再開は未定だが、飲食店やカフェなどは店内飲食を禁止、デリバリーを中心に順次再開される見込み。オフィスへの出勤も、人数を3~5割に制限する形で可能になる。

ロックダウン解除の第1報があったのは5月30日の夕方。上海市政府が突如として、6月1日にロックダウンを解除する、と公式のSNSアカウントで発表したのだ。これを知った多くの上海市民の間には驚きが広がった。

前日の5月29日にはロックダウンで影響を受けた経済を立て直すため、約5兆7000億円にも上る支援策を発表したばかりだった。

上海市は5月中旬の段階で「6月1日以降、中下旬にかけて市内の生産活動と通常の生活を再開する」と発表しており、多くの上海市民はもうしばらくロックダウンが続くものと予測していた。そのため、5月30日の公式発表を受けてもなお「本当に?信じられない」といった反応もあった。

そう思った理由の一つは、5月中旬、外出が可能となるはずの「社会面ゼロコロナ(封鎖されている地区以外で新規感染者が3日連続で出ていない状態)」を達成しているマンションでも、マンションの管理を行う居民委員会の独自の判断で、マンションから一歩も外出できなかった人が多かったからだ。そのため、「政府の公式発表の通りになるかどうか、最後の最後までわからない」と疑った人もいた。

ようやく外出できる喜び

だが、上海市政府は「各地区、マンションの管理を行う居民委員会などは、いかなる理由があっても、住民の出入りを制限してはならない」と発表。これを受けて、「この文言で、ようやく政府のいうことを信じられる。本当に、やっと外に出られる。自由になれるのだ」と胸をなでおろしたり、喜びを爆発させたりした人が多かった。

解除の前日である5月31日には花火や爆竹でお祝いしたり、同じマンションの住民同士、敷地内で祝杯をあげたりした人もいた。すでに外出可能だった一部の人々の中には、街に出て記念写真を撮ったり、感慨にふけったりした人も多かったようだ。

あまりにも長すぎたロックダウン

上海市のロックダウンは、短い人は4月1日からで60日、長い人は3月10日過ぎからなので80日にも及ぶ。その間、多くの人はPCR検査のときを除いて、マンションから外出できず、たとえマンションの敷地内に出られるようになったとしても、散歩する程度の自由しか与えられなかった。

政府配給の食料は地区によって配達時期や量がまちまちで、不公平さがあらわになった。「団体購入」という制度で購入した物資が届くかどうかに一喜一憂したり、空腹で仕事が手につかなかったり、将来の不安にさいなまれるという人も多かった。

政府関係者や市民の間で自殺者が続出したり、コロナ以外の病人が病院で診てもらうことができずに亡くなったりするなど、悲劇も数えきれないほどあった。SNSでの敏感な投稿が政府によって削除されるという検閲が相次ぎ、政府への不満を口にする人が急増した。

そうした一方で、住民同士の物々交換が行われたり、若者がボランティアで高齢者の買い物を手伝ったり、同じマンションの住民同士でオンライン音楽会などを行ったりするなど、励まし合い、助け合いもあった。

ロックダウンの深刻な後遺症

だが、地方からの出稼ぎ労働者(農民工)の中には、仕事だけでなく住む場所さえ失い、経済的に困窮した人も少なくない。家賃が支払えず、撤退したり倒産したりした事業者、飲食店も多い。上海ディズニーランドには草が大量に生え、市内にある工場の施設や設備も傷んだ。

長期間、家にとじ込められるという未知の経験から強いストレスを感じ、うつ病などを発症した人もいて、精神面でのケアを必要としている人が増えている。

運動不足による筋力や体力の驚くべき低下、周囲の人々や家族との人間関係の悪化、政府への不信感、漠然とした不安感、孤独を訴える人もいる。それ以外にも、まだ表面化していない後遺症があるのでは、と心配されている。

前述のように、政府は経済復興のための支援策を実施する方針だが、人々の心の傷を癒すケアやサポートも必要だ。2500万人もの人々に課した2ケ月に及ぶロックダウンの影響は計り知れない。

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミアシリーズ)、「中国人のお金の使い道」(PHP研究所)、「中国人は見ている。」、「日本の『中国人』社会」、「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」、「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」、「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」、「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国などを取材。

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