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北京冬季五輪の開会式を見て、チャン・イーモウ監督の作品を無性に見たくなった日本人が続出した理由

中島恵ジャーナリスト
北京冬季オリンピックの開会式(写真:ロイター/アフロ)

チャン監督の演出に絶賛の嵐

2月4日、北京市の国家体育場で北京冬季オリンピックの開会式が行われた。コロナ禍で規模を縮小、時間も短縮して行われたが、開始直後から、日本のSNSでは「正直いって、開始5分で、もう東京五輪よりもずっとすばらしい!」「さすが、チャン・イーモウ(張芸謀)監督の総合演出だ。シンプルだけど、スケールが大きく、映像が美しい」などというコメントが次々と書き込まれ、大半が絶賛の嵐だった。

一方、中国のSNS、微博(ウェイボー)でも、開始30分後には「チャン・イーモウ監督は中国人の浪漫(ロマンチック)をよくわかっている」というセンテンスがホットワードランキングの第1位となるなど、SNSの上位は五輪関係の話題一色となった。

中国でも日本同様、総合演出をつとめたチャン・イーモウ監督の力量に、改めて注目が集まった。

「立春」を意識した演出に感動

とくに中国の1年間の季節の変化を表す「二十四節気」をテーマにしたことが中国人の心に強く響いたようだ。

中国のSNSではよく「今日は大寒」「今日は夏至」など二十四節気について触れる人が多い。

「今回の『雨水(うすい)』から始まり『立春』までを描く演出は見事。厳しい冬を乗り越え、春を迎えることを彷彿とさせるような緑の芽吹き、たんぽぽの綿毛などの映像に感動した」

「中国らしさ、中国の特色をよく取り入れてくれた。今回は第24回目の冬季五輪だし、開会式当日の今日(2月4日=立春)という日を生かした発想と展開に脱帽だ」という人が多く、中国でも「さすがチャン監督だ」という声が上がった。

チャン・イーモウ監督といえば、中国を代表する映画監督であることは、日本でもよく知られている。とくに50代以上の人々にとっては懐かしい作品が多い。

『紅いコーリャン』『初恋のきた道』

1987年に映画『紅いコーリャン』で監督デビューし、コン・リーとタッグを組んだことを皮切りに、『菊豆』、『紅夢』、『秋菊の物語』、『活きる』などの作品を次々と発表。『秋菊の物語』はヴェネチア国際映画祭で金獅賞を受賞した。

1999年にはチャン・ツィイー主演の『初恋のきた道』を撮り、ベルリン国際映画祭で審査員グランプリを受賞。その後、『HERO』、『LOVERS』などの武侠映画でも監督をつとめた。

チャン・イーモウ監督(中国の捜狐網より筆者引用)
チャン・イーモウ監督(中国の捜狐網より筆者引用)

日本との縁でいえば、2005年に高倉健主演の映画『単騎、千里を走る。』を思い出す人も多いだろう。チャン監督が長年憧れていた高倉氏にラブコールを送り、中国・雲南省を舞台にして、地元の人々との交流を描いた作品だ。

映画を彷彿とする色彩美

今回の五輪での演出は季節感をふんだんに取り入れ、雪の結晶を表現したり、鳩をモチーフにした灯りをかわいい子どもたちが持って登場するところなどから、日本のSNSでは「スケールは大きいけれど、温かみがある。色彩美もあり、どことなく『初恋のきた道』のワンシーンを思い出した」という声があった。

また、「2008年の夏季オリンピックのときは『HERO』みたいな派手さや力強さが全面に出ていたけれど、今回はシンプルで、余計なものがない、落ち着いた作品という感じだ」という声もあり、「もう一度、チャン監督の作品の数々を見たくなったな」という人が続出した。

日本のSNSでは、今回の開会式を目の当たりにした結果「東京五輪でも、忖度とかなく、もっと日本人らしい、日本ならではの演出ができていればよかった……」。そんな声も少なくなかった。

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミアシリーズ)、「中国人のお金の使い道」(PHP研究所)、「中国人は見ている。」、「日本の『中国人』社会」、「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」、「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」、「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」、「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国などを取材。

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