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中国の長者番付 ジャック・マーは第4位 第1位は? 日本人が知らない意外な大富豪とその経歴

中島恵ジャーナリスト
鍾氏が経営する企業の看板商品「農夫山泉」(中国のニュースサイトより筆者引用)

 3月2日、中国の経済誌『胡潤百富』(Hurun Report)が世界の長者番付を発表した。それによると、資産総額が10億ドル(約1070億円)以上の億万長者は、中国で259人増えて、初めて1000人を超えたことがわかった。

 世界の長者番付のトップ3は、テスラCEOのイーロン・マスク氏、アマゾンCEOのジェフ・べソス氏、LVMHのCEO、ベルナール・アルノー氏という著名人たちだったが、中国の長者番付には順位に異変が起きた。2019年と2020年にトップだったアリババのジャック・マー(馬雲)氏が第4位に陥落したのだ。

 マー氏に代わり、今回、第1位に輝いたのは、これまで長者番付に一度も載ったことがない鍾睒睒(Zhong shan shan=ジョン・シャンシャン)氏(67歳)という人物。鍾氏は中国の長者番付の第1位になっただけでなく、アジアでも首位、世界でもトップ7に食い込み、その躍進ぶりが注目を浴びた(ちなみに、すぐ上の6位はウォーレン・バフェット氏だ)。

 鍾氏といえば、彼が経営する会社のミネラルウォーター『農夫山水』が中国ではあまりにも有名で、全国津々浦々で販売されている。中国で、この水を飲んだことがない、という人はほとんどいないといえるだろう。しかし、日本では無名といっていい。そこで、鍾氏を含め、今回ランクインした富豪の経歴を簡単に紹介したい。

元土木作業員の大富豪

 第1位の鍾氏は1954年、杭州市生まれ。「農夫山水」社の創始者であり、現在は同社の会長兼社長をつとめている。化粧品などを扱う系列の養生堂会長でもある。今回発表された『胡潤百富』のレポートでは資産は約5500億元(約8兆8000億円)だった。

 中国のサイトによると、もともと伝統的な知識家庭に生まれたが、幼いころに文化大革命が起き、小学校を中退。左官業や土木作業員などの肉体労働を経験した。文革の影響で通常の学校生活は送っていないが、文革終了後に杭州の電気系の大学に進学した苦労人だ。鍾氏の年代(現在50代後半から60代後半)の人は、文革の影響を受け、十分な教育を受けられなかった人が多い。

 鍾氏はその後、雑誌社と新聞社の記者になった。記者時代に各地を飛び回り、500社以上を取材。そこでさまざまな知識を身に着け、幅広い人脈を築いたといわれている。1993年に養生堂を設立。その後、子ども向け飲料水や健康食品などのビジネスでも成功した。今回、第1位になった理由は、昨年、香港で上場したことが大きく影響している。鐘氏は同社株の80%以上を保有しているからだ。

ウィーチャットの生みの親

 第2位はテンセントの馬化騰(Pony Ma=ポニー・マー)氏(51歳)。テンセントについてはとくに説明する必要がないだろう。アリババと並び、日本でもよく知られた中国を代表する巨大プラットフォーマーである。時価総額は世界トップ10に入る。テンセントと双璧をなすアリババのジャック・マー氏と同じく馬という姓であり、2人の馬氏はよく比較される。今回発表された資産は4800億元(約7兆6800億円)。

 ポニー・マー氏は1971年、海南島生まれ。13歳のときに家族とともに深圳に移り住み、深圳大学を卒業した。エンジニアとして数年働いたのち、1998年にテンセントを創業。テンセントといえばメッセージアプリの「ウィーチャット(We Chat)」が代表的な存在で、日本でも中国関係のビジネスをやっている人なら、利用しているだろう。

 ウィーチャットの中国国内の利用者は11億人以上といわれており、これを使っていない中国人はほとんどいないといわれる。中国人社会を変えたとまでいわれるほどの神アプリだが、マー氏自身はあまり表面に出ないことで知られる。メディアのインタビューなども多くないが、中国のサイトによると「温和で物腰が柔らかい人物」と書かれている。社会貢献活動にも熱心に取り組んでいる。

80年代生まれを代表する成功者のひとり

 第3位は拼多多(ピンドゥドゥ)の黄ジェン(山へんに争)(Colin Huang=コリン・ファン)氏だ。ピンドゥドゥといっても、日本ではまだ一般的には名前が知られていないが、共同購入型ソーシャルECプラットフォームで、2015年の創業以来、快進撃を続けている。「中国版のグルーポン」と紹介される場合もある。

 黄氏は1980年、杭州市生まれのいわゆる「80后」(バーリンホー=80年代生まれ)で41歳。杭州といえば、アリババの本拠地であり、前述した第1位の鍾氏と同じ故郷だ。杭州で有名な杭州外国語学校(中国には国立の外国語中学・高校が各地にある)を卒業後、名門の浙江大学を卒業した。

 その後、米国ウィスコンシン大学で修士号を取得し、グーグルに入社。2015年に拼多多の前身となる拼好貨を設立した。上位3人の中では、最も若く、最も学歴が高い。絵に描いたようなエリートだといっていいだろう。資産は4500億元(約7兆2000億円)。

 ここまでが今年発表された富豪トップ3だ。ちなみに、第4位はアリババの馬雲(Jach Ma=ジャック・マー)氏(57歳)だった。前述したように、馬氏は2019年、2020年ともに中国の長者番付で第1位だったが、今回は昨年の独禁法問題が影響したといわれており、3年ぶりに首位から陥落し、そのこと自体がニュースになった。

ジャック・マー氏は優等生ではなかった

 馬氏のプロフィールについては日本でも報道されているが、1964年、浙江省の小さな町で生まれた。子ども時代に父母とともに杭州に移住。あまり成績がよくなく、中国の大学入試「高考」(ガオカオ)を3回受験したことは、広く語り継がれている。

 ようやく杭州師範学院(現在は大学)外国語学部に入学し、英語などを学んだ。英語教師として働いた経験もある。私は杭州師範大学の卒業生と知り合ったことがあるが、馬氏からの多額の寄付のおかげで、大学の施設は非常に充実していると聞いた。

 ランキングの5位以下を見てみると、今後、上位に食い込んできそうな、中国を代表する有名企業のトップがズラリと並んでいる。

 第5位は動画アプリ「TikTok」などを運営するバイトダンスの張一鳴氏、6位は物流大手「順豊」の王衛氏、7位は家電大手「美的」の何享健氏、8位は養豚・食品「牧原」の秦英林氏と銭瑛氏、9位はポリエステル大手「恒力」の陳建華氏と範紅衛氏、10位はネット企業「網易」の丁磊氏………という順位だった。来年は中国でどれくらい富豪が生まれ、順位がどれくらい入れ替わっているか楽しみだ。

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミアシリーズ)、「中国人のお金の使い道」(PHP研究所)、「中国人は見ている。」、「日本の『中国人』社会」、「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」、「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」、「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」、「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国などを取材。

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