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「今年の春節は帰省できないので……」40歳以下の中国人が春節を過ごす意外な場所

中島恵ジャーナリスト
各地ではすでに春節の準備が整っている(中国の百度サイトより筆者引用)

 今年は2月11日から始まる春節の大型連休。だが、新型コロナの感染再拡大を懸念する中国政府は「帰省自粛」を強く呼び掛けており、その影響で今年の帰省客は例年の3分の1に当たる約11億人にまで落ち込みそうだ。

 本来なら帰省や旅行をするはずだった人々(約20億人)は一体どこで、どのようにして大型連休を過ごすのか? 現地の報道などを見ていると、キーワードとして出てくるのは「酒店度暇」(ホテルでリゾート)という言葉だ。

 中国政府が繰り返し提唱しているのは「就地過年」(そこで年を越そう)。つまり、「今、住んでいる場所で過ごしてください」ということだ。日本の県に当たる「省」をまたぐ移動にはPCR検査の陰性証明が必要で、その上、現地で隔離される可能性もある。公務員などには「帰省自粛」ではなく「帰省禁止令」まで出ている。

 参考記事:「日本とはレベルが違う」中国人に春節帰省を諦めさせる北京政府の大重圧

 そのため、悩んだ挙句、楽しみにしていた実家にも帰省できず、海外旅行はもちろん国内旅行もほぼ絶望的。そこで、「せめて近場のちょっと豪華なホテルに数日間泊まって、リゾート気分くらいは味わいたい」と思う人々がホテルの予約に殺到しているのだ。

予約者の半数以上は1990年代生まれの若者

 中国の大手旅行会社である携程旅行(トリップドットコム)のデータによると、春節休暇中、4つ星以上の高級ホテルやリゾートホテルの予約は66.8%に上っており、大みそかまでの間にまだ伸びそうな気配だ。予約先で人気の都市は上位から順に上海、三亜(海南省)、北京、広州、蘇州、杭州、南京、大理(雲南省)、深圳、重慶(四川省)となっている。

 この中でいわゆるリゾート地は温暖な海南島にある三亜だけだが、他の大都市は、他の省からやってくるのではなく、地元に住む人々が、ふだんは泊まらない地元のホテルにわざわざ宿泊するということのようだ。

 しかも、予約している人の中で最も多いのは90后(ジウリンホー、1990年代生まれ)と呼ばれる20代を中心としたZ世代の若者たち。20代の予約だけで58.8%にも上っている。次に多いのが1980年代生まれの30代の人々で20.4%、2000年代生まれが9%となっており、ホテル宿泊者の大半が40歳以下の若い層という結果になっている。

「1週間もの長い休暇を家でじっとしていられない」「遠くに行けなくても、せめて、少しでも気晴らしがしたい」「友だちと一緒にホテルに泊まってワイワイ遊びたい」というわけだ。

 上記の携程旅行など中国のいくつかの旅行サイトを検索してみると、春節休暇に合わせた特別な宿泊プランがたくさんヒットする。一例として挙げると、以下のようなプランがある。

景観のよいツインタイプの部屋+2人分の朝食+温泉券+いちご狩り券 2人で648元(約9720円)

親子3人で宿泊できる部屋+3人分の朝食+遊園地の入園券+ミニバー 1388元(約2万800円)

ジュニアスイートの部屋+2人分の朝食+スキー場の入場券+温泉券 1588元(約2万3800円)

ツインタイプの部屋+2人分の朝食+2人分のアフタヌーンティーセット+スキー場入場券 1888元(約2万8320円)

各ホテルが打ち出している体験プラン(旅行サイト捜狐旅游より、筆者によるスクリーンショット)
各ホテルが打ち出している体験プラン(旅行サイト捜狐旅游より、筆者によるスクリーンショット)

 プランの料金はピンからキリまであるが、上海などの5つ星ホテルなら、通常でも日本円で最低1部屋3万円以上はするので、それに各種チケットもついてくる上記のプランは、かなりお得な内容となっている。

 中国でも新型コロナの感染が拡大した昨年以降、国内の出張者も減少し、ホテルはどこも青息吐息の稼働率となっているが、この時期、地元客に地元ホテルを利用してもらおうと、各ホテルではキャンペーン価格を打ち出している。

 通常、春節期間中は料金がかなりアップするが、今年に限り、春節期間のど真ん中でも料金は据え置きだ。そのため、予約は後を絶たず、中には1泊20万円、30万円もするスイートルームをカップルやファミリーで予約する人もいる。

国内のホテルでも体験プランが人気

 地方都市に行けば、上記のような「いちご狩り」などのほか、さまざまなアクティビティや体験プランも用意されている。中国人なら春節に必ず食べる定番料理は餃子だが、ホテルのシェフとともに餃子を手作りする「包餃子」プランや、中国の伝統的な切り紙づくりプラン、お正月に玄関に貼る「春聯」(赤い紙に縁起のよい対句を書いたもの)作りプランなどだ。ここ数年、海外旅行では買い物よりもグルメや体験などの「コト消費」が人気で、インバウンドでも同様だったが、中国国内のホテルでも体験プランは人気だ。

 また、若者をターゲットにした「電競酒店」の予約も多い。「電競酒店」とはネットカフェとホテルが一体化したようなもので、近年、中国でじわじわと増えている。高級ホテルなどとは雰囲気が異なるが、1日中ゲームに没頭したい若者たちの間で「家にいるよりゲームに没頭できる」と人気になっている。

 今年の公式な休暇は11日~17日となっているが、すでに1月末から休暇に入っている人も多く、中国のSNSを見ていると、早くもホテルにチェックインして「ホテルでリゾート気分」を味わっている人が多い。ホテルのほうも「実家にいるようにくつろげる雰囲気」を提供したいとしており、どこにも行くことができない人々のストレス解消先として注目されている。

 上海に住む筆者の友人は「実家に帰って、万が一、春節期間中にロックダウンされるようなことがあったら、両親だけでなく、職場にも迷惑をかけてしまう。だから、今年はどこにも行けない。でも、せっかくのお正月。感染対策をしっかりとしたホテルなら安心安全だし、ホテル泊は1年間、コロナ禍で働いた自分へのご褒美だ」と話している。

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミアシリーズ)、「中国人のお金の使い道」(PHP研究所)、「中国人は見ている。」、「日本の『中国人』社会」、「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」、「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」、「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」、「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国などを取材。

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