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ノー充電で動く次世代スマートウォッチ「MATRIX PowerWatch」にみる温度差発電社会

武者良太ガジェットライター
肌表面温度とケースの温度差で発電するスマートウォッチ。(筆者撮影/作製)

 日々の運動量などを記録してくれる「スマートウォッチ」は便利だが、頻繁な充電を行わねばならないものが多い。さらに1年、2年と使っているうちにバッテリーが消耗し、フル充電でも半日すら持たなくなるケースがある。

 MATRIX INDUSTRIES(アメリカ・カリフォルニア州)が開発した「MATRIX PowerWatch」は、充電というフローをなくした「スマートウォッチ」だ。どのように電力を供給するのか。その答えは装着するユーザーの体温。「MATRIX PowerWatch」は底面部のパネルに接している人体の肌温度と外気温(ケース上面の温度)の差から発電を行い、消費カロリー計測、歩数計、睡眠量計としても使える時計として動作する。

 元来、人体は通常状態でも100Wの発電力を持つらしい。アスリートが競技を行っているときは1kWにまで発電力が上がるともいわれているそうだ。

 同社は温度差発電ソリューションを軸とした企業であり、時計メーカーではない。しかし技術力をアピールするには「スマートウォッチ」が適していたのだろう。2016-2017年に行われたクラウドファンディングでは、目標額を大幅に超える約165万ドル(約1.8億円・達成率938%)の資金を調達した。

肌温度を測る底面部の裏蓋はアルミニウム製。(筆者撮影/作製)
肌温度を測る底面部の裏蓋はアルミニウム製。(筆者撮影/作製)

 高効率な熱発電デバイス、高効率な昇圧技術、外気温が高くとも常に肌温度との差が出る排熱技術。「MATRIX PowerWatch」はこの3つの技術を組み合わせ、常に1度以上の差を発生させることで「スマートウォッチ」の各機能を使えるようにした。

ケース上部と下部にスリットがあり、余分な熱を排出する構造になっている。(筆者撮影/作製)
ケース上部と下部にスリットがあり、余分な熱を排出する構造になっている。(筆者撮影/作製)

 熱発電デバイスは世界で最も効率がいいICとのこと。また昇圧回路も従来より2倍の効率があるという。しかし肌温度と外気温が1度差の場合、発電効率は1%にとどまるという。キーとなるのは温度差および肌との接触面積であり、寒いときに運動をする、肌に接している裏蓋の面積を広くすることで発電効率は高まる。とはいえ、腕時計の性格上、裏蓋の面積拡大は難しい。

 同社の狙いは、「MATRIX PowerWatch」で示した技術の拡大・応用なのだろう。

 従来の温度差発電システムは効率が悪く、ほかの発電システムと比べてコストがかかる。また大掛かりなものとなることから、温泉地などで利用しようにも景観が悪くなると反対派が多いと聞く。しかし温度を受け取るパーツの面積を拡大すれば、「MATRIX PowerWatch」の技術でコンパクト・高効率な発電システムが構築できるという期待がある。

 例えば建築物の外壁はどうだろうか。日向と日陰、エアコンで冷やした/温めた室内と外気温の差によって発電できるようになるのであれば、建築設計のありかたが変わっていくかもしれない。

 低消費電力なIoTセンサーや屋外無線LAN基地局などとの組み合わせも考えられる。電源インフラがない場所でも各種機器を設置できるようになれば、農業や林業といった広大な地を使うビジネスも大きく変貌するだろう。

 太陽光パネルと比較して経済性がどれだけ担保できるか。それは同社のこれからの活動次第によって見えてくるはずだ。

ガジェットライター

むしゃりょうた/Ryota Musha。1971年生まれ。埼玉県出身。1989年よりパソコン雑誌、ゲーム雑誌でライター活動を開始。現在はIT、AI、VR、デジタルガジェットの記事執筆が中心。元Kotaku Japan編集長。Facebook「WEBライター」グループ主宰。

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