3月12日に札幌ドームで行われた北海道コンサドーレ札幌対横浜F・マリノスの後に、株式会社コンサドーレの野々村芳和会長の退団セレモニーが行われた。

野々村氏は3月15日に行われる理事会で、正式にJリーグのチェアマンに就任する。

退団セレモニー後、札幌の選手やスタッフが両脇に並んで「花道」を作り、拍手をしながら見送った際、野々村氏は感極まって涙した(そのシーンはこちら)。

普段は飄々としている野々村氏が、人前ではばからずに涙を見せるのは珍しい。少なくとも筆者は彼の泣いている姿を見るのは初めてだった。

コンサドーレに対する積年の思いが溢れ出たのだろうか――。札幌サポーターとして、お別れの場所に居合わせることができたことを嬉しく思う。

当コラムでは9年間、社長としてクラブを引っ張ってきた野々村芳和氏がコンサドーレに残した功績について解説する。

新しいことにチャレンジして残した成果

まず最も目立つ実績は、就任初年度からのクラブの売上を3倍強(10.7億円→36.0億円)にまで成長させたことだ。

ひとつ前のコラムでも解説したが、成長の要因には彼が取り組んできた様々な施策がある。

・どのJクラブよりも先にアジア戦略を遂行し、東南アジアでの基盤を確固たるものにした

・博報堂DYMPと長期契約を結び、北海道内での地上波生中継を定着化させた

・パリコレで何度もショーを発表しているデザイナー相澤陽介氏をクリエイティブディレクターとして登用し、グッズ販売のテコ入れを実施した

常に新しいことに挑戦し続けてきた成果と言えるが、これらの施策以外に最もインパクトを残したと筆者が考えることがある。

野々村氏の一番の功績は「サポーターに当事者意識を植え付けたこと」。これに尽きると思う。

サポーターのアイデンティティをくすぐるメッセージ

就任初年度の2013年から野々村氏が言い続けてきたメッセージがある。

「コンサドーレを応援してくれるサポーターのことを僕は、一緒にクラブを作り上げていく"パートナー"だと思っている」

単にお客さんに向けて「試合に来てください」「応援してください」と無機質に伝えるのではなく、共にクラブを作り上げていきましょうというメッセージを伝え、サポーターのアイデンティティをくすぐるアプローチを取った点が何よりも大きかったのではないか?

実際にJ2中位で停滞していた2015年シーズン、野々村氏は「コンサドーレ札幌の未来を考える会」と題して、試合前に90分間サポーターとビジョンを共有するための会合を開催した(当時の動画はこちら)。

この会で野々村氏は、クラブの予算規模とリーグ戦順位は比例すること、J1昇格のためにはクラブの規模を大きくしなくてはいけないこと、そのためにはサポーターの協力が必要なこと、等を順を追って懇切丁寧に説明した。

他にも個人的に野々村氏から直接聞いた話で、印象的なメッセージがある。

2014年リオデジャネイロ五輪前、オリンピック代表候補だったMF荒野拓馬について、「拓馬は俺たちが育てたと、サポーターは胸を張って言ってください」と伝えていた。

下部組織からの生え抜きの選手はまさにサポーターが長年応援してくれたおかげで実を結んだ成果であって、年齢層の高い札幌サポーターに向けた、親心をくすぐるアプローチだなと感心した記憶がある。

スポンサー企業からも顧客ロイヤルティが高いと評判

サポーターにクラブを共に作り上げていく当事者意識を植え付けながら、この9年間でコンサドーレはJ1昇格&J1定着を果たした。

サポーターも頑張った分だけ、クラブが右肩上がりで成長をしていく過程を体感できたわけで、コンサドーレのリアルな「物語」を一緒に紡いでいく当事者の実感を持てているように思う。

ユニフォームの胸スポンサーの石屋製菓社長も「札幌サポーターの顧客ロイヤルティはものすごく高い」と太鼓判を押している(3年前のインタビュー記事はこちら)。

今季のコンサドーレのキャッチフレーズは「継承」だ。

野々村氏がいなくなった後のコンサドーレを心配する声が多々聞こえてくるが、彼が9年かけて定着させた、クラブとスポンサー企業とサポーターのトリプルウインの関係があれば、心配は無用だと考える。

野々村氏には、今後はJリーグチェアマンとして日本サッカー界の更なる発展に向けて、健康に気を付けて尽力してほしい。

コンサドーレをここまで魅力的なクラブにしてくれて、ありがとうございました。また会う日まで。いってらっしゃい!