Yahoo!ニュース

新学期が始まる今がチャンス 親子でスマホやゲームのルールを見直してみましょう

森山沙耶ネット・ゲーム依存予防回復支援MIRA-i 臨床心理士
(写真:Paylessimages/イメージマート)

いよいよ4月の新学期が始まります。進級や進学にあわせ、それぞれの家庭でも新しい生活サイクルが始まるこの時期にこそ、家庭内で決めている「子どものスマホやゲームの使い方に関するルール」を見直してみるというのはいかがでしょうか。

本記事では、それらのルールを見直す際に意識すべきポイントについて、解説をしていきます。家庭内でまだルールを設けていない方、子ども用のスマホやゲームを初めて購入するという方も、ぜひ初めてのルールづくりの参考としていただければと思います。

親子で一緒にルールをつくる

未就学児など低年齢の子どもに関しては、できるだけデジタルデバイスを使用する時間や機会は少ない方が望ましいため、保護者が主導して管理していくことが大切です。

しかし小学校高学年以降、特に思春期に入ってからは、子ども本人の意思も強くなります。友人関係にスマホやゲームが入り込んでいる場合も多いため、保護者のみでルールを決め、それに従わせる形で管理をしていくというのは困難でしょう。

だからこそ重要となるのが、子どもにも主体的にルールづくりに参加してもらうことです。「親子で一緒にルールをつくる」という作業を丁寧に行うことは、子どもが自律的にスマホやゲームをコントロールする力を育むことにつながります。また、親子でのコミュニケーションも密になり、お互いへの信頼関係が生まれることでしょう。

スマホ・ゲームの使用現状を客観的に振り返る

「ゲームは1日1時間まで」「夜は21時にスマホを親に預ける」といったルールは、たしかに理想的かもしれません。しかし、仮に現状夕食後から寝る前までずっとゲームをしていたり、寝る寸前までスマホで友達と連絡をとっていたりしている子どもに、明日からすぐに理想のルールに則した生活を強いるというのは、現実的ではありません。

例えば、お菓子が大好きな人がダイエットのために「明日からお菓子を一切食べない」と決めたとしても、達成できるのはせいぜい1日や2日。結局は三日坊主で終わってしまったというケースは非常に多いと思います。いきなり極端なルールを設定するのではなく、「今どれくらいお菓子を食べているのか」を客観的に把握した上で、出来る範囲で量を減らしていくやり方のほうがずっと現実的ですし、効果も期待できるでしょう。

スマホやゲームの使用を制限したい場合も同様です。まずは実際の使用時間や頻度を客観的に振り返ることから始めるようにしましょう。

そしてその際は、現在のスケジュールを紙に書き出してみたり、円グラフにしてみたりすることをお勧めします。言葉だけのやり取りでは主観的になってしまいやすく、親子で認識のずれも生じやすくなってしまいます。紙に書き出すなど可視化することにより、対立した会話となることが避けられると同時に、お互いが客観的に振り返ることができるようになるでしょう。

また、振り返りの中で「この時間はスマホを使っていないね」などの発見もあるかもしれません。そのような子どもの良い点や頑張っている点を見つけたときには、ぜひ本人に伝えてあげるようにしてください。

スマホ・ゲーム使用を振り返るため1日の生活を円グラフ化したイメージ図(筆者作成)
スマホ・ゲーム使用を振り返るため1日の生活を円グラフ化したイメージ図(筆者作成)

スマホ・ゲームについて理想の使い方を描いてみる

現状の振り返りが終わったら、次は理想的な使い方を具体的に描いてみましょう。このとき重要なのは、保護者の理想を先に伝えるのではなく、まずは子どもに問いかけ、自分で考えてもらうことです。

米国のミラーと英国のロルニックによって開発された「動機づけ面接法」という対人援助の領域で用いられるカウンセリング技法によると、行動を変容することに対するその人自身への動機づけとコミットメント(約束)を強めるためには、「協働的なコミュニケーション」をとることが必要だとしています。

例えば「〇〇についてどう思う?」といった「はい」や「いいえ」で答えられない「開かれた質問」を用いることは、質問された相手が持っている行動変容へのアイデアや動機づけを引き出すきっかけになるとされています。

「子どもに自由に考えさせたら、好きなだけゲームをしたいという希望を話すだけではないだろうか」と、不安になる方もいらっしゃると思います。

しかし、実際に筆者が行うカウンセリング等でも、子どもに「どんな生活を送れるとよいかな?」と尋ねてみると、勉強や睡眠リズムなどバランスのとれた生活スケジュールを描くことが多く、驚かされます。むしろ、子ども自身がその理想を高く持ちすぎるあまり、現実の行動に結びついていないことに対して自信を失くしている、という場合も珍しくありません。

だから、もし自分の子どものゲーム時間が多いのではないかと感じたとしても、すぐさまそれを否定したり批判したりするのではなく、まずは「今のあなたにとってゲームはとても重要なんだね」というスタンスで接してあげてください。その上で、親としての懸念点を伝えつつ、どうすればもっと良くなるかを子どもにも尋ねながら、一緒に工夫を考えていきましょう。

現状から理想に近づくための方法やルールを考える

■現実と理想とのギャップを考える

理想の使い方を描いたら、その理想と現実の間にどのようなギャップがあるかを考えてみてください。

例えば、理想は「ゲームを始める前に宿題に取り掛かり、21時にゲームをやめる」だとして、現実には「宿題には手をつけず、23時ごろまでゲームをしている」だった場合を考えてみましょう。

ここではまず、理想の状態に近づくことを妨げている原因を考えてみるのがいいでしょう。仲の良い友人もオンラインで一緒にゲームをしていてやめられないとか、宿題が多すぎて面倒なので手がつけられないなど、いくつかの具体的な原因が見えてくるはずです。

■取組をスモールステップで考える

具体的な原因が見えてくれば、その解決策も考えやすくなります。

仲の良い友人に相談して開始時刻や終了時刻を決める、自分が先にゲームをやめることを伝える練習をする、宿題の中でまず取り掛かりやすいものから始める、とりあえず1ページでもできたらOKとする等、解決策は無数にあるはずです。

そして、理想の使い方に近づけるためには、スモールステップで取り組んでいくことも大切です。

例えば23時だったゲームの終了時間を21時に短縮させることは、いざ実行するとなると意外に難しいはずです。だから、まずは30分だけ時間を短くしてみる、それができるようになったらさらに30分、というように達成可能な範囲でのステップを設定していきましょう。子どもにとっては「達成できた!」という体験そのものが自信になり、次もやってみようという意欲につながっていくからです。

定期的に振り返る

親子間でしっかりルールを決めることができたとしても、そのルールが最初から完璧なものとは限りません。しばらく運用しているうちに、現実に合っていないと気づくこともあります。また、子どもか親、あるいは双方が不満を溜めている場合もあります。

そこで、定期的にルールについて振り返る機会をつくり、うまくいっている点や改善点について話し合っていくことも大切となります。

ルールを決めたのに守れないという場合の多くは、子どもの意思が弱いわけでも、親の期待に応えようという意思がないわけでもありません。そもそものハードルが高すぎたり、やり方がその子どもに合っていなかったりするせいです。だから、ルールを守れていないからと子どもを責めるのはなく、ハードルを下げるか、本人に合ったより効果的な方法を考えてあげるようにしてみてください。

おわりに

スマホやゲームの話を持ちかけた途端、反発されたり拒否されたりでなかなか一緒にルールを決められないという場合もあるでしょう。その場合は焦らず、まずは親子のコミュニケーション量を増やし、関係をより良くしていくことが必要になります。

スマホやゲームの話題を直接持ちかけるのではなく、新学期に入ってどんなことをしてみたいのか、楽しみにしていることは何か、といったことから聞いてみるのもよいでしょう。その「やりたいこと」の時間をどう取るかという話題から、スマホやゲームの使い方を見直すきっかけが生まれるかもしれないからです。

〈引用・参考文献〉

北田 雅子・磯村 毅(2016).医療スタッフのための動機づけ面接法 医歯薬出版

ネット・ゲーム依存予防回復支援MIRA-i 臨床心理士

臨床心理士、公認心理師、社会福祉士。一般社団法人日本デジタルウェルビーイング協会代表理事。東京学芸大学大学院教育学研究科修了後、家庭裁判所調査官を経て、病院・福祉施設にて臨床心理士として勤務。2019年 独立行政法人国立病院機構 久里浜医療センターにて「インターネット/ゲーム依存の診断・治療等に関する研修(医療関係者向け)」を修了後、同年 ネット・ゲーム依存予防回復支援MIRA-i(ミライ)を立ち上げ。現在はネット・ゲーム依存専門のカウンセリングや予防啓発のための講演・セミナー活動を行う。2021年から特定非営利活動法人ASK認定 依存症予防教育アドバイザー。

森山沙耶の最近の記事