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複利のマジックがマジックであるわけ

森本紀行HCアセットマネジメント株式会社・代表取締役社長
すべての画像:123RF

 利息の上に利息の利息が生まれ、その上に更に利息が生まれる、これが複利効果です。複利を長期間続けると利息は巨額に達しますが、この複利のマジックの裏に債券投資の本質があるわけです。

金利の表示方法の原則

 金利の表示方法には多くの問題があります。例えば、金利は期間に対応していますが、闇金融のトイチというのは、10日で1割、即ち、1日につき1%という金利ですから、1年365日とすれば、年率365%という法外な金利になります。

 また、表面的には同じ10%の金利でも、約定において、金利を後払いにするのか、前払いにするのかで、実効金利が違ってきます。後払いでは、先に100を受け取り、後で110を弁済するのに対して、前払いでは、100から先に10が控除されて90を受け取り、後で100を弁済するので、後払い換算では11.11%の金利となります。

 そこで、資金の貸借の契約は当事者間で任意に定め得るとしても、債務者が不当に高い金利を支払う事態の防止のためには、金利の表示に関する原則が必要になります。その基本中の基本は、年率換算表示と後払い換算表示です。

複利約定における金利表示

 複利とは、利息の上に利息が発生することです。それに対して、単利とは、利息の上に利息が発生しないことです。例えば、トイチの解釈として、10日で1割だから、1日1%であり、1年で365%であるというのは、単利の考え方です。しかし、実際には、違法な闇金融におけるトイチは、複利約定であると考えられます。

 トイチとは、100を借りると、10日後の元利合計が110になることです。つまり、100は、10日間で1.1倍になるわけです。複利約定のトイチにおいて、10日後の110の弁済がなければ、更に10日後には、110は1.1倍の121になります。こうして、弁済がないままに1年を経過すると、1.1倍が36.5回転するので、元利合計は3242になります。複利約定のトイチの金利を適正に年率換算表示すれば、3142%になるということです。

複利のマジック

 複利の場合、回転数が重要で、回転数が多いほど、金利が高くなりますが、この回転数の効果は、複利のマジックと呼ばれています。トイチの場合は、10日に1回転するので、極端に高い金利になるわけです。普通の約定でも、利息の支払いは半年に1回とされ、それを複利にすれば、1年に2回転するのですが、ここでは、単純化のために、年に1回転、即ち、年数と回転数を同じにしておきます。

 5%の金利で、10年間、100を複利回転すると、元利合計は163になりますが、その内訳は、元本100、利息50、利息の利息13です。5%で30年間だと、元利合計432になり、その内訳は、元本100、利息150、利息の利息182です。こうして、年数が長くなる、即ち、複利の回転数が多くなると、飛躍的に利息の利息が大きくなるのであって、このマジックが複利のマジックと呼ばれる理由なのです。

債券投資における再投資リスク

 債券の投資理論において、主題をなしてきたのは、利回りの表示方法と、利息の再投資の問題です。債券の利回り表示には、各国に固有の慣習があり、同じ国でも債券の種類によって異なる場合があるのですが、債券の投資理論においては、複利が用いられていますし、また、投資理論一般においても、投資収益率の測定には複利が使われています。

 つまり、債券の利息の支払いは、世界的に、半年に1回が原則で、実際に現金で支払われますが、5年債の利回りが5%であるということは、理論においては、満期よりも前に9回支払われる利息は全て5%の利率で再投資されるとの仮定に基づいているわけです。しかし、現実には、仮定通りになりませんから、実際の投資収益率は、利回りとは異なるわけで、この差異の生じる可能性は、再投資リスクと呼ばれています。

ゼロクーポン債

 クーポンとは債券の利息のことで、ゼロクーポン債というのは、満期まで利息が支払われない債券、即ち、元利合計が満期時に一括して支払われる債券のことです。例えば、満期5年のゼロクーポン債が80の価格で発行されて、100で償還されるとしたら、差額の20が5年分の利息になるのです。

 80が100になるということは、100が125になるのと同じですから、単利で考えれば年率5%ですが、理論では複利約定と解釈しますから、年率4.56%です。そして、この4.56%という利回りは、満期まで保有する限り、実際の投資収益率に一致します。つまり、再投資リスクはないのです。利息が支払われない以上、その再投資はあり得ないので、当たり前のことではあります。

複利のマジックと再投資リスク

 複利のマジックは数字のマジックです。つまり、先の例で、5%クーポンの30年債が5%で複利回転すれば、100が432に増殖するのですが、そのうちの182が利息の利息なのですから、仮に、再投資金利がゼロであったとすれば、182の全てが失われて、100が250にしかならないので、それを複利で開けば、年率3.10%になってしまうのです。

 理論においては、5%クーポンの30年債の期待投資収益率は複利回転を前提にしていて、それを単利に換算すれば、432から元本100を控除した332を30で除した値である11.07%になるわけです。しかし、事実として、5%クーポンの30年債の単利は5%なのであって、常識的にも5%の投資収益率を約束するものです。この理論と常識との乖離こそ、複利のマジックがマジックである理由です。

 もちろん、理論と常識の乖離は、債券の理論に限らず、どこにでもあることで、重要なことは、常識の視点において、理論が前提にしていることを正しく理解することです。債券の理論の場合は、利息の再投資に関する前提を正確に理解することが必要なのです。

理論の前提についての正しい解釈

 例えば、30年債は、29年後には1年債になっていて、そのときの利息は、1年物の金利で再投資されると考えるのが自然ですが、複利利回りの計算においては、30年債だったときと同じ金利で再投資されることになっています。これは理論が間違っているということではなく、単に、理論には、そのような単純化された仮定が置かれているというだけのことで、その理論の仮定を承知して、投資判断すればいいわけです。

 債券の理論は、投資の理論の一部で、投資の理論は経済学の基礎理論に基づいていますから、当然に、一物一価が基本概念になっています。例えば、2年間の投資期間については、1年満期の債券に投資して、1年後に償還金を1年満期の債券に再投資する方法と、2年満期の債券に投資する方法とがあり得ますが、2つの選択肢は、経済効果が同じなので、一物一価により等価でなければならないというわけです。この理論的前提が正しいかどうかは、どうでもいいことですが、この前提がもつ帰結を正しく理解することは、極めて重要です。

 横軸に満期までの年限、縦軸に金利水準をとった曲線は、イールドカーブと呼ばれますが、イールドカーブは、右肩上がりになる、即ち、年限が長いほど金利が高くなることが多いのです。このとき、1年債の金利よりも2年債の金利のほうが高いので、先の等価の前提では、1年後に、1年債の金利は上昇していることが仮定されているわけで、このことの理解は、イールドカーブの形状解釈にとって、重要な意味をもちます。

債券投資の要諦

 1年債に投資すれば、1年後には、元本が償還されるので、大きな金額の再投資リスクを負いますが、2年債に投資すれば、利息についての小さな再投資リスクを負うだけです。故に、等価とはいっても、理論的には、この再投資リスクの差を調整したうえでの等価だと考えるほかありません。しかし、どのようにリスクの差が調整されているのかは、容易に理解できることではなく、この微妙なところに、債券投資の理論の要諦があるのです。

HCアセットマネジメント株式会社・代表取締役社長

HCアセットマネジメント株式会社・代表取締役社長。三井生命(現大樹生命)のファンドマネジャーを経て、1990 年1 月ワイアット(現ウィリス・タワーズワトソン)に入社。日本初の事業として、年金基金等の機関投資家向け投資コンサルティング事業を立ち上げる。 2002 年11 月、HC アセットマネジメントを設立、全世界の投資機会を発掘し、専門家に運用委託するという、新しいタイプの資産運用事業を始める。東京大学文学部哲学科卒。

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