スルガ銀行は金融庁の行政処分で命運尽きたか

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 金融庁は、10月5日に、スルガ銀行に対する行政処分を発表しましたが、予想された通り、非常に厳しい内容のものでした。また、これより前の9月7日に公表されている第三者委員会の調査報告書と比較すると、視点や事象の評価において、かなり異なっていて、今後の取締役等の責任追及にも少なからざる影響を与えるものと思われます。さて、金融庁の見立てはどうなっているのか。

取締役会の責任

 金融庁は、行政処分の理由として、六点の問題を挙げ、最後の七点目において、六点の問題の根底に存在する企業文化とガバナンスの欠陥を指摘し、特に取締役会について次のように述べて文書を締め括っています。

 「また、取締役会は、特定の役職員に営業方針や施策を任せきりとなり、その内容や結果だけでなく自行の貸出ポートフォリオの構造すら把握せず、適切に監督機能を果たさないなど、経営管理(ガバナンス)に問題があったことも、問題発生の要因と認められる。」

 行政処分としては、業務改善の命令が出されているわけで、そこでは、具体的に、「今回の処分を踏まえた経営責任の明確化(厳正な判断が期待できる社外の第三者による客観的な検証体制の構築及び責任追及を含む)」が要求されているのです。

 いうまでもなく、「今回の処分を踏まえた経営責任の明確化」なのですから、上記の取締役会の機能不全にかかわる金融庁の認定を踏まえたうえで取締役の責任追及がなされるのであって、この金融庁の指摘は、今後の展開において極めて重大な影響を与えるものとなるのです。

 なお、スルガ銀行においては、行政処分を受けるよりも前に、9月7日に第三者委員会調査報告書が公表された翌週の14日に、「取締役等責任調査委員会」が設置されていて、金融庁の命令にそった対応が既になされています。その調査結果は11月に公表予定とのことです。

第三者委員会との見解の相違

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 第三者委員会報告書は、取締役の内部統制システム構築義務について、次のように述べていました。

 「取締役会として関与すべきレベルの制度あるいは組織としては、外形上、「通常想定される不正行為を防止し得る程度の管理体制」が整備されていなかったとはいえないものと思料する。現実にこれらの制度が機能しなかったことは、運用上の問題である。スルガ銀行の場合、大きな特徴は、形式だけはきちんと整っていることが多く、その本質が空洞化しているのである。

 よって、取締役(会)については、内部統制構築上の善管注意義務違反は認められない。」

 こうして、この報告書は、内部統制システムの構築にかかわる義務と、その運用にかかわる義務を区別し、構築にかかわる義務については、善管注意義務違反はないとしたうえで、運用にかかわる義務については、取締役ごとに検証して、多くは報告の懈怠に関する個別の善管注意義務違反を認定しているのです。

 この論理は、専門家の技巧的な法律論としてはあり得るのかもしれませんが、形式が整ってさえいれば中身がなくとも内部統制システム構築義務が果たされるとすることは、社会常識には著しく反したものです。これに対して、金融庁のほうが常識的で、取締役会が機能していなかったことを端的に問題視しているのです。

社外取締役の責任

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 執行部門を管掌する取締役は、当然のことながら、執行部門における責任が厳しく追及されることになるわけですけれども、それは取締役としての責任追及とは、次元の異なる全くの別問題です。

 取締役としての責任については、報告書は、取締役会に対する報告の懈怠を問題にしているわけですが、執行部門を管掌しない社外取締役は報告すべき情報すらないのですから、その責任を問題とされる余地がなく、結局、免責されています。報告書の論理の技巧は、要は、社外取締役の免責を確保するものだといわざるを得ません。

 しかし、金融庁の行政処分では、端的に取締役会の機能不全にかかわる責任を追及すべきだとしていて、そこに社外取締役の責任を含むことは自明ですから、「取締役等責任調査委員会」として、第三者委員会報告書と同じ論理構成を維持できるかどうかは、大いに注目に値する点だと思われます。

内部監査に関する見解の相違

 内部監査についても、金融庁は、第三者委員会報告書とは少し異なる見解を示していて、「監査部は、一連の不正行為に関して、融資方針や施策、ポートフォリオの構造変化などに対するリスクアセスメントを行っておらず、事務不備点検に重きを置いた監査にとどまっており、不正の兆候を発見できていない」と指摘しています。

 この指摘と同様のことは第三者委員会報告書でもなされていますが、そこでは、現在のスルガ銀行の社長で、その前は内部監査部門を管掌していた有國取締役の責任を認定する関係で言及がなされていて、結論として、リスクベースアプローチの射程の限界を理由に、その責任が否定されていたのです。

 ところが、金融庁の論旨だと、適正な「リスクアセスメント」によって「不正の兆候を発見」できたはずだということになっていて、リスクベースアプローチを適正に用いていたとしても「不正の兆候を発見」できたとは限らないとした報告書に対して、金融庁は異なる見解を示していると考えられます。

 なお、銀行の内部監査やリスク管理におけるリスクベースアプローチについて、専門的知見を有さない第三者委員会と、監督官庁としての高度な知見を有する金融庁とでは、結論が異なったとしても不思議はないわけですが、では、どちらの見解を尊重すべきかといえば、一般的な見方として、やはり金融庁のほうではないでしょうか。

創業家との断絶

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 金融庁は、創業家のファミリー企業との関係や、反社会的勢力との取引の管理態勢にまで言及しています。金融検査と第三者委員会の調査とでは、目的も範囲も異なるわけで、この行政処分のほうは、より深く、より適切に、スルガ銀行の経営風土の頽廃を表現しているものと考えられます。特に、創業家およびファミリー企業との特異な関係について、行政処分が抜本的な改革を要求していることは注目されます。

 なかでも、「本来であれば、将来の経営改善の見込みや経営支援の必要性について取締役会や経営会議において議論した上で決定すべきであるにもかかわらず、実際は一部の経営陣のみで決定しており、与信管理及びガバナンス上の問題が認められる」という指摘は、「当行が融資を実行したファミリー企業が別のファミリー企業に対して転貸した資金の回収可能性がなく、大幅な債務超過となり破綻懸念先に該当し」という指摘とともに、極めて深刻かつ重大な責任問題に発展すること必定です。

 そして、「当行の営業用不動産の所有・管理や当行の株式の保有等を行い、創業家の一定の影響下にある企業群(ファミリー企業)との取引を適切に管理する態勢の確立」を求める厳命を受けた以上、スルガ銀行として、関係の事実上の断絶にまでに至らない限り、完全な命令の履行を証明し得ないのではないでしょうか。

誰が被害者なのか

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 さて、金融庁は、「シェアハウス向け融資及びその他投資用不動産融資に関して、金利引き下げ、返済条件見直し、金融ADR等を活用した元本の一部カットなど、個々の債務者に対して適切な対応を行うための態勢の確立」を求める命令を出しているわけですが、「金利引き下げ、返済条件見直し、金融ADR等を活用した元本の一部カットなど」というのは、極めて個別具体的な命令であって、その具体性において行政処分としては異例かもしれません。

 しかも、ここには、極めて微妙な問題が伏在している可能性があります。つまり、この命令は、スルガ銀行側の不正な行為によって、債務者が損失を受けたことを前提にしているとしか考え得ないのですが、その論理構成は必ずしも容易ではないと考えられるのです。

 なぜなら、処分理由として、金融庁は、「当行では、投資用不動産融資を扱う相当数の営業職員が、チャネルによる上記の不正行為を明確に認識、もしくは少なくとも相当の疑いを持ちながら業務を行っていた。中には、当行営業職員が、チャネルに対して不正行為を能動的に働きかけて改ざんを促す事例や、自ら改ざんを行った事例も認められた」としているのですが、このくだりを読む限り、むしろ、これは融資詐取に近い事案であって、スルガ銀行が被害者であるとも構成し得るからです。

 つまり、チャネル、即ち不動産関連業者がスルガ銀行の幹部職員を含む多くの行員と共謀し、詐欺的手法、もしくは偽計によって、同行から不正に多額の融資を引き出したことが事案の本質であって、その結果として、債務者は意図せざる損失を蒙ったというふうに理解するほかないと考えられるわけです。

 では、なぜ、スルガ銀行は、「金利引き下げ、返済条件見直し、金融ADR等を活用した元本の一部カット」によって、その損害の一部を補償しなければならないのか、スルガ銀行もまた被害者ではないのか、このあたりの論理構成が決して簡単ではないということです。

 おそらくは、スルガ銀行も被害者であるにしても、幹部職員を含む多くの行員の不正行為について、取締役を含む多くの行員が認識していたにもかかわらず、不正を防ぎ得なかった内部統制の欠陥こそが本質的な原因であって、スルガ銀行として、債務者の損失を補償する責務を免れないというのが金融庁の論理構成かと推察されます。

 この金融庁の論理が法律的に有効かどうかは、今後の展開を待つほかないのですが、刑事事件への立件を含めて、今後、舞台を司法に移して検討が進んでいくことは不可避ですから、そこで、問題の本質が明らかになっていくのでしょう。

スルガ銀行に未来はあるか

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 金融庁は、処分理由として、スルガ銀行の根本的問題について、「創業家が実質的に当行を支配する中、審査態勢に不備が認められる営業優位の組織を構築する一方で、営業現場を放置したため、営業現場では、創業家の後ろ盾を得た特定の執行役員が、厳しい業績プレッシャー、ノルマ、叱責等で営業職員を圧迫した結果、法令等遵守を軽んじ不正行為を蔓延させる企業文化が醸成されたことが認められる」としています。

 そして、上記事態の完全な解消を目的として、個別の業務改善命令を発した後に、「持続可能なビジネスモデルを構築するための経営管理態勢の抜本的強化」という総括的な命令を出しているのですが、これまでのスルガ銀行の収益基盤だったところを全否定した後に、今後の「持続可能なビジネスモデル」として何が残されているのか大いに疑問です。

 しかも、少なくとも、「持続可能なビジネスモデル」に関する限り、短期間で計画を立てること自体が不可能ですし、現社長以下の暫定的経営体制も抜本的に改変される必要がある以上、既に「持続可能なビジネスモデル」を有するところの傘下に入るほかないでしょう。ところが、そのような好都合な引き受け手などいそうもなく、前途は極めて困難といわざるを得ません。