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大阪北部地震、デマだけでない!惑わされる拡散情報とは

森井昌克神戸大学大学院工学研究科 特命教授・名誉教授
シマウマも迷惑? シマウマが脱走したとのデマも(ペイレスイメージズ/アフロ)

大阪府北部で18日、発生した震度6弱の地震で、ツイッターなどのSNS上に、事実と異なるデマ情報が拡散されている。地震発生から約30分後の同日午前8時半ごろから、京セラドーム大阪(大阪市西区)の屋根に亀裂が入った、と写真付きで次々とツイッターなどに投稿があった。

出典:「京阪脱線」「シマウマ脱走」 デマ情報続々 熊本地震では逮捕者、大西一史熊本市長「むやみにリツイートしないで」【産経新聞】

熊本地震の際、SNSでのデマが拡散し、大きな問題になりました。「動物園からライオンが脱走」という、他国で撮られた写真をあたかも熊本市内を闊歩しているように見せかけたデマ写真は、その後、それをSNSに上げた本人が逮捕されると事件に発展しました。その記憶が薄れないうちに、また同様のことが今回の大阪北部地震でも起こっています。熊本でのライオン事件と同じように、全く無関係なシマウマの写真を上げて、シマウマが脱走したとのデマや、「(京都大阪間を走る)京阪電車が脱線した」や「(大阪市内になる)京セラドームの屋根に亀裂が入った」等、地震の被害を偽ったデマが広まったのです。前者と後者のデマは、それを最初に発した人の意識を考えると少し性質が異なります。前者は明らかに熊本での事件を意識した悪戯であり、後者は人々が混乱することを期待した、いわゆる愉快犯です。前者は事実でないことを明白した上での投稿と考えたかもしれませんが、平時ではなく、人々がパニック状態に陥っているときであり、それが思わぬ解釈となることを考えなくてはなりません。その投稿が人々に伝わる間に、伝言ゲームのごとく、曲解され、思わぬ内容になり得るのです。後者は結果的に悪意に満ちた投稿ですが、両者ともに目的は自分の存在の確認と主張です。正当な手段で自己を表現できないため、その劣等感から世間、あるいはネット上で話題になることによって自己主張しているのです。

もはや一つの性癖であるところの、これらの輩を完全に取り締まることは不可能なのです。たった一人の、それもたった一言のデマが社会的混乱を引き起こすことになるのですから。したがって最も有効で現実的な解決策は、無暗にリツイート等、それを引用してさらに拡散させている人たちの排除です。排除は言い過ぎとしても、このようなデマを拡散しないようにする必要があります。デマを拡散する人たちに悪意はないかもしれません。少しでも自分が知っている情報を役立ててもらおうと友人、知人に伝えている人がいる反面、愉快犯と同じように、自分が如何にもその話題に関係している、つまりいち早く接していることを自慢したい気持ちがないとは言えないのです。情報を拡散するときに、その発信源が信頼できるか、真偽を十分確かめてから投稿するように、と注意がなされています。しかし一番重要なことは、それ以上に、引用を含めて自分の書いた記事に責任を持つということです。他人が書いたデマであろうが、それを一旦自分がリツイート等、拡散した際には、そのデマは自分が書いたことと同じなのです。

6月18日朝に発生した大阪府北部を震源とする地震で、山陽新幹線の橋脚に損傷が見つかった。橋脚の天端に設けていた橋軸直角方向の変位制限装置に橋桁がぶつかり、衝撃で同装置を橋脚に固定するアンカーまわりのコンクリートが破損、落下したもようだ。

出典:新幹線の橋脚が一部損傷、変位制限装置付近のコンクリート落下【日経XTECH】

デマではなく、真実を投稿する際にも気を付けなくてはなりません。部分的、あるいは一方向からだけ見た真実はデマに勝る不安を掻き立てるかもしれないからです。今回の大阪北部地震においては、新幹線の橋脚の一部が崩落している写真が話題になりました。確かに一部が崩れ落ち、その崩落したコンクリート片が地面に広がっていたのです。最初に写真を上げた人は、その事実とJRの職員に向けて確認を急ぐように述べるのみでしたが、次々とリツイートや引用がなされ、不安を煽る言葉で埋もれました。その後、新聞紙上でも取り上げられましたが、JRの職員が点検している写真も同時に上げて、大きな損傷がないことを付記するとともに、JRからの点検終了と運行に差し支えないことを明記しています。スーパーやコンビニでの品不足も、写真とともに、「水や食料の買い占めが始まる」などという真実を誇張した表現が、SNSで流れました。確かにスーパー等の棚に商品がほとんど陳列されていない写真は事実でしょう。しかし水や食料が極端に不足しているわけではなく、地震後での鉄道線路の点検や高速道路の点検による一時不通による配送遅れが原因であり、ましてや大掛かりな買い占めが行われたわけではないのです。余震に備えて、改めて当面の非常食や飲料水等の生活必需品を確保することは重要ですが、過度の買い占めに至るとパニックになりかねません。地震等での非常時の情報発信は極めて慎重である必要があるのです。その慎重さの根源となる意識が、リツイートであれ、引用であれ、その発言(情報発信)に重い責任を持つということなのです。

「余震が来る前に」。大阪府北部の地震で、府内のスーパーやコンビニでは18日午後、飲料水やおにぎりなどの食料が品薄になり、店頭からなくなる店舗もあった。

出典:「余震来る前に」水や食料が品薄に 大阪のコンビニ、スーパー【産経新聞】

神戸大学大学院工学研究科 特命教授・名誉教授

1989年大阪大学大学院工学研究科博士後期課程通信工学専攻修了、工学博士。同年、京都工芸繊維大学助手、愛媛大学助教授を経て、1995年徳島大学工学部教授、2005年神戸大学大学院工学研究科教授。情報セキュリティ大学院大学客員教授。情報通信工学、特にサイバーセキュリティ、インターネット、情報理論、暗号理論等の研究、教育に従事。加えて、インターネットの文化的社会的側面についての研究、社会活動にも従事。内閣府等各種政府系委員会の座長、委員を歴任。2018年情報化促進貢献個人表彰経済産業大臣賞受賞。 2019年総務省情報通信功績賞受賞。2020年情報セキュリティ文化賞受賞。電子情報通信学会フェロー。

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