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アマゾン詐欺による個人情報漏えい、TVで言えない本当の事?

森井昌克神戸大学大学院工学研究科 特命教授・名誉教授
ネットショッピング(写真:アフロ)

インターネットショッピングサイト大手のアマゾンで、格安で商品を販売するように装い利用者から金をだまし取ろうとする問題が相次いでいることが27日、関係者への取材でわかった。他人のアカウントを乗っ取って出店者になりすましているとみられる。

出典:アマゾンでアカウントを乗っ取っての「詐欺商売」横行 中国からの犯行か 【産経ニュース】

従来からマッケートモールやオークションサイトでは、商品を発送することなく、金をだまし取る詐欺が横行していました。主催しているサイトでは問題が起こるたびに改善策を講じていたのです。特に事業者でない一般の人が物品を売買するフリーマッケートサイトやネットオークションでは、最初から悪意をもって詐欺をはたらこうとする人が加わってきたことから、販売者の評価を行うことで信頼性を担保しようとしました。一定の効果があったようですが、最初の数件、数十件だけ正常な取引を行ってから、評価値を上げ、その後、大々的に詐欺を行う人も現れ、今までにない大量の取引を行おうとする人に対して監視強化等の対策も行われました。詐欺をはたらくために、評価値が高い販売者のアカウントを高額で売買するということも起こっています。もう5年以上も前になりますが、「次点詐欺」というネットオークションでの詐欺行為も流行りました。これはオークションで落とせなかった人に対して、言葉巧みに、その商品を提供するふりをして金をだまし取るものです。落とせなかったという悔しさとその商品への執着心を利用しているのです。

今回の手口も目新しいものではありませんが、特徴としては従来から正当な売買をしている人あるいは店のアカウントを乗っ取って、その出展者になりすまして金をだまし取るようです。その出展者において、明らかに過去に扱った商品と異なる場合や異常に値引きしている場合は注意が必要です。結局のところ、自分が判断して、騙されないようにする必要があるのです。

ところで、今回の詐欺、多数の被害が出ていることで問題になっています。確かに一人一人の被害は高額ではないとはいえ、被害に違いはありません。しかし犯罪者側も被害額だけを考えれば、効率の良い犯罪とは必ずしも言えません。実際すぐにニュースの話題となるところとなり、アマゾンおよびその利用者が対策を取り始め、容易にだまずことができなくなりましした。そこで犯罪者側の目的についていろいろな憶測が流れています。一つにはアマゾン自体の信用の失墜があります。アマゾンにとっては利用者の被害を弁済する以上に信用の問題は深刻でしょう。もう一つは個人情報の収集だと言われています。商品を送付する必要があることから、住所、氏名、電話番号、それに連絡を取るためのメールアドレス等を得ることが出来ます。

利用者にとっては個人情報の漏えいになるわけですが、もっとも深刻なのはその個人情報に加えて、その個人の「属性」が得られることです。つまり、どのような商品に興味があるのかということに加えて、どのような商品説明方法で、どれぐらいの値引きであれば購入し、かつ必要以上の数を購入するのか、つまり、どの程度騙されやすいかという尺度がわかるのです。これらの情報は犯罪者にとって住所、氏名等の情報の何十倍も価値があります。その情報を収集し、後にリスト化した上で売買するのです。その「騙されやすさ」のリストこそ、問題なのです。このリストは「カモリスト」という俗称で呼ばれています。被害者にとっては自分の情報が不本意に使われ、心外この上ないことですが、さらなる二次被害につながることを用心しなければなりません。

神戸大学大学院工学研究科 特命教授・名誉教授

1989年大阪大学大学院工学研究科博士後期課程通信工学専攻修了、工学博士。同年、京都工芸繊維大学助手、愛媛大学助教授を経て、1995年徳島大学工学部教授、2005年神戸大学大学院工学研究科教授。情報セキュリティ大学院大学客員教授。情報通信工学、特にサイバーセキュリティ、インターネット、情報理論、暗号理論等の研究、教育に従事。加えて、インターネットの文化的社会的側面についての研究、社会活動にも従事。内閣府等各種政府系委員会の座長、委員を歴任。2018年情報化促進貢献個人表彰経済産業大臣賞受賞。 2019年総務省情報通信功績賞受賞。2020年情報セキュリティ文化賞受賞。電子情報通信学会フェロー。

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