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その職員会議で何が話し合われたのか? 小学校児童作品紛失事件

森井昌克神戸大学大学院工学研究科 特命教授・名誉教授
小学校(ペイレスイメージズ/アフロ)

昨年9月、日記コンテストに応募するための児童117人分の作品を紛失していたことが6日、市教委への取材で分かった。同校は保護者らに紛失を報告せず、児童には主催団体から余分にもらった参加賞を渡し、出品したように装って隠蔽(いんぺい)。日記には氏名などの個人情報も記載されていたが、流出による被害の報告はないという。

出典:児童117人分の作品紛失も、コンテスト出品装い隠蔽 「学習意欲低下する」と職員会議で判断 姫路の小学校【産経新聞】

先日、ある小学校で児童が書いたコンテストに応募するための日記を紛失するという事件が起こりました。紛失しただけでなく、それを児童や保護者等に報告しなかったということです。この紛失を隠ぺいするために、応募を装ったことが問題になっていますが、さらに大きな問題は主催団体と職員会議の対応です。

日記コンテストの主催団体はその小学校が参加することは承知しているはずであり、参加人数もあらかじめ把握しているはずです。117人が不参加になれば異様と考えるのが通常です。さらにその不足している人数分も含めて参加賞を求められること自体、異常です。このコンテストの主催団体自体の運用管理体制にも問題があると言わざる得ません。参加していない児童に参加賞を与えていることになるのですから、コンテスト自体が不正といわれても仕方がありません。

さらに職員会議で、この日記の紛失について話し合ったとされています。職員会議ですから小学校すべての教員が参加しているはずです。ここでの議論の結論が報道によると「児童の学習意欲が低下すると判断し、紛失を伝えないという決定」だそうです。事実を隠し、コンテストに応募していないにもかかわらず応募したことにするという不正をはたらくことを棚に上げて、学習意欲云々とはどういうことでしょうか。社会生活を営む上での道徳や倫理観を育てるという目的よりも、単なる方法であるところの「学習」自体が最優先ということなのでしょう。

この報道での職員会議における結論を見たときに約5年ほど前のテレビドラマを思い出しました。それは殺人を次々と犯した小学校教師が最期に言ったセリフ

子供たちが尊敬する先生が殺人を犯したなど、決して知られてはいけないことだ!

というものです。職員会議という多数の先生方がいるなかで一人でも、学習することが目的ではなく、学習すべき内容が肝要であり、社会生活を営む上での倫理観や法順守がその基本であることに気付かなかったのが残念でなりません。

【参考】フジテレビ 東野圭吾ミステリーズ 第9回 2012年9月6日(木)放送 「結婚報告~写真の親友は他人の顔?ハケン女絶体絶命の危機!」

神戸大学大学院工学研究科 特命教授・名誉教授

1989年大阪大学大学院工学研究科博士後期課程通信工学専攻修了、工学博士。同年、京都工芸繊維大学助手、愛媛大学助教授を経て、1995年徳島大学工学部教授、2005年神戸大学大学院工学研究科教授。情報セキュリティ大学院大学客員教授。情報通信工学、特にサイバーセキュリティ、インターネット、情報理論、暗号理論等の研究、教育に従事。加えて、インターネットの文化的社会的側面についての研究、社会活動にも従事。内閣府等各種政府系委員会の座長、委員を歴任。2018年情報化促進貢献個人表彰経済産業大臣賞受賞。 2019年総務省情報通信功績賞受賞。2020年情報セキュリティ文化賞受賞。電子情報通信学会フェロー。

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