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それは「デマ」です! 騙され続けるあなたに贈る、その一言。

森井昌克神戸大学大学院工学研究科 特命教授・名誉教授
デマ(写真:アフロ)

キーパッドを表示して「1」「1」「0」を入力してから通話ボタンを押すと、携帯電話の通信速度が速くなるというデマがSNSで拡散しています。デマは「iPhoneユーザーだけの裏技でキーパッドで『1』を2回、『0』を1回押して、03秒以内に通話ボタンを押して15秒くらい待つとピーと音が鳴って通信制限が解除される」という内容。

出典:「1」「1」「0」を入力して通話すると通信制限が解除され通信速度が速くなるとデマ拡散 行政が注意呼びかけ【ねとらぼ】

ネットにはいろいろな情報が埋もれています。その価値は千差万別であり、それに接する人にとっても大きく異なります。埋もれているならともかく、ツイッターや他のSNS等で積極的に飛び出て広まる情報もあります。有益な情報であれば良いのですが、誹謗中傷やデマは大きな問題となっています。特に悪質な「デマ」は社会的混乱を引き起こします。上記のデマも、それを信じた人は、その指示に従うと110の電話番号を持つ、警察の緊急電話にかかってしまうのです。少し考えれば警察にかかってしまうことはわかりそうですが、通信制限の解除に興味があり、この「デマ」を読んだ人の、たとえ1%でも試してしまえば警察の業務に大きな支障を与える事になるのです。

この「デマ」の問題点は大きく二つ有ります。一つは「デマ」を広げる人の存在、もう一つは「デマ」を一瞬であれ信じる人の存在です。事実上、「デマ」は広がる事がなければ「デマ」になりません。「デマ」のシナリオを作り、野に放つ人の罪は大きいですが、「デマ」と知りつつ広げる手助けをする人の罪は決して小さくありません。「デマ」を作り上げた人よりも大きいと言えるかも知れません。自分が拡散させる事によって何が起こるか想像できないという注意力欠如がもたらす結果かも知れませんが、その結果には責任を持たなくてはならないのです。そして、「デマ」を信じる人の存在です。上記の「デマ」ですら、通信制限解除を期待して指示に従ってしまい、「警察です」という電話の向こうからの声を聞くまで気付かない人も少なくないのです。

この記事を書いている、まさに今も、

【自分の携帯が盗聴されてるか確認する方法】まず、【    】に電話かけます。すると数字が出てきます。数字の中に「-」ハイフンがあればあなたの携帯は盗聴されています。

というデマが流れています。【    】の中はわざと消していますが、この通りにすると、確かに数字が出てきます。それは盗聴されているか否かではなく、端末の識別番号、いわば製造番号で、携帯電話やスマホ一つ一つに固有の番号です。騙されて実行すると、識別番号が表示されるだけなのです。ハイフン(-)など出るはずもなく、盗聴されていないような表示となるので、大きな被害がないように思えますが、実際に盗聴されている場合、判断を誤る事になります。また、「デマ」を信じ込んでいる人は、盗聴されていなかった喜びからか、その画面に表示された識別番号をスナップショットに取って、公開してしまう人まで現れました。識別番号を公開したからといって、すぐに 何がしかの被害に遭うことはないでしょう。しかし、公開した識別番号は、その携帯電話やスマホを使う限り固有の番号で有り続けます。将来にわたって悪用されないとは限りません。

この「デマ」ですが、これがオリジナル、すなわち「デマ」の原案ではありません。3年ほど前に

iPhone持ってる人!ダイヤルで【     】を押して、七桁目と八桁目の数字を確認してください。02,20は中国産。質が劣る。01,10はフィンランド。質良し。

という「デマ」が流布しました。【     】は同じです。もちろん、「デマ」は「デマ」で、事実では有りません。このように、ネットではほとぼりが冷めた頃に、また息を吹き返そうとするのです。なお、この手の「デマ」は起源をたどると、2ちゃんねる掲示板黎明期、その名前欄に、"fusianasan"と入力すると、通常では見る事が出来ない「裏2ちゃんねる」が見れるという、いわゆるfusianasanトラップにたどり着きます。この指示に従うと、入力している人のリモートホストが表示され、どこの所属かが表示されてしまいます。たとえば、学校や職場から入力すると、その学校名や会社名が特定されてしまうのです。

神戸大学大学院工学研究科 特命教授・名誉教授

1989年大阪大学大学院工学研究科博士後期課程通信工学専攻修了、工学博士。同年、京都工芸繊維大学助手、愛媛大学助教授を経て、1995年徳島大学工学部教授、2005年神戸大学大学院工学研究科教授。情報セキュリティ大学院大学客員教授。情報通信工学、特にサイバーセキュリティ、インターネット、情報理論、暗号理論等の研究、教育に従事。加えて、インターネットの文化的社会的側面についての研究、社会活動にも従事。内閣府等各種政府系委員会の座長、委員を歴任。2018年情報化促進貢献個人表彰経済産業大臣賞受賞。 2019年総務省情報通信功績賞受賞。2020年情報セキュリティ文化賞受賞。電子情報通信学会フェロー。

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