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(続)中村教授のノーベル賞受賞で、誰が日亜化学工業を悪者にしたいのか?

森井昌克神戸大学大学院工学研究科 特命教授・名誉教授
徳島 日亜化学

中村教授のノーベル賞受賞の報とともに、日亜化学との関係も再度取り上げられ、再注目されてから約一ヶ月が経ちました。今になっても、中村教授と日亜化学との確執?が取り上げられています。

ノーベル物理学賞の受賞が決まった米カリフォルニア大サンタバーバラ校(UCSB)の中村修二教授と、青色LED(発光ダイオード)をめぐる訴訟を争った元勤務先の日亜化学工業(徳島県阿南市)の確執が“第2幕”に入っている。

出典:“LEDの確執”和解の光いまだ見えず 中村教授の和解提案、冷淡に応じる日亜 、SankeiBiz

どうしても「中村教授 vs. 日亜化学」という構図を作りたいようです。先に、このYahooニュース!個人ブログにおいて、

マスコミ各社では上記の新聞と同じような論調で、「日亜化学が中村教授を拒否」という印象を与えています。どうも、かつて係争した中村教授と日亜化学の対立を思い返し、「中村教授vs.日亜化学」という構図を作りたいようです。確かに「善と悪」、「強者と弱者」、「賢者と愚者」という二極の対立構図はわかり易く、興味を抱く、あるいはさらに面白おかしく思う人は多くなるでしょう。

出典:中村教授のノーベル賞受賞で、誰が日亜化学工業を悪者にしたいのか? Yahooニュース!個人ブログ

と書きました。このグログを読まれて、中村教授への批判、日亜化学への擁護と捉えられた方も少ないながらいたようです。決してそうではなく、現在では必ずしも存在しない中村教授と日亜化学の確執として、対立を煽るような記事が多いからです。ノーベル賞を受賞した中村教授からのアプローチということで、それに日亜化学が全面的に応えなかったということを批判的に捉えたいのでしょうが、企業である日亜化学としては、過去の訴訟問題も当然影響しているでしょうが、現在でも日亜化学とビジネス上で技術やシェアを競っている他企業と関係がある中村教授を歓待することはできません。日亜化学としては中村教授の業績を認め、十分な祝意を述べています。それ以上、何をすべきというのでしょう。日亜化学の社長と握手をしたからといって、一般の人には微笑ましく思えても、日亜化学としては何の恩恵も与るどころか、関係企業や協力関係にある研究機関に誤解を与える可能性のほうが高いでしょう。さらに,先にも書きましたように、中村教授も悪意は感じられないとは言え、

徳島にも行きたいんですけど、現状では行けないんですね。日亜化学は四国最大の企業なんです。徳島で10メートル歩いたら、日亜化学の関係者に会うというところですから、関係をよくしないと現地には行けない。そういう意味で関係を早く改善したいんです。徳島大は私の母校で、学生や先生が来てくれと言ってくれるが、日亜化学との関係をよくしないことには行きづらい。

出典:中村修二教授文化勲章:記者会見の一問一答【毎日新聞】

というように話しています。これは面前の記者に向けての一方通行の話し言葉であり、詳しい説明も省かれている事から正確に伝わっているとは思えません。先にも書きましたように、日亜化学は四国最大の企業では有りませんし、影響力がないとは言えませんが、強力であるとも言えません。これは様々な統計的な数字でも現れているでしょうし、現実に1995年から2005年まで、中村教授とも日亜化学とも関係の深い、徳島大学、それも工学部の教授として奉職した、そして現在も徳島県民である私の感覚にも沿っています。何よりも日亜化学は徳島県内の一企業であり、さらに徳島の中心部から南に離れた阿南にある会社です。日亜化学が徳島を代表した会社ではなく、徳島も日亜化学を代弁するものでは有りません。

神戸大学大学院工学研究科 特命教授・名誉教授

1989年大阪大学大学院工学研究科博士後期課程通信工学専攻修了、工学博士。同年、京都工芸繊維大学助手、愛媛大学助教授を経て、1995年徳島大学工学部教授、2005年神戸大学大学院工学研究科教授。情報セキュリティ大学院大学客員教授。情報通信工学、特にサイバーセキュリティ、インターネット、情報理論、暗号理論等の研究、教育に従事。加えて、インターネットの文化的社会的側面についての研究、社会活動にも従事。内閣府等各種政府系委員会の座長、委員を歴任。2018年情報化促進貢献個人表彰経済産業大臣賞受賞。 2019年総務省情報通信功績賞受賞。2020年情報セキュリティ文化賞受賞。電子情報通信学会フェロー。

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