前回の続き)

 コロナウイルスの感染拡大に伴い、ニューヨーク市内にある宗教施設も集会などができなくなり、オンラインで礼拝や説教を行う所が増えてきた。キリスト教以外、ユダヤ教、イスラム教、ヒンドゥー教、ジャイナ教、そして仏教、それぞれの取り組みを紹介する。

(※ 本記事は特定の宗教・宗派を推奨するものではありません)

ユダヤ教

 ユダヤ教の信者が集まるのはシナゴーグ(synagogue)と呼ばれる会堂。市内で最も有名な1つはマンハッタンの中心街、ミッドタウンにあるセントラルシナゴーグだ。1839年に建てられ、異教徒との交流や対話に重きを置いている。その姿勢は、昨年3月に近くにあったモスク(イスラム教の礼拝所)が火災で使えなくなった際、イスラム教徒にシナゴーグを開放した出来事にも象徴されている。

セントラルシナゴーグ(2019年12月)
セントラルシナゴーグ(2019年12月)

 ユダヤ教は土曜日がシャバット(Shabbat)と呼ばれる「安息日」。男性の信者らはシナゴーグに集って祈りを捧げる習わしで、指導者「ラビ」(rabbi)が説教を行う。

 その様子は、コロナウイルスが広まる以前からフェイスブックなどを通じてライブ配信されていた。集会ができなくなった昨今は、宗教行事をオンラインで行えるよう一層力を入れている。安息日以外、月曜から金曜も瞑想など定例の祭儀があり、希望者は“virtual”、つまりオンラインで参加できるようになっている。「ラビとの瞑想実践」は午前8時半~9時、「聖職者とのコーヒータイム」は正午~0時半といった具合だ。

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COVID-19の危機でセントラルシナゴーグが完全に「仮想」会堂となっている間、このウェブページは会堂とコミュニティー両方にとってサービスやプログラムなどの情報源となります。

イスラム教

 3月13日からニューヨーク州で500人以上の集会は禁止と決まるや、「ニューヨークイスラム指導者評議会」(Islamic Leadership Council of New York)は域内のモスクに対し、金曜日の集団礼拝「ジュマ」(juma, jummah)を取りやめるよう求め、「ソーシャル・ディスタンスを保とう」と呼び掛けた。

イスラム教の指導者らによる集団礼拝休止要請(ウェブサイより)
イスラム教の指導者らによる集団礼拝休止要請(ウェブサイより)

 各モスクはこれに応え、集団礼拝を休止している。

 マンハッタンにある「マスジド・マンハッタン」は、以前なら、金曜の礼拝に各所から信者が集まり、6階ある建物が1000人超で埋め尽くされていた。今は叶わないが、金曜以外も行う1日5回の礼拝の時間はウェブサイトで毎日更新している。

マスジド・マンハッタン(2019年9月)
マスジド・マンハッタン(2019年9月)

 ムスリム(イスラム教徒)にとって目下、最大のイベントであり、課題でもあるのが、今月23日ごろから1カ月続く断食月「ラマダン」だ。日の出から日没まで飲食を断ち、日没後に家族や友人など大勢で食事を共にするイフタール(日没後の食事)をとるのが一連の流れだ。しかしそんなことをすれば感染拡大は必至だとして、今年は例年通り行えない。

 日中飲食を断ってストレスが溜まっている信者らは、日没後に盛大に祝うことで解き放たれていた節もある。外出が制限される中、バーチャルのような形で断食の達成を喜び合い、折り合いを付けられるか、前例のない世界規模の試みだけに成否が注目される。

 ムスリムの学生も多いニューヨーク大学(NYU)には、情報発信や信者同士の交流を図る「イスラミックセンター」がある。金曜礼拝は取り止め、日々の行事は軒並みバーチャルに移行している。ラマダンの過ごし方について、信者にアンケートを取るなどし、いかにオンラインでつながり合うことで乗り切れるか腐心している。

バーチャルのラマダンを呼び掛けるイスラミックセンター(ウェブサイトより)
バーチャルのラマダンを呼び掛けるイスラミックセンター(ウェブサイトより)

 厳戒態勢下でのラマダンをめぐり知恵を絞るのは、こうしたセンターやモスクだけではない。

 「検疫の中でラマダンの準備―子どもとできる9つのこと」そんなタイトルのブログを書いているのは、イスラム教徒の女性(ムスリマ)が身に着けるスカーフ(ヒジャブ)などを製造・販売する「ホート・ヒジャブ」(Haute Hijab)。2010年の創業当時からオンラインでの情報発信に努めてきた。

日本を訪れたElturkさん(19年春、本人提供)
日本を訪れたElturkさん(19年春、本人提供)

 ヒジャブを被るムスリマならではの悩みや生き方のヒント、ムスリマ特有のファッションの着こなしなどについて、専属ライターと共にブログやツイッター、インスタグラムでほぼ毎日発信している。

 19年9月にマンハッタンにあるオフィスを訪ね、代表のMelanie Elturkさんを取材した際、10人強の社員は全員女性。子育て中の社員もいるため、オフィス内に乳幼児を連れて来られるスペースを設けるなど、先進的な取り組みが目立った。今は皆在宅勤務となっている。Elturkさんは昨年京都や東京を観光して日本に好印象を持ったらしく、「また行きたい」と言っていた。

ヒンドゥー教

 人口14億人に迫るインド、その8割が信仰するというヒンドゥー教。ニューヨークでは市民の3%が信仰しているとされ、寺院などはインド人コミュニティーがあるクイーンズ区に多い。

北米ヒンドゥー教寺院協会(19年8月)
北米ヒンドゥー教寺院協会(19年8月)

 今年発足50年を迎えた市内有数の北米ヒンドゥー教寺院協会(The Hindu Temple Society of North America) もそこに位置する。

 オンラインでの情報発信は以前からしていたが、コロナウイルスで寺院に集まれなくなったため、より力を入れている。フェイスブックでは「Live streaming、7時から始まります」などと1日に何度も呼び掛けている。

ライブストリーミングを知らせる北米ヒンドゥー教寺院協会(フェイスブックより)
ライブストリーミングを知らせる北米ヒンドゥー教寺院協会(フェイスブックより)

ジャイナ教

 同じインド発祥のジャイナ教は世界に500万人ほど信者がいるとされ、そのほとんどはインドに住む。不殺生、非暴力を最重要の教義とし、すべての生き物に魂が宿っていると信じる。ニューヨークにある米国有数のジャイナ教寺院「ジャイン・センター・オブ・アメリカ」によると、米国には20万人、うちニューヨーク市には6000人ほどが暮らし、増加傾向にあるという。

 コロナウイルスの影響で、寺院で予定されていた行事は全てキャンセル。必要な情報は信者向けにメールやフェイスブックで伝達している。

 昨年9月に取材した際は年中行事「ダス・ラクシャナ」の最中だった。寺院は子どもたちの学習の場、交流の場ともなっていたが、今その役割は果たせない。

寺院に集まった信者ら(19年9月)
寺院に集まった信者ら(19年9月)

 徹底した菜食主義でも知られ、地中に植わっている根菜類は、掘り起こす際に虫を殺傷してしまう恐れがあるので食べない人もいる。より敬虔な信者は、目に見えない微生物や虫を吸い込んで殺さないように口を布で覆ったり、踏み潰さないように目の前をほうきで掃きながら歩んだりと、細心の注意を払っている。

 不殺生を追求する彼らは今、このコロナウイルスの猛威をどう見ているだろうか。

仏教

 最後に仏教。浄土真宗本願寺派の「ニューヨーク本願寺佛教会」(New York Buddhist Church)は、コロナウイルス感染が急拡大しだした3月13日にユーチューブにチャンネルを設けた。週1回程度のペースで読経や説法の様子を伝えている。コメント欄には合掌やハートマークの絵文字が並ぶ。

ニューヨーク本願寺佛教会のユーチューブより
ニューヨーク本願寺佛教会のユーチューブより

 また、以前からこまめに更新しているフェイスブックも逐一情報を更新し、電話で「ダルマ」(Dharma)の説法を聞けることなどをアナウンスしていた。

 米国での浄土真宗本願寺派の布教組織「米国仏教団」 (Buddhist Churches of America)もツイッターやユーチューブで情報を発信している。

Mahayana Temple of New Yorkのフェイスブックより
Mahayana Temple of New Yorkのフェイスブックより

 他のコミュニティーの仏教寺院としては、マンハッタンにある中華系の「Mahayana Temple of New York」が3月16日から来訪者を断っている。

 韓国の「HANMAUM ZEN CENTER OF NEWYORK」は3月以降、季節の花々の写真をフェイスブックに相次いで載せ、例年より投稿回数を増やしている。

* * * * *

 他にも数多くの宗教、宗派があり、信者の数だけ祈りがある。前回触れたピュー・リサーチ・センターの宗教に関する調査で無宗教と回答した人も、「神がいると信じる」と答えた人は少なくなく、「絶対」と「かなり」を合わせると5割を超える。

 14世紀にペストが蔓延する中で免罪符を売り歩いた神父、第二次世界大戦後に生まれた新たな宗教の数々――。人類の危機、大きな惨事のたび、宗教は人口に膾炙する対象となりやすかった。

 この先世界はどうなるのか。「アフターコロナ」としてさまざまな予測がなされているが、悲観的な見通しも目立つ。

 足もとでは、コロナウイルスに感染して重篤となった患者が、臨終の際に家族さえ立ち会えぬまま最期を迎えるような悲しい状況が続く。

 宗教、信仰は何ができるだろうか。

(※特に注記のない写真は筆者撮影)