東京デモグラフィー 令和新時代の外国人統計は?
日本で外国人労働者をめぐる議論が「再び」活発になって久しい。バブル景気に沸いた1990年前後、空前の人手不足で雇われた外国人が一気に顕在化した当時の状況は、コンビニや飲食店、漁業や介護の現場で働く外国人をよく見掛けるようになった近年と似ている。ただ、バブル崩壊以降の90年代はいわゆる「不法滞在」の外国人ばかりが注目、問題視されることとなり、受け入れに前向きな議論は下火となった。
それから約30年が過ぎた。90年当時に日本で起きていたこととその後の教訓は何か。その軌跡をもとに、30年先を展望したい。
その上でまず、今後キーワードとなるであろう「デモグラフィー」(Demography; 人口統計学)について、移民の多いニューヨークやロンドンの事例を紹介しながら、データの有用性を見ていく。併せて、この2大都市と肩を並べるメトロポリタン・東京で外国人の最多グループが入れ替わった平成の時代を振り返る。
デモグラフィックスは「人口統計」
ニューヨーク
街の人口構成はこの先どう変化していくか。特に、少子高齢化が深刻な日本にあっては重要な論点となる。それを占うには、これまでどう変化してきて、今どうなっているかの趨勢を知るのが重要だろう。
そのためにはできるだけ正確な全数調査によるデータに基づく分析が欠かせない。息づく人々を、数値をもとに「可視化」することが望ましいが、その点ニューヨークはデータが充実している。ニューヨーク市都市計画局のサイトの人口動態に関する「Population FactFinder」は、市内が1500超のエリアに区切られ、各地の住民の構成要素が詳細に示されている。
例えばマンハッタン区南方にある通称「中華街」(チャイナタウン)界隈を地図上でクリックすると、「Demographic Profile」が示され、総数や男女比、年齢構成比、そして民族・人種の比率などが即座に絞り込まれ、図表化される仕組みとなっている。
右側にはそれぞれの数値を棒グラフ化した情報などが並び、中国人などそこに住む代表的な集団の密度が、市全体や区全体の平均と比べて高いか低いか、見比べやすい。
そうした全体や近隣のエリアと比べたり、2006~10年のデータと13~17年のデータを時系列で比較したりといった作業が、クリック1つで簡単にできる。
「Social」の項目には「流暢に話せる言語」(Language Spoken At Home)といった項目があり、地域に住むエスニック集団の特性や傾向が大掴みできる材料になる。
移住希望者や研究者にとって、これらは海外からアクセスできる貴重なデータ集になるだろう。
ロンドン
約900万の人口を抱えるロンドンも進んだ取り組みがある。
大ロンドン庁(GLA; Greater London Authority)が公開しているレポートでは現在、2016年の人口動態に基づいた2050年までを予測している。ロンドンに多いインドやパキスタンなど各国の移民の実数を1歳刻みで落とし込み、5年後や10年後、30年後にどう推移しているかを見通す。Excelのデータは6万行を超えて膨大だ。
GLAのDemographicsのカテゴリには、そうしたエスニック関連を含む人口動態のデータが豊富にある。
日本の参考に
日本では、住民基本台帳に基づくデータの整備が進んできているが、多言語対応などの観点からもまだ改善の余地が大きい。東京、日本で今後外国人が増える予測を踏まえれば、ニューヨーク、ロンドンのデータは参考になるはずだ。
一方、日本以外にも言えることだが、住民の実態把握は年齢、性別、時に宗教など、センシティブな内容を含むため、どのように行うかは課題が残る。対象者が不快に感じるような調査の行き過ぎはあってはならない。
東京の最多外国人は2002年に逆転
最後に、今後の令和・東京の人口趨勢を占う上で重大な出来事として、平成に起きた最多の外国人集団の逆転を確認したい。すなわち韓国と中国である。
東京都のサイトにある「外国人人口」からアクセス可能なデータ(※)によると、40年前の1979年、最多は「韓国・朝鮮」で7万3490人と外国人全体の7割近くを占めていた。次点の「中国」は1万3611人で同12.3%だった。
(※各年1月、2016年までの「中国」には「台湾」を含む)
順位が逆転したのは2002年、「中国」が10万4940人、「韓国・朝鮮」10万2887人となり、いずれも10万を超えた節目の時だった。その後、中国は右肩上がりで19年に20万を超えた。一方、「韓国・朝鮮」は減少傾向にある。
全外国人に占める中韓勢の割合は1979年に約8割だったのが、最近は5割強。多様化が進んできた表れとも取れるが、それでも5割は依然多い印象だ。
※ ※ ※ ※ ※
こうしたデータを使ってどう分析するかは、それぞれの目的によって異なるが、「移民」時代を迎えつつある日本にとって、まずはデータが揃っていること、扱いやすいことは重要なポイントになるだろう。