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中国系TESO、日本製推しでDAISOに対抗 ニューヨーク、商圏は州を越えて

南龍太記者
米国のDAISOとTESO

 3月にできた100円ショップ最大手DAISO(ダイソー)の米東海岸1号店が好調を維持する中、そこからほど近い同じニューヨーク市クイーンズ区フラッシングに、日本の食品や化粧品を扱う中国系のTESO Life(トゥソーライフ〈特捜商城〉)が新規出店を計画している。TESOの1号店は2017年5月に同じ地域にオープンしたが、DAISOが進出して以来、客を奪われる形となっている。TESOは駅近の新店で巻き返しを図ると同時に、マンハッタン区のコリアタウン(韓国人街)にも出店を予定。一方のDAISOはニューヨーク州の隣、ニュージャージー州に出したばかりの新店が繁盛する。

 顧客層や商圏が重なるDAISOとTESO。品質に定評がある日本製を前面に押し出す店同士、米国を舞台に静かなバトルを繰り広げている。

開店準備中のTESO新店
開店準備中のTESO新店

TESOは「日本の商品と生活の代名詞」

 TESO Lifeは18歳で中国から米国に渡ったAndy Linさんが立ち上げた。創業前にたびたび日本に足を運んでサプライヤーと交渉し、商品の調達先を確保。「高品質でクリエイティブ、かつ低価格」の日本製品を提供すると掲げ、これまで2万以上の品と500以上のブランドを展開してきたといい、「ニューヨークでは、TESOが日本の商品と日本の生活の代名詞となっています」(在紐約、特搜商城已成為日本商品和日式生活的代名詞)と強調している。

TESO Lifeのウェブサイトより
TESO Lifeのウェブサイトより

地の利はTESO

 DAISOが今年3月に出店したフラッシングは中華系住民の人口増が続き、今やマンハッタンにあるチャイナタウンを凌ぐ規模になったと言われる。ターミナルのFlushing Main St駅を出た途端、多くの中国語の看板が目に入り、街は人々の熱気に包まれている。そのため、DAISOフラッシング店は案内などに中国語も併記している。

フラッシングのチャイナタウン
フラッシングのチャイナタウン

 日本人にはあまり有名でないTESOだが、フラッシング界隈では知られた存在のようだ。一昔前まで、日本の商品を専門的に扱う店はこの辺りになく、昨年までTESOの独壇場だったとも言われる。

 そこに突如現れたDAISOは、TESOにとって脅威以外の何物でもない。TESOは「日本の文化と美学を重視するライフスタイルストアとして、美容・コスメ、食べ物、文房具、文化的、創造的な製品からベビー用品、バス用品、ギフトまで、高品質の日本製品」を扱い、DAISOの商品カテゴリと重複する。日本製をアピールするDAISOの商品はほとんどが1.99ドルで売られており、TESOは価格面で劣勢に立ちそうだ。

 フラッシングのTESO新店は、DAISOから600メートルほど離れ、駅から徒歩2分ほどと絶好のロケーションに立地する。「日本生活百貨」「COMING SOON」と大書したポスターがショーウィンドウ一面に貼り出され、内装工事が進む。

フラッシングのTESO新店
フラッシングのTESO新店

フラッシングにとどまらず

 TESOは同時に、マンハッタン区の「コリアタウン」にも出店を予定する。「18~30歳のアジア系米国人女性」を主な想定顧客層と位置付けており、韓国系の人々が多く買い物をするエリアに目を付けた。エンパイアステートビルの南側の好立地だ。

DAISOとTESOの店舗。筆者作成 ※おおよその位置
DAISOとTESOの店舗。筆者作成 ※おおよその位置

 一方、全米展開する韓国スーパー「Hマート」も目と鼻の先にある。Hマートは日本の食品も扱っており、ここでも商材がかぶる。さらに、マンハッタンには創業100年超の「片桐」や「ダイノブ」といった老舗日系スーパーが点在し、TESO新店の半径1.5キロ以内に少なくとも3店ある。

Hマートのウェブサイトより
Hマートのウェブサイトより

 TESOは10~30%割引の「Hot Deal」によるお得感や品揃えで差別化できるかが成否を分けそうだ。

DAISOに対抗意識

 TESOはもう1店出店計画があるが、選んだ場所は発祥地ニューヨークから数千キロも離れた異郷の地、テキサス州の大型の複合商業施設。実は、そこには既にDAISOが店を構えている。DAISOだけでなく、回転ずし大手の「くら寿司」や紀伊國屋書店もある。日本製品を求める買い物客が一定数見込める立地を選んだ。あわよくばDAISOの顧客をも呼び込もうという意図が感じられる。

 そんなTESOの対抗意識を知ってか知らずか、DAISOはニューヨーク周辺で快進撃を続ける。8月3日にはニュージャージー州に新店がグランドオープン。1週間ほどたって訪れた際も、多くの買い物客で賑わっていた。DAISOはさらに出店攻勢を強める構えだ。

ニュージャージー州のDAISO
ニュージャージー州のDAISO
画像

 日本なら100円で買える商品が1.99ドル(約220円)、物によってはさらに高い値付けがされている。それでも物価の高いこの地にあっては、一定水準以上の品質の日本製品が1.99ドルであればお値打ちだ、と受け止められているもよう。昼に外食すればチップ込みで2000円前後はざら、という感覚が染みついている住民にとっては――。多くの米系の文具店や日用雑貨店を覗いても、1.99ドルで同様のスペックの商品はなかなか見つからない。AmazonでDAISOの商品が買えるという、日本にはないサービスも好評を得ている。

 DAISOとTESO、似たような名前だが勝つのはどっちだ。扱う商品カテゴリも似通う中、米国でどういった戦略、違いを打ち出していくか、静かに火花を散らす両者の商圏争いが続く。

(表記のない写真は筆者撮影)

記者

執筆テーマはAI・ICT、5G-6G(7G & beyond)、移民・外国人、エネルギー。 未来を探究する学問"未来学"(Futures Studies)の国際NGO世界未来学連盟(WFSF)日本支部創設、現在電気通信大学大学院情報理工学研究科で2050年以降の世界について研究。東京外国語大学ペルシア語学科卒、元共同通信記者。 主著『生成AIの常識』(ソシム)、『エネルギー業界大研究』、『電子部品業界大研究』、『AI・5G・IC業界大研究』(産学社)、訳書『Futures Thinking Playbook』。新潟出身。ryuta373rm[at]yahoo.co.jp

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