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あなたの自治体の職員はLGBTフレンドリー? 「公務員へのダイバーシティ意識調査」から

中塚幹也岡山大学教授 産婦人科医 GID(性同一性障害)学会理事長

 厚生労働省は,企業における性的マイノリティ(LGBT)当事者(注1)への対応を改善するため「多様な人材が活躍できる職場環境に関する企業の事例集」を,5月8日に公表した(参考1).しかし,企業による取り組みの推進のためには,行政の役割が大きい.

 行政の最前線である公務員が企業や市民に差別や偏見を解消するように働きかけるうえでは,政治的,あるいは社会的に公正・公平であること,少なくとも理解者であることが期待される.しかし,公務員の職場の状況はどうなのか?初の「公務員における性的マイノリティ(LGBT)に対する意識調査」の結果がまとまったので見てみる(3都市の職員630名を対象).

公務員が働く職場でも「SOGIハラ」は起きる?

 「SOGI(ソジ)ハラ」とは,LGBTの人々への差別や嫌がらせ(ハラスメント)である(注2).公務員への調査では,「職場で,LGBTの人々に対するハラスメントを見聞きしたことがある」との回答は約10人に1人の割合で見られていた(注3).

        当研究室のデータから筆者作成
        当研究室のデータから筆者作成

公務員のLGBTへの意識は?

 職場の上司・同僚・部下が「トランスジェンダー(心と体の性が異なる状態)」であった場合に「嫌だ」「どちらかといえば嫌だ」との回答は11.8%,「レズビアンやゲイ,バイセクシャル」の場合には18.3%であった(注3).このデータを管理職のみに限定して見てみると,「嫌だ」「どちらかといえば嫌だ」との回答は,「トランスジェンダー」15.3%,「レズビアンやゲイ,バイセクシャル」24.4%とさらに高率であった.

 年齢別に「LGBTに関する教育・研修を受けたか」を見てみると,40代以上の公務員では,学生時代の教育に含まれていなかった内容のため「受けた」との回答は低率であった.就職後に受けた研修を含めても,LGBTについての知識を得る機会があったのは1割程度であり,「知らないこと」が偏見につながっている可能性がある.自治体における今後のダイバーシティ政策の推進を考えると,抵抗勢力ともなりかねない管理職の理解を進めることは重要な課題である.

        当研究室のデータから筆者作成
        当研究室のデータから筆者作成

日本はLGBTフレンドリーな社会だと思うか?

 公務員への調査では,日本,あるいは,地元は「LGBTフレンドリーな社会であると思うか」に対して「そう思う」「やや思う」との回答は1割程にとどまっていた.しかし,「だからこそ,問題意識を持ち,改善に向けた政策が必要だ」との意見も見られた.

        当研究室のデータから筆者作成
        当研究室のデータから筆者作成

拡がる自治体の取り組み

 2020年7月から,岡山市もようやく,広島市とともにLGBTなどのカップルを対象とする「パートナーシップ宣誓制度」を導入する(参考2).この特徴は,両市が発行するパートナーシップ証明書を相互利用できるとしたことである.全国の都市で同じ制度が共有され「1枚の証明書があれば,どこでも有効」となることが望まれる.

 企業のLGBTへの対応を改善するために,また,すべての人がお互いの多様性を認め合う社会を実現するためにも,市民や企業と接する公務員の役割は大きい.公務員の中でも理解者(アライ)が増え,全国の自治体が「真の意味でのダイバーシティの指標」の格付けを競う日が来ることを期待する.

【言葉の説明】

(注1)LGBT: L(レズビアン),G(ゲイ),B(バイセクシュアル),T(トランスジェンダー)の頭文字であり,性的マイノリティを指す言葉として用いられる.さらに,Q(クエスチョニング)やそれ以外の性的マイノリティの人々も含めたLGBTQ+などの言葉も使用される.

(注2)SOGI(ソジ)ハラ:SOGIとは,性的指向(Sexual Orientation)と性自認(Gender Identity)の頭文字を合わせた言葉であり,性的指向が異性愛の人々(ヘテロセクシュアル),性自認が身体の性と一致している人々(シスジェンダー)も含めたすべてのグラデーションを表す概念である.このようなセクシュアリティに関するハラスメントは「SOGIハラ」とも呼ばれる.

(注3)日本労働組合総連合会(連合)による「LGBTに関する職場の意識調査」(2016年,労働者1000名へのインターネット調査)では,「職場で,LGBTの人々に対するハラスメントを見聞きしたことはある」のは11.4%であった.また,職場の上司・同僚・部下が「トランスジェンダー」であった場合に「嫌だ」「どちらかといえば嫌だ」との回答は26.3%,「レズビアンやゲイ,バイセクシャル」の場合には35.0%であった.今回の私たちの調査(2019年)より3年前の社会状況を反映している可能性もあるが,公務員の方が偏見が少ないとも考えられる.

【参考URL】

(参考1)厚生労働省ホームページ:令和元年度職場におけるダイバーシティ推進事業について(報告書には,ヒアリングで私が述べた意見の一部も含まれている)

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/0000088194_00001.html

(参考2)岡山市ホームページ:「岡山市パートナーシップ宣誓制度」の考え方(案)

http://www.city.okayama.jp/shimin/jinken/jinken_00153.html

岡山大学教授 産婦人科医 GID(性同一性障害)学会理事長

産婦人科医(岡山大学病院不妊・不育外来,ジェンダークリニックで診療).岡山大学大学院保健学研究科・生殖補助医療技術教育研究(ART)センター教授(助産師,胚培養士(エンブリオロジスト)等の養成・リカレント教育).GID(性同一性障害)学会理事長(LGBTQ+,特に「性同一性障害・トランスジェンダー」の医学的・社会的課題の解決に向けて活動).岡山県不妊専門相談センター,おかやま妊娠・出産サポートセンターセンター長.妊娠中からの切れ目ない虐待防止「岡山モデル」の創始,LGBTQ+支援,思春期~妊娠・出産~子育てまでリプロダクションに関する研究・教育・実践活動中.インスタ #中塚教授のひとりごと

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