豊洲開場後の「市場会計破綻」に対する3つの回避案が突きつけるもの

就任直後、豊洲新市場の視察を行った小池都知事(2016年8月)

3月29日、東京都の築地市場(中央区)移転問題を検証する市場問題プロジェクトチーム(PT=座長・小島敏郎青山学院大教授)は、豊洲市場(江東区)の開場後、設備の大規模更新費や解体費用も含めたライフサイクルコスト(建設から解体までの建物にかかる総費用)などで、将来、市場会計(11市場)は毎年150億円ほどの赤字が累積されていくと試算。このままいくと、市場会計が破綻へと突き進むと報告した。

市場の業者たちの使用料で運営されている市場会計が、こうして歪められ、破綻へと突き進んでいく。この間、何となく「おかしい」と気づいていても、次々に既成事実がつくられて、「もうここまでできちゃったんだし、仕方がないんじゃないか」と、誰も流れを止めることはできなかった。

小池百合子都知事の考えは、豊洲移転延期を判断した当初から、一貫して変わっていないにもかかわらず、これまでの経緯や事情をよく知らない周囲が知事に移転の判断を迫り、右往左往して大騒ぎしているだけのように感じる。しかし、その多くは、当事者ではない人たちだ。

例えば、築地市場で最大の組合員数を誇る水産仲卸の東卸組合は、この3月、早山豊理事長名で「理事長所感」を出している。

<現在、営業を続けている築地市場において、新たな風評被害を懸念しております。築地市場全体の土壌汚染を示唆する様な過剰な報道には毅然とした態度で注意を促して参ります>

こう報道機関に警告するとともに、石原慎太郎元都知事の「生殺し発言」に対して、築地市場で日々営業しており、<決して私たちは生殺しの状態ではございません>と否定した。

今後については<現段階での豊洲市場移転の選択肢がない>とも言明している。

また、青果の2つの組合でも連名で、2月25日、下記の文書を組合員に配布した。

<両組合として現状・現実を見据えて、これらの風評が完全に払拭され、食の安全・安心が担保されない限り、豊洲市場への移転はできない>

マスメディアも、ジェットコースターのように、冷静でない報道や煽るような表現が時折見られる。筆者の提供した情報をキャスターが言い間違え、事実誤認のまま終らせたバラエティ番組もあった。

巨額の経費を投じた都庁の無責任体質

「ミッドウエーやガダルカナル作戦で、日本軍がいかにして負けたか、何をどうやって間違ったのかは、失敗に共通する」

小池百合子都知事は、昨年9月23日の定例会見で、座右の書である『失敗の本質』を持ち出し、6000億円近い巨額の経費を投じることになった豊洲市場(江東区)移転を巡る都庁の無責任体質を指摘した。

後に、基準の最高4万3千倍のベンゼンなどが検出され、「市場としてふさわしい場所なのか」という高濃度汚染のリスクがずっと指摘されてきた土地で、都は「食の安全・安心」を懸念する市場の人たちに対し、「操業由来の汚染物質の除去」や「環境基準内の維持」「形質変更時要届出区域の解除」などを約束してきた。しかし、「安全・安心」の前提ととなるはずだった盛り土も含め、何1つ約束を守れなかった。

そもそも、資料や記録などを読む限り、95年に都が当時の築地再整備工事を中断させ、東京ガスの工場跡地だった豊洲埠頭への移転に舵を切っていく過程で、「食の安全・安心」への配慮が軽視され、「土壌汚染」の記述もほとんど見当たらない。バブル崩壊という時代状況の中で「都の財政上の問題」が優先され、市場開設の目的や意義、流通のための施設のあり方などが十分に議論されないまま、現場で働く当事者を置き去りにして「規定路線」のように進んでいった不透明なプロセスが浮き彫りになる。

都議会に設置された百条委員会では、東京ガスから提出された膨大な資料の中から、都は汚染が残ることを知りながら汚染がないものとして時価相当額で購入することを水面下で約束する合意文書も見つかった。このことが、後の交渉で徐々に「瑕疵担保責任の免責」へとつながり、約1859億円にも上る高額な用地取得費と約860億円もの土壌汚染対策費を投じることになるなど、今日の混迷の事態を引き起こしたといえる。

築地改修は500~800億円で検討

この日、市場PTは、豊洲開場後の「市場会計破綻」を回避する3つの課題解決案を示した。

それによると、市場の豊洲移転が案として成り立つためには、お金の問題を解決しなければいけないとして、(1)豊洲の赤字を防ぐため、他の10市場も含めて使用料を2倍に上げる、(2)11市場を順次売却して、その収益を市場会計に繰り入れて赤字を補う「たこ足生活」で対応する、(3)減価償却分(大規模修繕・改修などの設備費用)約3050億円と豊洲建設費の不足分、市場の赤字は、すべて税金で賄う―の3点を挙げている。

このいずれの回避案も取らない場合、市場の民営化という選択肢も浮上する。

現在の11市場の使用料は、約110億円で、都議会に報告するための減価償却も含めた収益は全体で約180億円。PTの小島座長は「一般的に180億円で回っている会社が、6000億円弱の投資をすること自体、民間では考えられないことだ」と指摘する。

豊洲に移転した場合の3つの課題が突きつけたものは、まさに主体的な変革を排除し、適応能力を失った日本軍組織の行く末を暗示している。

一方で、築地市場を改修する場合は、工事費用が500億円(改修工事のみ)~800億円(工事に合わせて、衛生管理、コールドチェーン化などのグレードアップ)で、設計1年、工期6年。関係者の協力が不可欠という課題はあるものの、営業しつつの改修事例もアスベスト対策工事の事例も、建築技術は積み重ねられているとする、座長取りまとめに向けた検討素材も提示された。

5月に報告書を取りまとめへ

今年2月22日、小池都知事は第1回都議会定例会で、こんな施政方針表明をしている。

「専門家会議と市場問題プロジェクトチームの議論を踏まえ、市場の持続可能性もきちんと検討して、都民の皆様のご意見も参考に、総合的に判断してまいります」

実は、小池都知事の総合的な判断のためのロードマップは、昨年11月に示されたとおりに予定通り進んでいる。市場PTでは4月に素案、5月に案として報告書を取りまとめる。

また、4月に報告書をとりまとめる予定だった都の専門家会議(座長・平田健正放送大学和歌山学習センター所長)は、作業が約2ヵ月遅れる見込みのため、市場PTのとりまとめとは切り離して進められるという。

こうして6月には、市場の移転問題についての判断材料が出揃うことになり、都議選の候補者たちにも示されることになる。

一部報道で「市場の移転問題は都議選の争点にしない」と伝えているものの、実際、真偽のほどはわからない。

長年、現場の当事者の合意形成を怠り、解決を先延ばししてきた都組織のツケは、あまりに重い。