フランスで新型コロナウイルス感染拡大:「過剰に恐れず、重症者を守る」対策方針 日本との違いは?

コロナウイルスの感染が広がる中、パリの高齢者施設でスタッフと話すマクロン大統領(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

世界中で拡大している新型コロナウイルス感染症(COVID-19)。アジア圏のみならず、アメリカやEU諸国でも感染者が増え始めています。

そのひとつフランスでは、どのような状況が起き、そして、どのように対策しようとしているのでしょうか?それを知ることは、日本の対策の現状を評価するうえでの基礎情報としても役に立ちそうです。

日本医師会総合政策研究機構のフランス駐在研究員として現地の医療制度の研究を行う、奥田七峰子さんに聞きました。

(以下の内容は、奥田研究員のFB投稿の内容、および、その後メ―ルなどで行った追加の取材内容をもとにしています。情報は3月7日時点のものです。)

奥田七峰子さん 画像:本人提供
奥田七峰子さん 画像:本人提供

Q)フランスの現状について教えてください。

韓国での新型コロナウイルス(COVID-19)の集団感染と同様、フランスでも宗教の集会(2000人規模)から陽性患者が多数発生し、3月6日、全国の陽性者数が613名(死亡者9名、39名重症。8割は軽症)になりました。

このため、ドイツ国境に近いアルザス地方のオート・ラン県、もう一つ別のクラスターのあるオワーズ県では、保育園・幼稚園・小中高が一斉休校になっています。

Q)医療体制や検査体制において、どのような対策がとられていますか?

PCR検査について、検査の対象は現在の日本のものと近く、重症のかぜ症状がある患者のみとしています。オリヴィエ・ヴェラン保健大臣は「軽症や無症状の陽性者を探すスクリーニング的なテストはしない」と発表しました。なお、これまで検査は指定医療機関のみで行われていたのですが、市中の開業医・診療所でも行える体制を整えています。

医療体制の再編成も進められています。軽症者は、プライマリ・ケア(町の開業医やかかりつけ医)が主に対応することになり、検査キットやマスクが配給されました。一方で重症者は治療設備の整った病院に行くことになります。

重症者を治療する病院は、他科のスタッフを移して増床し、検査患者の為の特別待合室用テントを設営するなど緊急時の体制をとっています。

高齢者施設は、施設の出入りする人を制限(18歳以下は立ち入り禁止)するようになっています。また6日付の省令で、全ての薬局薬剤師は、自分で精製した消毒用アルコール・ジェルを販売しても良い事になりました。(公定価格3ユーロ/100ml)

Q)フランス政府や医療界は、どのようにこの問題に対処しようとしていますか?

政府は、毎日19時に行われる記者会見で「パニックにならないで下さい。我々は、いつ次のステージに進んだとしても十分立ち向かえるよう準備が整いました。」と国民に向けてメッセージを発しています。

ポイントは、陽性患者の8割は軽症であり、『コロナはエボラではない』ということです。決して油断はできませんが、怖がるあまりに過剰防衛することによって私たち自身の体力を弱くしたり、経済に壊滅的な影響を与えてしまう施策は取るべきではないと考えているようです。一方で、高齢者や有リスク患者層(高血圧や糖尿病などの持病を持つ人たち)を徹底的に守る事に力を注ぐべきと考えています。

そこで現時点では、学校の休校は全国一律ではなく、一部のクラスターまたは一部の生徒・クラスのみを対象としています。国境は閉めず、一方で入国したリスク国からの渡航者は2週間隔離をする方針を打ち出しています。

なおマクロン大統領は経済至上主義の政治家と見られがちですが、個人的な意見としては、両親・兄弟が医師の家庭出身であることもあり、公衆衛生を大切にする思想も持っていると思います。ただ、何事も全体のバランスが大事で、短期戦でウィルスに勝ちたいあまり過剰な対策をとると、長期戦で大敗となると考えているようです。

なおこうした政府の決定は、医療界全体の声と外れてはいないと感じています。政府の医政局長のジェローム・サロモンは公衆衛生が専門の教授で、大統領選前からのマクロンの医療ブレーンだったという関係性も働いているようです。

【取材協力】

奥田七峰子(おくだ・なおこ)さん

American Hospital of Paris医療通訳として勤務(1993-2004)

日本医師会総合政策研究機構駐仏研究員(1998-)

医療分野の通訳、調査報告書作成、コンサルティングを行う。

【個人ホームページ】

【参考となる情報】

フランス保健省会見

「コロナウイルスの現状のポイント 2020年3月6日」

Point de situation coronavirus 6 mars 2020