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話題の「注文をまちがえる料理店」一般公開!笑顔あふれる空間を支える仕組みとは

市川衛医療の「翻訳家」
筆者撮影

 9月16日、東京・六本木に「注文をまちがえる料理店」が期間限定でオープンしました。

 ウエイターがすべて、「認知症」を抱える人という、ちょっと不思議なコンセプトのレストラン。いったいどんな体験ができるのでしょうか?

六本木の住宅街の一角にオープンした「注文をまちがえる料理店」(筆者撮影)
六本木の住宅街の一角にオープンした「注文をまちがえる料理店」(筆者撮影)

 六本木の住宅街を歩いていくと、とつぜん人だかりが。ふだんはカフェやビストロとして人気のお店を借り切って、9月16日から18日の3日間限定でオープンしたのだそうです。

看板も「注文をまちがえる料理店」シンボルのてへぺろマークに(筆者撮影)
看板も「注文をまちがえる料理店」シンボルのてへぺろマークに(筆者撮影)

※そもそも「注文をまちがえる料理店って何のこと?」と思われたかたは、プレオープンの模様を取材した下記の記事でまとめています。良かったら。

注文を「忘れる」料理店 ふしぎなお店が目指すものは

 予約時間になると、順番にお店に招かれます。テーブルごとに担当のウエイターさんがつき、席に案内してくれます。

 わたしのテーブルの担当をして下さったのは立野(たちの)さんという、笑顔のすてきなおばあちゃん。

席の担当をしてくださった立野さん。左は筆者
席の担当をしてくださった立野さん。左は筆者

 実は入店後、ちょっとしたハプニング?がありました。立野さん、テーブルまで私を案内してくださったのですが、そこで、今日はウエイターだったということをついつい忘れ、「えーと、私はここで良いかしら?」と言いながら、向かいの席に座ってしまったのです。

「あなたは遠くからいらしたの?」

「あ、いや東京に住んでますので、そんなにかかりませんでした。」

「そうなの、私はね、いつもは画材屋をやっていてね・・・。」

 ニコニコしながら話しかけてくださる立野さんにつられて、ついつい会話がはずみます。5分ほど話したところで、その席に座るはずのお客さんが到着。「あら、ここあなたの席なの?」というわけで、ウエイターのお仕事に戻っていかれました。

 その後、メニューをもらって料理を注文。3種類から選べます。なお料理は、プロの料理人(しかも人気店!)がボランティアで作っているのだそうです。

この日のメニューは、バーガーと担々麺、そしてオムライスでした。(筆者撮影)
この日のメニューは、バーガーと担々麺、そしてオムライスでした。(筆者撮影)

 食事と会話を楽しんでいると、音楽の演奏がはじまりました。

 弾いているのは、4年前に若年性の認知症がわかった女性。ピアノが大好きだったのですが、認知症が進むにつれて楽譜が読めなくなり、鍵盤の位置もわからなくなっていきました。好きなピアノが弾けなくなったことにより自信を失い、ふさぎこんでいたといいます。

 それを見たご主人が、趣味のチェロをいかして「一緒に演奏しよう」とピアノをもういちど練習するよう誘いました。基準となる「ド」の位置の鍵盤にシールをつけたりして工夫しているうち、だんだんと弾けるようになったんですって。

デザートのどら焼きにも、「失敗したって別にいいじゃん」を表すてへぺろマークが
デザートのどら焼きにも、「失敗したって別にいいじゃん」を表すてへぺろマークが

 

認知症を抱える人が安心して働ける仕組みとは

 冒頭ご紹介したように、このお店では、認知症を抱える人がウエイターとして働いています。席への誘導や注文取りはもちろん、料理の配膳やお皿の片付けも行います。もしかしたら、「認知症を抱える人に、そんなことをさせたら危ないのでは?」と思ってしまう人もいるかもしれません。

 ただ実際にお店に行ってみて、そこには非常にこまやかな気遣いがされていることがわかりました。ホールには、ウエイターをしている方を普段から知っている人(福祉施設の職員さんなど)が常駐しており、困ったことや危険につながることがないか目を配っています。また、注文と違ったメニューが届いても大丈夫なように、お客さんには来店前に、アレルギーのある食品があるかどうかを確認しています

 もちろん、そもそも「間違う」ことを受け入れ、楽しむために来店しているというコンセプトがあるわけですが、認知症を抱える人が安心して働けるためにも「間違ってはいけない」ポイントはきちんとサポートする仕組みを作る、そんな運営者側の意図を感じました。

安心して働ける「環境」があれば、認知症を抱えていても活躍できる
安心して働ける「環境」があれば、認知症を抱えていても活躍できる

 そしてもうひとつ私が感じたポイントは、ウエイターやスタッフの衣装からお店の内装、さらには食器やマグカップにいたるまで統一したデザインがあり、「あたたかで、ワクワクできる」雰囲気が作られていること。

内装や食器などのデザインは統一されている
内装や食器などのデザインは統一されている

 お客の側からすると、こうした環境があることで「自分も参加者のひとり」という一体感を得られ、よりウエイターさんに声をかけたり、手助けをしてみたりしやすくなります。また働く側からしても、認知症を抱えていようがいまいが、お洒落でワクワクできる環境って大事ですよね。

 これは個人的な意見ですが、「福祉」という言葉がつくと、ついつい無機的だったり、逆に過剰に親しみをもたせようとするようなデザインが選ばれる傾向があるように思います(個人的な意見ですよ!)。

 ただ今回の体験を経て、「福祉」というカテゴリーに入る取り組みであるからこそ、デザインの力にもっともっと注目すべきではないのか、と感じました。使いやすさだけではなく、あたたかさとか、ワクワクとか、そういう要素が入ってくることで、これまでになかった新しい可能性が開けるように感じます。

注文をまちがえる料理店 今後の展開は

 注文をまちがえる料理店は、9月18日まで東京・六本木でオープンしています。昨日確認したところ、ほとんどの席はすでに予約で埋まっているということですが、若干ですが当日のお席もあるようです。くわしくは運営事務局のフェイスブックページをご覧ください。ただとても人気で、すぐに売り切れてしまうそうです。

 なんだ、ざんねん・・・、と思ったかたもいらっしゃるかもしれませんが、同様の取り組みは今後も続いていくようです。運営事務局のもとには各地から実施を希望する問い合わせが相次いでいるとのことで、今回のオープンによって蓄積されたノウハウや、食器やエプロンなどの資材を提供することで、全国にこの取り組みを広げていきたいと考えているとのことです。

 さっそく今月24日には、東京・町田市で開かれる「RUN伴まちだ2017」で、認知症を抱える人による「注文をまちがえるカフェ」の出店が予定されています。運営事務局によれば、こちらはレストラン形式ではなくテントのような形で出店するので、お席にも余裕があるとのこと。

 あたたかでワクワクできる空間で、認知症を抱える人も、そうでない人も安心して触れ合える。そんな普段とはちょっと違う時間を過ごせる場を、よかったら体験してみてください。

【※】筆者は今回の記事の執筆にあたり、運営事務局より一切の利益を得ていません。またこの会は完全にボランティアにより運営され、会場のレンタル費や食材の購入などの費用以外の利益は得ていないことを確認しています。

医療の「翻訳家」

(いちかわ・まもる)医療の「翻訳家」/READYFOR(株)基金開発・公共政策責任者/(社)メディカルジャーナリズム勉強会代表/広島大学医学部客員准教授。00年東京大学医学部卒業後、NHK入局。医療・福祉・健康分野をメインに世界各地で取材を行う。16年スタンフォード大学客員研究員。19年Yahoo!ニュース個人オーサーアワード特別賞。21年よりREADYFOR(株)で新型コロナ対策・社会貢献活動の支援などに関わる。主な作品としてNHKスペシャル「睡眠負債が危ない」「医療ビッグデータ」(テレビ番組)、「教養としての健康情報」(書籍)など。

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