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「ゴムつけて」「性感染症は大丈夫?」大事なのに伝えにくいことを伝える方法とは

市川衛医療の「翻訳家」
(ペイレスイメージズ/アフロ)

想像してみてください。あなたが恋人と初めて性交渉をもつとき。

次のようなことを口に出せるでしょうか?

性感染症は大丈夫?

検査を受けたことがある?

妊娠したくないのでコンドームをつけて?

ある大学の講義前、学生たちに向けられたこの質問。参加していた15人の回答は全て「口に出せない」でした。

でも、その気持ちもわかりますよね。私も、いざという場で口に出せるかと想像すると、難しいかもなあ…と思ってしまいます。

しかし考えてみると、性感染症から身を守ったり、(特に女性の場合)望まぬ妊娠を防ぐために、これらの質問はとても役立つはずです。でも「それはわかっているけど、口に出すにはハードルがある」というのが正直なところ。それってなぜなのでしょうか?

いま、性感染症のひとつ「梅毒」が急激に広がり、現在の統計法になった平成11年以降、過去最速のペースと報道されています。中でも、若い女性の感染者が増えていることが指摘されています。

梅毒患者、はや1000人超え 昨年同期上回り、過去最速ペース(産経新聞2017年4月4日)

性感染症の予防について考えた時、「気にかかっていることをオープンに伝える」ことは大きな力になるはずです。そのハードルを、どうすれば下げることができるのでしょうか。

助産師の育成につとめるほか、学校における性教育の大切さを伝える出張講義を積極的に行ってきた、齋藤益子さんに伺った話をまとめました。(なお冒頭にご紹介した質問のケースも、齋藤さんに伺ったものです)

齋藤益子さん(助産師・宮崎県立看護大学大学院看護学研究科長)
齋藤益子さん(助産師・宮崎県立看護大学大学院看護学研究科長)

なぜ、伝えられないのか?

Q)性に関して、率直に「こうしたい、こうして欲しくない」と伝えたほうが良いとは、多くの人が考えていると思います。でも、なぜいざという場で「伝える」のが難しいのでしょうか?

日本では幼少期から、性に関することは「恥ずかしく、隠すもの」という認識が作られています。例えば、先日テレビ番組で「月経」の悩みについて女性たちが語る場面がありましたが、みな顔にお面をつけて隠していました。身体の生理である月経について語ることは恥ずかしく隠さないといけないことなのでしょうか?

「性」という漢字は「心に生きる」と書きます。性は、心が活き活きと生きるためのエネルギーをもたらすもので、大切なもののはずです。

どうすれば、伝えられるようになるのか?

性に関する話題を、なかなか口に出せない。その背景には、次のような不安があるのではないかと齋藤さんは考えています。

・相手が嫌な思いをするかもしれない

・自分が嫌な思いをするかもしれない

・伝えるための専門的な知識がない

・伝えるための伝え方がわからない

Q)確かにこうした不安は、誰の心の中にもあるものだと思います。例えば「こんな伝え方をすれば、相手や自分が嫌な思いをしにくくなる」というポイントを知っておけば、心理的なハードルを下げられそうですが、何かアドバイスはありませんか?

人は、自分の行動を批判されたり、指摘されたりすると、その行動に問題があるとわかっていても、認めたくないものです。主語を「あなた」にして伝えると、非難や批判、指摘の対象として受け止められやすくなります。

例えば、性感染症が心配なのでコンドームを使ってほしいときに「(あなたが)性感染症かどうか不安なので、コンドームを使ってくれない?」と伝えると、相手に「自分を疑っているの?」という反発の気持ちが生まれてしまうかもしれません。

一方で、主語を「わたし」にした場合。「(わたしもあなたも)性感染症をもっていないか心配だから、コンドームを使わない?」と伝えれば、相手に「自分のことを心配してくれているんだ」という感謝の気持ちが生まれるかもしれません。良くない行動でも、それをしている相手を非難するのでなく、その行動に対して私がどんな気持ちになるかを伝えるのがポイントです。

子どもに「性」を語るとき

Q)性については、親子の間でもなかなか話題に出しにくいという声も聞きます。性行為の大切さや、逆に、危険から身を守る方法について、親から子へ伝える時のポイントはあるのでしょうか?

まず大切なのは、場面設定です。「今日は大切な話をするから」と事前に時間を設定しておく。そしてテレビを消す・食事の前後は避けるなど、集中して「聞きやすい環境」を作る。そして子供の目を見ながら、熱意をこめて話してください。メッセージは「わたし」メッセージで、愛情をこめて。

また残念ながら、性の加害者の多くは男性とされています。ですから、男子に対する性教育の必要性は非常に高いと言えます。特に「男子の性機能のメカニズム」と「自己コントロール法」について、できれば同性である父親が語るのが効果的だと思います。

「伝えにくいことが伝わる」魔法のことばのかけ方

長年、性教育の現場を見てきた齋藤さん。伝えにくいことを伝えるときに、相手の心に届くために役立つ「魔法のことばのかけ方」があるのだそうです。

齋藤益子さん「魔法のことばのかけ方」
齋藤益子さん「魔法のことばのかけ方」

伝えたいことがあるとき、「自分のため」でなく「相手のため」を思って伝えるという気持ちを持ってみてください。何よりもあなたが大切という心をこめることが、結果として、相手との心の交流を芽生えさせることにつながります。

「知る」ことの大切さ

ここまでを読んで、「言われていることはわかるけれど、それが出来ないから困っているんじゃないか」と思われた方がいるかもしれません。もちろん、齋藤さんの言われているポイントを守ったとしても、やっぱり「伝わらない」ケースもあるのだと思います。

しかし、これは個人の意見ですが、従来、望まない妊娠や性感染症を防ぐための対策というと「正しい知識を持ちましょう」という点が常に強調されていたように思います(もちろん、それはとても大切なことなのですが)。

でも考えてみると、性に関することの多くは他者との関係によって行われます。自分だけが正しい知識を持っていたとしても、相手に伝えられないのでは意味がありません。

「知る」ことが大切なのはもちろんのこととして、「大切なのに伝えにくいことを、どうすれば伝えられるのか?」というポイントが少しでも多くの人に広まることで、いま現に起きている悲しい事態を少しでも減らすことにつながるかもしれない。齋藤さんのお話しを伺って、改めてそう気づかされました。

執筆:市川衛ツイッターやってます。良かったらフォローくださいませ

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今回の記事は、筆者が参加した「メディアと医療をつなぐ会」の第2回勉強会(2017年4月19日開催)において齊藤益子さんが話された内容を再構成しました。

医療の「翻訳家」

(いちかわ・まもる)医療の「翻訳家」/READYFOR(株)基金開発・公共政策責任者/(社)メディカルジャーナリズム勉強会代表/広島大学医学部客員准教授。00年東京大学医学部卒業後、NHK入局。医療・福祉・健康分野をメインに世界各地で取材を行う。16年スタンフォード大学客員研究員。19年Yahoo!ニュース個人オーサーアワード特別賞。21年よりREADYFOR(株)で新型コロナ対策・社会貢献活動の支援などに関わる。主な作品としてNHKスペシャル「睡眠負債が危ない」「医療ビッグデータ」(テレビ番組)、「教養としての健康情報」(書籍)など。

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