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教員勤務実態調査結果から透けてみえる、教員と生徒の信頼関係の問題

前屋毅フリージャーナリスト
(写真:アフロ)

 東京都教育委員会は7月27日、2022年度の都立学校教員勤務実態調査の集計結果を公表した。あらためて教員の長時間勤務の実態を明らかにした結果だが、さらに注目すべきは「学校に欠けているもの」が明らかになったことだ。

|学校の欠点が透けてみえていた

 勤務実態調査は、高校78校、中等教育学校2校、特別支援学校25校の都立学校で働く全教員を対象にしている。その結果は、1週間あたりの在校時間が50時間を超える長時間勤務をこなしている高校教員が60.2%、60時間を超える教員も26.6%となっている。前回の2017年度調査にくらべて減少しているそうだが、長時間勤務の実態は相変わらずで、「やっぱり」の結果だ。教員の働き方改革はすすんでいない。

 この勤務実態調査で、気になるところがある。「働き方に関する意識」という項目で、「悩みをどれくらい感じているか」と質問したものだ。

 そこで、「生徒の悩みや相談に応ずる時間が十分に取れない」に「とてもそう思う」と答えている高校の教員が37.6%、「まあそう思う」が47.1%もいる。合計して84.7%である。

 つまり、高校教員の84.7%が、生徒の悩みや相談に応ずる時間がじゅうぶんに取れないことに悩みを感じていることになる。そして高校教員の多くが、もっと生徒の悩みや相談に応じたいと考えているともいえる。しかし、それが、できていない。その理由が、教員の多忙にあることは言うまでもない。これだけでも、教員の働き方改革を推しすすめなくてはならない理由になる。

 学校改革論議が、さまざまなかたちで展開されている。ただし、どうしても「学力向上」に向けた議論が優先されすぎている気がする。子どもたちの悩みへの対応は、二の次にされてしまっている。

 80%以上の高校教員が生徒の悩みや相談に応ずる時間がじゅうぶんに取れないと悩んでいるという勤務実態調査の結果も、生徒の悩みへの対応が疎かにされてしまっている証拠である。

 悩みや相談に応じてくれない教員に、子どもたちが信頼感をもてるわけがない。現在の学校は、教員と生徒の信頼関係がじゅうぶんに築ける場ではないのではないだろうか。

 教員と生徒の信頼関係がじゅうぶんでないなかで、「学力向上」の改革も効果を上げられるはずがない。教員と生徒の信頼関係があってこそ、学びも深まる。

「学力向上」だけでなく、子どもたちが人とのかかわり、社会性を身につけていく場が学校である。そこで重要になってくるのは、信頼関係である。信頼関係を築けない学校は、学校の役割を果たしていないとも言える。

 学校改革をすすめるなら、教員と生徒の信頼関係の構築こそ重視する必要がある。そのためには、教員が生徒の悩みや相談に応ずる時間をじゅうぶんに確保できる改革を行うべきである。

 そのために働き方改革を推進し、長時間勤務を減らしながら、生徒の悩みや相談に応じる時間を確保していく方向性が求められる。間違っても、生徒の悩みや相談に応じるために、長時間労働に拍車をかけるようなことがあってはならない。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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