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ノンビリすぎませんか?文科大臣!

前屋毅フリージャーナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

「そんなノンビリでいいのか」といった疑問とも怒りともとれる発言がネット上で飛び交った。永岡桂子文科大臣が5月19日の衆院文部科学委員会で、中教審(中央教育審議会)に教員の働き方についての諮問で、「来年の春ごろに方向性を示すことを、ひとつのめどとして検討をすすめたい」と発言したことに関してのことだ。「勤務実態調査」の速報値も発表され、あらためて教員の過重労働ぶりが浮き彫りになっている。それでも働き方の方向性を示すのが来年の春というのでは遅すぎる、という受け取り方なのだ。

|文科省は全力投球してきた?

 永岡文科相は中教審に「『令和の日本型学校教育』を担う質の高い教師の確保のための環境整備に関する総合的な方策について」(以下、諮問書)を諮問したのは、5月22日だった。それを読んでみて驚いた。以下は、ちょっと長いが諮問書からの引用である。

「平成31(2019)年1月に中央教育審議会から答申された『新しい時代に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について』(以下「学校における働き方改革答申」という)を踏まえ、この間、学校における働き方改革を文部科学行政における最重要施策の一つとして、あらゆる手立てを総動員して強力に推進し、国・学校・教育委員会が連携して、それぞれの立場において、教師が教師でなければできないことに全力投球できる環境の整備を進めてきました」

 短く言ってしまえば、「中教審答申を踏まえて文科行政の最重要施策として、あらゆる手立てを総動員して強力に推進し、教員が教員の仕事に全力投球できる働き方改革をすすめてきた」となる。これを、どれほどの教員が素直に受け入れられるだろうか。「エッ!」と驚きの声をあげる教員が多いはずだ。教員の働き方改革は、いっこうに進捗していないのが現実だからだ。

|検討ばかり重ねて前進できるのか

 諮問書には、「教師の勤務制度を含めた、更なる学校における働き方改革についてです。具体的には、以下の事項などについてご検討をお願いします」とある。そこには、いくつかの検討項目が並べられているのだが、最初の事項をみて「エッ!」とおもってしまった。そのまま引用する。

「学校における働き方改革答申において示された、いわゆる『学校・教師が担う業務に係わる3分類』について、これまでの取組や勤務実態調査の結果等を踏まえ、更なる役割分担・適正化を推進する観点からの学校・教師が担う業務の在り方」

 中教審の学校における働き方改革答申は、「学校及び教師が担う業務の明確化・適正化」について答えている。そこでは、学校や教員が担ってきた業務について「学校の業務だが、必ずしも教師が担う必要のない業務」「教師の業務だが、必ずしも教師が担う必要のない業務」「教師の業務だが、負担軽減が可能な業務」の3つに分類している。

 つまり、中教審としては学校・教師が担う業務の在り方について、すでに答申しているのだ。にもかかわらず諮問書は、「さらに検討しろ」といっている。いたずらに検討だけ重ねさせている印象がある。中教審のメンバーも戸惑っているのではないだろうか。

|文科省の「やるべきこと」は示されている

 3分類のうち「学校の業務だが、必ずしも教師が担う必要のない業務」は、「学校や教員がやる必要のない業務」である。これを業務からはずせば、かなりの余裕が生まれ、働き方改革は前進するはずである。

 その「やる必要のない業務」について、「登下校に関する対応」「放課後から夜間などにおける見回り、児童生徒が補導された時の対応」「学校徴収金の徴収・管理」「地域ボランティアとの連絡調整」などと具体的に列挙されてもいる。

 これらの「やる必要のない業務」は、学校現場では廃止されたのだろうか。この疑問に多くの教員は、「No!」と答えるはずである。中教審が「やる必要のない」とした業務も依然として教員が担わされ、よって働き方改革はすすんでいない。

 中教審の学校における働き方改革答申には、「これまで慣習的に行われてきた業務を思い切って廃止するに当たっては、文部科学省を連携の起点・つなぎ役として活用しながら、(略)地域や保護者に伝え、理解を得ることが求められる」と記されてもいる。「やる必要のない業務」を廃止するために、文科省の積極的な介入を促しているといえる。

 諮問書に明記しているように、文科省が「あらゆる手立てを総動員して強力に推進」してきたのであれば、「やる必要のない業務」は学校現場から消えつつあるか、消えていなければならない。しかし、そうなっていない。

「足りないのは文科省自身の努力」と指摘されても致し方ないのではないだろうか。それでいて中教審にさらなる検討を求め、方向性を示すのは来春でいいとしている。方向性がでても、文科省自身が動かない状況はじゅうぶんに考えられる。時間ばかりかけて、働き方改革はいっこうに進展していかないことになる。そんなノンビリしたことで、いいのだろうか?

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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