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私立学校の教員にとっても、給特法の見直しは無関係ではない

前屋毅フリージャーナリスト
(写真:イメージマート)

「うちの教員給与は『給特法に準ずる』となっています」と、ある大手私立学校の教員が言った。そのため基本給の4%が支払われるだけで、そのほかの残業代はいっさい支払われないという。それが現在、大きな問題となってきている。

|私立でも定額働かせ放題

 給特法の正式名称は「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」で、その名のとおり公立学校の教員に適用される法律である。本来、私立学校の教員に適用されるのは労働基準法(労基法)であって、給特法ではない。

 しかし、私立学校にも影響を及ぼしているのが現状だ。過剰な残業を強いられながら、定率の上乗せだけで済まされている。公立学校教員と同じ、いわゆる「定額働かせ放題」になっているのだ。

「かなり多くの私立学校で、公立学校に準じるような給与体系になっています」と言うのは、全国私立学校教職員組合連合(全国私教連)書記長の葛巻真希雄さんである。多くの私立学校で、「定額働かせ放題」になっているということだ。

 そうなってしまった一因に、「うるさいことは言わないで自由にやらせてくれ、その代わり残業代についても問題にしない」という教員側の意向も強かったからではないか、と葛巻さんは言う。給特法における4%という教職調整額は、1966年の教員勤務実態調査における公立学校教員の月間平均残業時間8時間を根拠に算出されている。

 当時は、平均の残業時間は多くなかったわけだ。平均だから、8時間より少ない教員も少なくなかった。それで8時間分の残業代が一律に支給され、しかも管理職が残業を命じることも禁じているのが給特法だ。教員にとって悪い条件ではなかった。

 その給特法に準じる給与体系なら、「自由にやらしてくれ」という私立学校の教員も反対する理由はなかったといえる。そして、私立学校では給特法に準じる給与体系が広がり、定着していった。

|私立でも問題化する教員の過重労働

 それが問題になってくる。「月平均残業時間8時間」といった状態が、公立でも私立でも崩れていくからである。文科省による2016年度の勤務実態調査では、公立での平均残業時間は小学校で59時間、中学校で81時間となっている。まさに、急増している。

 この残業時間の急増にもかかわらず、4%の教職調整額だけ据え置かれ、それ以外の残業代は支払われない状態なのだ。これに教員からも不満の声が高まってきており、給特法見直しの動きとなっている。

 状況は、私立学校も同じだ。「教員の仕事量は急増させるが人件費を抑える経営側の姿勢が顕著になりました」と、葛巻さん。そのためには、給特法に準じるとした給与体系は便利だったといえる。

 今年6月から本格的に議論が始まる給特法の見直しは、私立学校の教員にも無関係ではない。給特法に準じる給与体系は、給特法の見直しで変えていかざるをえないからだ。

 ただし私立学校の教員は、給特法見直しだけを待っている必要もない。「組合としては36協定を結ぶことに力をいれています」と、葛巻さん。

 労基法36条では、残業について労使が納得できる条件で合意し、書面による協定を結ぶことを求めている。これが36協定だ。

 もともと労基法適用の対象である私立学校の教員は、「定額働かせ放題」にならない条件を経営側から引き出す権利をもっているわけだ。「武器」があるわけで、これを行使しない手はないだろう。

 それでも、給特法見直しは無関係なわけではない。給特法見直しの議論は、36協定を結ぶ交渉に大きな影響を与えてくるはずだからだ。私立学校の教員も、給特法見直しに無関係ではない。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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