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児童生徒の自殺は文科省「通知」で減るのか?

前屋毅フリージャーナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

 1年間で自殺した児童(小学生)と生徒(中学高校生)の数が、初めて500人を超えて過去最多になる見通しだ。これについて文科省は「通知」をだしたが、それで自殺を減らすことはできるのだろうか。

|指示だけの文科省

 厚生労働省の発表によれば、2022年の1年間で自殺した小中学生や高校生は暫定値で512人と、過去最高になりそうだ。

 これについて2月28日の記者会見で永岡桂子文科相は、「憂慮すべき状況と考え、大変重く受け止めている」と述べている。そして、「保護者や学校関係者の皆さんがたにおかれましても、生徒児童等の態度に現れる微妙なサインに注意を払っていただきまして、不安や悩みの声に耳を傾けていただきたい」と続けている。

 この文科相発言を徹底するためなのか、文科省は2月28日付で「児童生徒の自殺予防について」という「通知」を教育委員会等に向けてだしている。そこには、(1)学校における早期発見に向けた取組(2)保護者に対する家庭における見守りの促進(3)学校内外における集中的な見守り活動などの項目が記されている。

 とはいえ、真新しい施策が示されているわけではない。アンケート調査などで悩みを抱える児童生徒の早期発見と対応に努め、保護者に見守りの促し、地域と連携した取組を構築し、実行することと従来どおりの「指示」である。

 こうした「指示」への対応の多くは、学校現場に下りてくることになる。教員は、ますます多忙となる。

|教員の多忙化に拍車をかけて自殺予防はできない

 自殺予防のためには、一人ひとりの子どもに対する見守りやケアが大事なことを、教員は理解している。それができないのは、多忙のために子ども一人ひとりに向き合う時間も余裕もないからだ。ある教員は、「忙しすぎて子どもの相手をする時間がない」と冗談ではなく、深刻な表情で語った。

 そんな状況で新たなアンケート調査が下りてくれば、教員の多忙に拍車がかかるのは明らかだ。ますます、教員は子どもと向き合えなくなる。

 永岡文科相は先の会見で、「私をはじめとする味方になってくれる大人は必ずいるということを(子どもたちに)知っていただきたい」とも語っている。教員も、「子どもの味方になりたい」と考えているはずである。それが難しいのは、教員の多忙を解消するどころか、拍車をかけることばかりに熱心な文科省にも責任がある。

 空虚な「指示」を並べてみたところで、児童生徒の自殺を防ぐことにはならない。必要なのは、子どもたちと大人が向き合う時間と余裕を学校現場につくりだすことだ。それこそ、文科省が本気で取り組まなければ実現できない。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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