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「職員室のIT化」以上に、教員の働き方改革を考えるなら、必要なのは「引き算」の発想

前屋毅フリージャーナリスト
(写真:イメージマート)

 文科省は来年度(2023年度)予算の概算要求に職員室をIT化するためのモデル事業などの経費10億円を盛り込むという。IT化が不要とは言わないが、その前に「やること」があるのではないだろうか。

| これまでのIT化は無になるのか?

 公立小中学校教員の働き方改革などをすすめるために文科省は、「子どもの欠席連絡や成績管理などの学校業務を教員が手元のパソコンで一元的に扱える新たな『校務支援システム』を導入する方針を決めた」、と『毎日新聞』(8月27日付 電子版)が伝えている。しかも、「全国で仕様を統一」するようだ。

 校務のIT化は、多くの自治体、学校での取り組みがすすんでいる。それは文科省も承知しているはずで、その動きを支援・促進するために2017年度から2018年度には「次世代学校支援モデル構築事業」を実施しているし、前年の2016年3月には「校務支援システムの導入の手引き」を示してもいる。

 にもかかわらず、「新たな『校務支援システム』」を導入する方針だという。これまで取り組みがすすめられてきたシステムと統一性があるのかどうか、まずは気がかりである。「全国で仕様を統一」する「新たなシステム」になれば、これまで取り組まれてきた成果が「ムダ」になる可能性はないのだろうか。これまでのシステムを捨てて新たなシステムを導入するとなれば、教員のストレスと負担を増やすことにもなる。そこを文科省は、どう配慮していくのか注目したい。

| IT化が働き方改革の切り札?

 さらに大きな問題は、職員室のIT化を文科省は「教員の働き方改革を進めるため」としているようだが、はたして根本的な働き方の改革につながるのか、ということだ。児童生徒の欠席連絡が電話連絡でなくネット上でできるようになれば、効率化にはなる。効率化にはなるが、教員の仕事が削減されるわけではない。勤務時間前に教員が行っている登校指導が、システム導入で消えるわけでもない。成績管理がパソコンでできるからといってテストの回数を減らせるわけでもないし、逆に「管理は簡単なのだから増やせ」となる可能性もある。システム化されたからと、文科省や教育委員会からのアンケート依頼や連絡文書が増える可能性だってありうる。

 効率化は大事なことだ。IT化によって可能になる効率化はすすめるべきである。しかし、それだけで「教員の働き方改革になる」と錯覚させるのは問題だ。

 今年2月に文科省は、「全国の学校における働き方改革事例集」の改訂版を公表している。校務分掌を公平に分担することで、それまで集中していた主任教員の負担が週1時間、年間で43時間削減された、などの事例が数多く掲載されている。

 しかし、多くは「効率化」でしかない。「削減」ではない。先の校務分掌でも、校務分掌をなくしたわけではなくて、負担を「公平」にしたにすぎない。それによって主任教員の負担は減ったかもしれないが、逆に増えた教員もいる。

「働き方改革」というのなら、「効率化」も必要かもしれないが、必要な校務分掌なのか、教員がやるべきものなのかどうかを見直し、「削減」していく「引き算」の発想が必要なのではないだろうか。

 校務支援システムの導入も、ただ「効率化」ばかりをクローズアップしてみても仕方ない。「教員の働き方改革」というのなら、「引き算」を優先する必要があるのではないだろうか。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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