「授業のスタイルは大きく変わりました」と、埼玉県所沢市立向陽中学英語科のBさんは言った。今年4月から完全実施となった新学習指導要領は従来の授業スタイルを変えることを求めており、それに向陽中学では積極的に応えようとしている。

|文法・語彙主体からの転換

 向陽中学校長の沼田芳行さんは、新型コロナウイルス感染症(新型コロナ)による全国一斉休業で少しだけ余裕ができた教員に向かって新学習指導要領を読み込んでみるように提案した。その前から新しい学習指導要領を意識して勉強していたBさんにとって沼田さんの提案は驚きではなかったが、それによって「英語科全体として新学習指導要領を検討しやすくなった」という。さらに、「かなり読み込みました」とも断言した。

 新学習指導要領では何が大きく変わったのかを訊ねると、「主体的・対話的な活動でしょうか」との答が戻ってきた。もう少し詳しくと質問したら、次のように説明してくれた。

「従来の授業では文法指導が優先することが多かったのですが、現在は文法指導する前にある場面を提示し、その場面のシチュエーションでまずは会話をさせるような授業にしています。会話してみた内容から、こういう文法がこんな場面で使えるといった推測をさせ、生徒同士で話し合い活動をさせ、そこから学んでいくスタイルです。教員が全部を教えるのではなくて、推測や話し合いといった対話をとおして生徒が主体的に学んでいく、そこに教員は軽く説明し補足していくというスタイルです。従来とは、教える順番が違ってきています」

 文科省の「中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 外国語編」には新学習指導要領における「改訂の趣旨」として、「授業では依然として、文法・語彙等の知識がどれだけ身に付いたかという点に重点が置かれ、外国語によるコミュニケーション能力の育成を意識した取組、特に『話すこと』及び『書くこと』などの言語活動が十分ではない」という一文がある。文法・語彙を重点的に教えることが従来の授業であったため、言語活動が十分ではなく、そのためコミュニケーション能力が育っていない、との指摘である。それを新学習指導要領では改めよう、というわけだ。

 その主旨に応えようとすれば、Bさんの授業のように生徒が主体的に取り組む学習、教員の指導も従来とは順番が違ってくることになる。中学や高校で何年も英語を勉強しながら英語でコミュニケーションがとれない多くの日本人には、この改訂の必要生が身につまされる思いで理解できるのではないだろうか。

 さらに、新学習指導要領における「変化」の特徴的な部分と、そこでの指導について語ってもらった。

「今年からの教科書には、自己表現をして作文を書かせるページがあるんです。たとえば、『将来の夢について書いてみよう』という出題があります。ゼロの段階からやらせる出題なので、成績優秀な子はできたりしますが、できない子は置き去りになります。ゼロから考えて英文で書きなさい、って難しいんです」

 先の「改訂の趣旨」に「『書くこと』などの言語活動が十分ではない」とあるので、自己表現をした英文を書かせようというのが教科書の意図なのかもしれない。それが書ければ、英語を使った自己表現能力やコミュニケーション能力の向上にもつながるだろう。

|将来の夢を英文で書け、という授業

 ただし、難しい。旧学習指導要領の時代には文法を暗記させられるような授業を受けてきた生徒たちにしてみれば、いきなり「英語で将来の夢を書け」と言われても面食らうしかないはずだ。

「だからステップを踏んでいます。まずは、将来の夢は何なのか考えてもらう。それを英語で表現させてみる。次には、なぜそういう夢をもつようになったのかを考え、英文で書いてもらう。そうやってステップを踏んであげると、文章になっていきます。文章をかけるようになります」

 もちろん、それだけで文章が書けるわけではない。「スペルミスや文法ミスは多いので、それは私のほうが指摘して教えていくことになります」と、Bさん。教えるのが先ではなく、まずは生徒にやらせてみて、それから教員が指導する。従来とは順番の違う指導である。

 それでも生徒の個人差は大きいので、一律の指導で済むものではない。ステップを踏むにしても、スペルや文法を指導するにしても、個々との対応になるので、教員の負担は大きい。語彙や文法を一律に教えるような従来の指導法のほうが、教員にとっては楽なのかもしれない。しかし、Bさんは従来の指導法に戻るつもりはないらしい。

「スペルや文法、表現にしても、こちらで指導してしまうんですけど、その方法にも問題があるかなと反省しているところなんです。たとえば“I am a student.”と書くつもりで“I a student.”と書いてしまった生徒がいたとすると、すぐに“am”を書き足す指導をしてしまうんです」

 それではいけないのか、と訊くと、次の説明に続いた。

「やはり、生徒に考えさせるような指導をしなければいけないと思うんです。いきなり答を教えるのではなくて、生徒が自ら考えて答にたどりつく指導をしたい。そのためにはスペル間違いを示すマークとか文法の間違いを示すマーク、語彙とか内容が足りないよと教えるマークを考えて、それを教員が付けて、生徒にもういっかい考えてもらう、そういう指導にもっていけないかな、と考えたりもしています。新学習指導要領では、そういうことを求めていると思います」

|難しいけれど、やらなければならない

 ただし、それをやっていると、いくら時間があっても足りないだろうと思える。新学習指導要領が求めていることであっても、指導現場で実践するとなると、なかなか難しそうだ。

「難しいですね」と、Bさんも言う。そして、「それでも、やらなければいけないと思います。新学習指導要領で決められているからではなく、新学習指導要領が求めていることは、これから生徒たちにとって大事なことです。だから、教員としてやらなければならない」

 新学習指導要領が示していることは、確かに子どもたちにとって大事なことだ。英語でのコミュニケーションは、「できない」よりも「できたほうがいい」に決まっている。しかし、それを学校現場で実践するのは簡単ではない。

「実践するために、どうすればいいか、その手立てを模索しているところです」と、Bさん。新学習指導要領を無視して従来の指導を継続したほうが楽なのかもしれない。しかし新学習指導要領を読み込み、その趣旨の大切さを理解し、実践方法を模索している教員が、Bさんや向陽中学の教員だけでなく、全国にいるはずである。そういう教員を応援し、支援していくことが必要とされているはずだ。