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文科省は「お手上げ」なのか?教職員のメンタルヘルス

前屋毅フリージャーナリスト
(写真:アフロ)

 文科省が、4月9日付の都道府県と政令市の教育長宛の「通知」でメンタルヘルス対策について触れている。しかし、新しい対策が提案されているわけではない。

|何が喫緊の課題なのか

 通知は、「令和元年度公立学校教職員の人事行政状況調査」(2020年12月22日公表)の結果を踏まえたものである。その調査によれば、2019年度(令和元年度)に精神疾患による病気休職者が5478人にのぼっている。これは過去最高となる数字でもあり、早急に対策を講じなければならない状況にあることを示唆している。

 だからこそ、文科省も通知でふれたことになる。そうなると、文科省として新たな策を講じることにしたのかと期待してしまうのだけれど、そうでもなさそうだ。

 通知の内容について『教育新聞』(2021年4月12日付電子版)が報じているが、通知は「メンタルヘルス対策の充実・推進が喫緊の課題」と指摘しているという。文科省も「喫緊の課題」と認識しているわけだ。

 そして記事は、「勤務時間管理の徹底やストレスチェックを全ての学校で実施するなど、従来の取り組みを改めて求める」と伝えている。新しい取り組み提案はなく、「従来の取り組みを改めて求める」だけだという。

 さらに、新型コロナウイルス感染症(新型コロナ)に対応した業務が「精神的な緊張や心身の過度な負担につながっていることも懸念される」と通知は指摘している。新型コロナがいっこうに収束の兆しをみせないなかで、学校における3密(密閉、密集、密接)の回避や、検温、マスク装着など新たな仕事も教職員に任されている。ただでさえ忙しい教職員の負担が、さらに重くなっているわけだ。

 それらが心身の負担につながっていることを、文科省も認識してはいる。ただし対応としては「適切な病気、特別休暇等の取得など、各地方公共団体の条例等にのっとり、引き続き適切に取り扱うよう求めた、と記事は伝えている。またもや、「引き続き」でしかない。

 休暇を取りたくても、学級運営が滞ることを考えれば簡単には取れない。そういうなかでも、新型コロナ対策だけでなく、どんどん仕事は増えるばかりなのが教職員の実態である。仕事は減らないのに帰る時間ばかりを厳しく命じられる勤務時間管理では精神的にも肉体的にも追い詰められるだけでしかなく、それでストレスチェックで問題を指摘されても後の祭りでしかない。

 従来の取り組みを引き続きやったところで、状況はあまり変わらないはずである。だから、精神疾患による病気休職者数が過去最高になってしまう。

 教職員の精神疾患の問題を解決するには、勤務時間を減らすなどの具体的な働き方改革を急ぐしかない。従来の取り組みを引き続き求めるだけでなく、新たな、それも具体的な対策を文科省が講じていくことが必要ではないだろうか。それこそが「喫緊の課題」のようにおもえる。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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