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教員の出退勤時間を「改ざん」する行為が横行しかねない懸念が、実態調査から浮かび上がってきた

前屋毅フリージャーナリスト
(提供:2F_komado/イメージマート)

 教員の勤務時間について上限を定めた文科省のガイドラインが守られる可能性は低い。それどころか、勤務時間の記録についての改ざんが横行する可能性すら高いという調査結果がでている。

 文科省がガイドラインを示したのは2019年1月25日のことで、そこでは1ヶ月の超過勤務は45時間以内、1年間の超過勤務は360時間以内とされている。そして2019年12月の給特法改正時にガイドラインから「指針」に格上げされ、より厳しく守らなければならないものとして位置づけられている。

 しかし現時点でも、月45時間以内という文科省の指針が守られている状態にはない。北海道教職員組合(北教組)が2020年9月に組合員を対象に実施した調査によれば、小中高校で働く多くの教員が月45時間という上限以上の超過勤務時間になっていたことがわかった。

 調査によれば小学校平均では48時間33分の「時間外在校等時間」、つまり学校に残っての超過勤務となっている。こうした指針の上限を超えて働いていた教員の割合は全調査対象者の51%にあたる。中学校平均では66時間46分で、71.9%の教員が上限を超えて働いていた。高校になると平均で70時間57分で、教員の72.2%が上限を超えている。

 教員の超過勤務は、これだけではない。北教組の調査には、「持ち帰り業務時間」という項目がある。「時間外在校等時間」でも終わらず、自宅に持ち帰ってやった業務に要した時間である。

 北教組の調査では、小学校平均での持ち帰り業務時間が12時間16分であり、これと時間外在校時間を足せば、超過勤務した時間は月60時間49分となる。持ち帰り時間を含めると、上限を超えた教員は、66.9%に達する。

 中学校でも平均8時間27分の持ち帰り業務時間で、合計した超過勤務時間は75時間13分にもなる。上限を超えた教員の割合は、79.0%である。高校平均でも1時間01分の持ち帰り業務時間があり、合計すれば71時間58分の超過勤務時間、72.2%の教員が上限を超えている。

 文科省も超過勤務時間を、時間外在校等時間と持ち帰り業務時間の合計時間と定義している。北教組の調査から、文科省が示している月45時間以内という上限など、まったくの絵空事でしかないことがわかる。しかし文科省や教育委員会は、学校現場に上限を守らせようと必死になっている。

 どうやれば、上限内に近づけるのか。

 タイムレコーダーの導入などで出退勤の時間は把握できるようになってきており、本気でやれば正確な時間を知ることができる。ただし持ち帰り業務時間については、客観的に把握することは難しく、教員の自己申告でしかない。時間外在校時間と持ち帰り業務時間の合計である超過勤務時間を減らそうとすれば、時間外在校時間を減らして、終わらなかった分は持ち帰り業務にさせ、その時間を過少に申告させるのが簡単なような気がする。自己申告でしかないのだから、証拠も残らない。

 しかし、問題がある。北教組は今回の調査と過去の調査を比較検証しているのだが、持ち帰り業務は2001年にくらべて2020年調査のほうが減っているのだ。小学校で4時間59分減少しており、中学校で2時間12分減少、高校になると7時間52分もの減少となっている。超過勤務時間は増えているにもかかわらず、持ち帰り業務時間は減っているのだ。教員の多忙が社会問題化しているなかで、学校の管理職も教育委員会も超過勤務時間を減らそうと必死になってきた。持ち帰り業務を増やして時間外在校等時間を減らす「工夫」がされていてもよさそうなものだ。

 ところが北教組の調査結果からは、逆のことが明らかになっている。その理由を、今回の調査をまとめた北教組中央執行員の佐野和孝氏は、「持ち帰りできない業務が増えているせいではないか」と推測する。生徒指導であったり分掌や教員同士の打ち合わせなどといった業務は、持ち帰ることはできない。さらに、個人情報の保護が厳しくなっている昨今では個人情報にかかわるものを学校の外へ持ち出すわけにはいかない。必然的に持ち帰り業務の時間は減ることになり、その分だけ時間外在校等時間は増えることになる。

 先述のように時間外在校等時間は把握しやすくなっているので、放っておけば時間の増加は止められない。教員の多忙化が把握されやすくなってきているのだ。時間外在校等時間を減らすには、業務そのものの見直しが必要なのだが、それも改善される兆しはない。

 時間外在校等時間を減らしたいが、それに必要な業務内容の改善もできない。文科省の示した上限が、学校の管理職や教育委員会に重くのしかかってくることになる。そこで懸念されるのが、時間外在校時間の「改ざん」である。

 2018年には福井県で、市立中学校の教頭が教員の出退勤記録を無断で改ざんしていた事実が発覚している。管理職が教員に在校時間を過少に申告させるケースも、珍しいことではない。

 上限のプレッシャーが増すなかで、改ざんによって教員の超過勤務時間を表面的に減らそうとする動きが強まらないだろうか。出退勤時間の改ざんによって、時間外在校等時間を減らし、上限を超えない努力がされているように見せかける行為が横行していかないだろうか。そうなれば、学校は荒れた場となり、子どもたちの成長を支えていく環境ではなくなっていく。そういう学校にしてはいけない。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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