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37万人教員増の勇気を文科省はもてるのか、新型コロナで文科省の真価が問われている

前屋毅フリージャーナリスト
(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

●分散登校では何も解決しない

 新型コロナウイルス感染症(新型コロナ)との闘いには長期戦の覚悟が必要との見方が強まっている。短期的な終息は見込めず、日常生活が平時モードに戻るには1年から2年の時間が必要との予測もある。

 5月6日を期限とする新型コロナ拡大防止のための緊急事態宣言は、5月末までに延長された。これを受けて東京都は、都立学校の5月末までの休校を発表している。その前に埼玉県は、すでに5月末までの休校を決めた。ただ休校期間が全国で統一されているわけではなく、再開を急ぐ地域もでてきそうだ。それだけに、今後の感染防止には根本的な対策が求められている。

 そうしたなかで政府も文科省も、感染拡大防止のために3密(密閉、密集、密接)の回避を呼びかけている。しかし、いうまでもなく学校は3密を回避しにくい場所である。容易ではないが、新型コロナ拡大防止のためには避けては通れない問題でもある。しかも、長期的な視野に立っての取り組みが必要である。

 文科省は5月1日、小学6年生と中学3年生、そして小学1年生を優先的に登校させる方針を打ち出している。全学年を登校させると過酷な3密になるので、3密を回避するために一部の学年だけを登校させようというわけだ。

 しかも、「必要に応じて学級を複数のグループに分けた上で使用していない教室を活用するなどして、児童生徒の席の間に可能な限り距離を確保し(おおむね1~2メートル)、対面とならないような形で教育活動を行うことが望ましい」と指導している。授業参観に足を運んだ経験のある人であれば、教室が絵に描いたような3密の世界であることは実感できているはずである。それを文科省も認めたわけで、だから「クラスを複数に分けろ」といっている。

 文科省が、「少人数クラス」を推奨している。新型コロナとの闘いが長期戦になり、それでも学校を再開していくのなら、少人数クラスの実現は早急に、かつ持続的に取り組んでいかなければならない課題である。それだけの認識と覚悟で、文科省は推奨しているのだろうか。

 少人数クラスを実現するには、当然ながら教員の数を増やさなければならない。現在の1クラスを2クラスに分けるなら、単純に考えれば小学校での担任は1人から2人にしなければならない。1人を増員しなければならないのだ。

 全国で少人数クラスを本格的に導入しようとすれば、かなりの教員の増員が必要になることは明白である。どれくらいの増員が必要になるのか、「ゆとりある教育を求め全国の教育条件を調べる会」の事務局長を務めている山崎洋介さんが「2019年度学校基本調査」をベースに試算している。

「現段階では、かなり荒っぽい試算です」と山崎さんは前置きするが、その試算によれば、全国の公立小中学校で30人学級を実現するためには、20万5457人の教員を増員する必要があるという。さらに20人学級を実現しようとすれば、37万3492人を増員しなければならない。

 簡単に実現できる数ではない。だからこそ、課題として掲げ、早急に着手する必要がある。覚悟をもって取り組まなければならないのだ。

●場当たり的対策ではなく長期的な視野で

 文科省がそれだけの覚悟をしているかといえば、かなり心もとない。少人数クラスの必要性は認めながらも、それを実現していくための長期的なプランも見通しも示されていない。あくまで小学1年生と6年生、そして中学3年生だけの登校を前提にした少人数クラスでしかない。全学年ではなく一部の学年に登校を限定すれば、登校していないクラスを担当している教員を導入して少人数学級が可能だ、くらいのことでしかない。新型コロナが長期化すれば、すぐに破綻するだろう。

 緊急事態であるし、すぐに教員の大増員も実現できるはずもないので、現時点では仕方のない対応だともいえる。しかし、その先を示さなければ、ただの場当たり主義でしかなくなってしまう。新型コロナとの闘いが長期戦になるといわれるなかで、そんな場当たり的な対応だけで乗り切れるものなのかどうかも疑問である。

 場当たり的な対応しかできない文科省では、国民からの信頼も薄らいでいくばかりだろう。しかも少人数クラスは、新型コロナ対策だけではなく、一人ひとりを大事にする教育を実現するためにも望まれてきている課題でもある。少人数クラス実現に必要な教員数を試算した山崎さんは、次のようにいう。

「私の試算した数字は厳しいものですが、これに向き合って、とうてい無理だと考えるか、困難だがやっぱりこの方向を目指そうと考えるかが問われているのだとおもいます。新型コロナの危機に直面するなかで、先細りして衰退していく社会に甘んじるのではなく、抜本的な改革で真に人間らしい社会をつくる転機とする議論に発展していくことを期待しています」

 とも、山崎さんはいう。新型コロナとの長期戦では避けて通れない少人数クラスの課題を、場当たり的な策として終わらせてしまうのか、それとも教育の質を向上させていくことにもつなげていけるのか、文科省の覚悟と勇気が問われている。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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