Yahoo!ニュース

産後女性に特化した「QOOLキャリア」事業は、女性の働き方そのものを変えていくかもしれない

前屋毅フリージャーナリスト
(写真:アフロ)

「保育園落ちた、日本死ね」という匿名ブログが話題になったが、それから日本は変わることができたのだろうか。

 保育園に我が子を預けることができないということは、多くの女性にとっては働きに行けないことを意味する。入園から落とされれば、それこそ死活問題となる。だから、働きたい女性が自由に保育園を利用できない日本なんて「死ね」といわれても仕方のない存在なのだ。

 保育園にはいりたくてもはいれない子ども、いわゆる「待機児童」の問題は不十分なかたちではあるが、徐々に解消されてきているようにみえる。しかし、保育園に預けられたからといって、問題が解決するわけではない。

 出産後に転職を考える女性が、かなり多いという。そんなニーズに応えるため、女性やマタニティ領域におけるサービスを展開している「株式会社ビーボ」が、今年3月からスタートさせている事業が、「QOOLキャリア(クールキャリア)」である。

 産後女性に特化した転職サービスで、出産後もキャリアを積んでいきたい女性と、そうした女性が活躍できる会社を結びつけるための事業だ。この事業を始めた理由を、同社のキャリア事業部の酒井陽大部長は次のように説明する。

「産後女性から多く聞かれるのが、職場での『働きづらさ』でした。育休や出産後に働き続けられる制度があるにはあっても、それを実際に利用するのを許さない雰囲気が社内には強いんですね。子どもが急に熱をだして保育園から迎えに来るように連絡があって早退しようとすると、『おまえマジか』みたいな反応を上司や同僚からされてしまう、といった話はかなり聞きました」

 制度はあっても、それを機能させない社内の雰囲気があるのだ。そして会社に居づらくなり、退社してしまう女性も少なくないという。それなら、ほんとうの意味で出産後の女性を受け入れてくれる会社に転職したいところなのだが、簡単ではない。

「そこで、当社のような存在が必要になってくるわけです」と、酒井部長。転職の面接で「子育てのために時短で働きたい」と条件提示しても、感情的に好感をもたれない可能性は高い。たとえ制度としてあったとしても、社内で適切に運用できているかどうかを判断するのは難しい。

 しかし第三者であれば、子育てと両立できる働き方を希望していることを明確に伝えることができるし、会社側の意向や職場の現実を確認することもできる。冷静に交渉することも可能になるのだ。

 ビーボでは、仲介する会社とも念入りに条件確認を行っている。そうしたなかで、産後女性が働ける環境をつくりだすことにつながることもある。酒井部長が説明する。

「つい最近、転職者を紹介した例でもあったんですが、その会社には時短もフレックスタイムもなかったんです。ただ、ピッタリな方がいたので、『ただし時短が条件です』という話を会社とさせていただきました。その会社の代表が柔軟な働き方に理解がある方で、時短の制度も整える、ということで内定しました。そういう例も珍しくありません」

ビーボの酒井陽大・キャリア事業部長 (撮影:筆者
ビーボの酒井陽大・キャリア事業部長 (撮影:筆者

 そもそも会社は、産後女性の採用を前提にしていない。「産後女性を採用するための求人というのは、まず、ありません」と、酒井部長もいう。

 時短の制度があっても、それは既存の社員を前提にしてつくられている。ただ形だけ整えているといった側面も否定できず、だから制度も不十分だし、あっても活用が難しいという現実もある。そこを、ビーボのような第三者が加わることで変えていける。

 それには、会社にとって産後女性は戦力であることを知らしめる必要もある。そのためにもビーボでは、「QOOLキャリア」に登録できる産後女性の条件を「過去最高年収400万円以上」という条件にしている。それなりのキャリアを求めているわけだ。

 それでも、今年3月から登録受付を開始して、10月末段階での登録者は1万人を超えてしまっている。「9月と10月には月2500人のペースで登録してもらっています」と酒井部長がいうように、産後女性の転職希望者は多いのだ。このことだけをとっても、いかに産後女性にとって現在の環境が働きづらいものであるかが想像できる。

「出産して初めて考えるわけではなくて、それこそ新卒のときから将来の結婚や出産を考えて就職先を選んでいる女性が、実は多いんです。それが、女性のキャリアを狭めることにもなっています。これからQOOLキャリア事業を拡大することによって、産後女性の転職をサポートするだけでなく、子育てと仕事を両立して、女性が自分の力を存分に発揮してキャリアを築いていける環境づくりに貢献していきたいと考えています」

 と、酒井部長は語る。ビーボの「QOOLキャリア」事業のもつ意味合いは深い、といえそうだ。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

前屋毅の最近の記事