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いじめ解決と国際紛争解決

前屋毅フリージャーナリスト
『日本人のための平和論』ヨハン・ガルトゥング著 ダイヤモンド社刊

多くの国際紛争の現場で65年間も調停者として働き、諸学を総合した平和研究で「平和学の父」と呼ばれている社会学者のヨハン・ガルトゥング氏が、新著『日本人のための平和論』(ダイヤモンド社)を上梓し、その記者会見が開かれたので出席してきた。

タイトルでもわかるように、新著は日本をとりまく紛争を解決するための提言である。会見でガルトゥング氏は、「日本人は日本をとりまく紛争について語り合うことが少なく、そのための歴史や国際情勢についての知識も乏しい」と強く指摘した。そのためなのか「アメリカにどっぷり頼り切っている」、と警鐘を鳴らした。

そのうえで、たとえば領土問題についての解決について、「お互いに領有権を主張するのではなく、双方共通の領土にしてしまう」という提言も行った。実現困難な提案のようにもおもえるが、「そういう視点をもつことが、状況を打開していく」と説く。ほかにも、平和のために日本人が取り組むべき提言が新著にはもりこまれている。

そうしたなかかで目を引いたのは、「紛争解決のための教育」という項目だった。紛争を解決するには相手の立場に立ってコンフリクト(紛争)を見ることが大切であり、それを可能にする教育手法として「サボナ・メソッド」があり、すでにノルウェーの10の学校で取り入れられているというのだ。

注目すべきは、サボナ・メソッドの取り組みを始めたところ、「学校からいじめがなくなった」というところだ。子どものいじめに直面したとき、教員の言うべきことを次のように紹介する。

「いまあなたがしたことは、とうてい受け入れられない。でも、なぜそんなことをしたの?あなたの心の中で何が起こっているのか、話してくれるかな?」

「あなたがしたこと」とは、子どもが自分の怒りをバックパックを壁に投げつけることで示したことを指している。理由を訊かれて、その子どもは「半年前に転校してきたが、前の学校では英語の時間が多くて、自分には知識がある。そこで上のクラスを希望したが、その返事は今になってもない」という怒りの理由を説明した。教員は、すぐに担当教員に連絡し、ただ手続きが遅れていただけという理由を確認し、手続きを急ぐよう依頼して、この「紛争」は収まった。

紛争が解決したのは、相手の怒りの理由をきちんと訊き、それにたいして自分の怒りの理由をきちんと説明できたからだ。教員だけでなく、子どもたちも紛争(いじめも、そのひとつ)に遭遇したとき、同じように「訊く」という行動を優先することを学ぶ。それこそが、サボナ・メソッドの狙いである。ガルトゥング氏の新著によれば、サボナ・メソッドを導入した学校では「いじめ」の件数が激減しているという。

日本の学校では、「いじめ」が無くならないどころか、増えている。「訊く・説明する」ができていないところに、大きな原因があるようだ。「いじめ」を無くせない日本人には国際紛争も解決できない。子どもたちだけでなく大人も、ここからやり直さなければならないのかもしれない。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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