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「文春vs新潮」は「西武vsダイエー」か

前屋毅フリージャーナリスト
(ペイレスイメージズ/アフロ)

スクープ連発で「文春砲」と騒がれた『週刊文春』が、ライバルの『週刊新潮』の中吊り広告を事前に「盗み見」して「スクープ潰し」をはかっていたという疑惑が浮上して注目されている。仕掛けたのは、『新潮』だ。

このニュースで、わたしの頭に浮かんだのが「西武vsダイエー」である。西武とダイエーといっても、ピンとこない人も多いだろうし、若い人ならなおさらだ。

1970~80年代は「流通戦国時代」と呼んでいい時期で、流通業が飛躍的に伸びていく時代であり、それだけに激しい競争も展開されていた。その中心的存在が「東の横綱」ともいえる西武流通グループで、傘下の西武百貨店や西友などの動きが注目を集めていた。これに対する「西の横綱」がダイエーであり、低価格戦略が「流通革命」ともてはやされた。

この東西の雄が、いたるところで火花を散らした。表では派手な安売り合戦が展開され、裏では出店を邪魔するような褒められない工作を両者がやっていた。

東京・所沢市にダイエーが出店しようとしていた土地の一部を西武流通グループ側が秘密裏に買収して売却を拒否したためダイエー側の工事が大幅に遅れた騒動は「所沢戦争」と呼ばれ、再三にわたってマスコミが大々的にとりあげた。所沢だけでなく、全国で両者によおる同じような「戦争」が展開されていた。わたし自身も、いくつかを直接に取材している。

安売りをふくめた「戦争」の目的は、「ライバルを潰す」ことにある。潰してしまえば、「自分の天下」となり経営も安定する、と考えるからだ。

どんどんエスカレートしていったのだが、それらを取材しているなかで感じていたのが「消費者不在」という思いだった。原価を無視した安売りは長続きするはずもなく、安さに慣れたころに消費者を値上げが襲う。出店妨害は、工事がすすまない一等地が取り残されて地域活性化の機会を逸してしまう。結局は、消費者のためにはならなかったのだ。消費者を犠牲にして、ライバルを潰すことに奔走した。その結果が、西武流通グループとダイエーの現状である。

「文春vs新潮」にも、これと同じような「臭い」を感じるのだ。お互いを「潰す」ことへの熱中が、「読者のため」になっているのだろうか。何年後かの両者の姿が、西武流通グループとダイエーと重ならないように願うばかりだ。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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