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どこへ行った?安倍首相の「教育無償化」

前屋毅フリージャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

国会の場での質問に答えず、「熟読していただいてもいいのでは」と『読売新聞』に掲載された自らのインタビュー記事を「読め」とばかりの発言が安倍晋三首相から飛びだしたのは、5月8日の衆院予算委員会だった。国会軽視ともいえる発言に、浜田靖一委員長(自民)も「それはちょっとこの場では不適切なので、今後は気をつけていただきたい」と注意したほどだ。

問題のインタビュー記事が掲載されたのは5月3日で、1面のトップとして扱われている。話の中心は「憲法改正(改憲)」で、それが必要な理由として安倍首相は2つをあげている。

ここで首相は、大学まで教育を無償化するには改憲が必要との考えを明らかにしている。これは日本維新の会が主張しているもので、インタビューのなかで安倍首相は「維新の積極的な提案を歓迎する」と述べている。

ただし、教育無償化は維新や安倍首相の専売特許ではない。総選挙ともなれば、民主党も政策の大きな柱として打ち出してくるはずだ。その民主党は、無償化に改憲が必要とは一言もいっていない。民主党だけでなく、無償化に改憲は必要ないという意見はさまざまなところで言われてもいる。安倍首相が、改憲したいがために教育無償化を利用しようとしているのは明らかだ。

無償化をアピールする安倍首相に対して、自民党内部は消極的でしかない。「維新の提案を受けて多くの自民党員が刺激された。速やかに自民党改正案を提案できるようにしたい」とインタビューで首相は述べているが、自民党の「教育財源確保特命チーム」は16日の会合で、無償化には触れず、大学の授業料を「出世払い」にする制度の構想案をまとめたにすぎない。

きょう(18日)には、自民党教育再生実行本部が提言を決定する予定だが、そこでも出世払い構想は盛り込まれるが、大学の無償化については「無償化を視野に入れて検討する」という積極性に欠ける表現にとどめられるとみられている。安倍首相の発言を無視まではしないが支持もしない、という姿勢なのだ。

安倍首相のリーダーシップが弱まっている、と言っていいかもしれない。だからこそ新聞のインタビュー記事というかたちで、国民に訴え、自民党内部にプレッシャーをかけようとしたのではないか。

ともかく、自民党教育再生実行本部が教育無償化に賛成しない以上、「無償化のための改憲」という安倍首相の主張は行き場を失うことになる。インタビュー記事は、安倍首相にとって裏目に出かねない。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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