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「スマホの実質ゼロ円」廃止は通信業者のメリットでしかない

前屋毅フリージャーナリスト

高市早苗総務相が、スマートフォン(スマホ)の「実質ゼロ円」を執拗に攻撃している。「消費者の味方」のように振る舞っているが、実は、「実質ゼロ円」が廃止となって喜ぶのは、大手通信業者でしかなない。

12月16日、携帯電話の料金の引き下げ策を議論する総務省の有識者会議が提言をまとめ、スマホを「実質ゼロ円」とする値引きを抑制するよう求めた。これを受けて18日、総務省は電気通信事業法に基づく指針を公表し、NTTドコモ、au、ソフトバンクの大手3社に改善を求める。「実質ゼロ円」が姿を消してしまう可能性が高まったのだ。

「実質ゼロ円」攻撃の理由を高市総務相は、スマホの値引きが「かなり過剰」になっており、利用者間の不公平をなくすため、と説明している。「消費者の味方」というわけだ。

しかし「実質ゼロ円」がなくなることは、ほんとうに消費者のメリットになるのだろうか。現在、「実質ゼロ円」は通信会社を移る、いわゆる「乗り換え」の際に適用されている。NTTドコモからソフトバンクに通信業者を代えるなら、スマホは実質ゼロ円にしますよ、といわけだ。

通信業者を代えても電話番号は継続して使える「番号ポータビリティ」が一般的になっている現在、乗り換えは簡単にできる。通信料がほご横並びの現状では、「実質ゼロ円」が乗り換えの主な理由にもなっている。消費者にしてみれば、通信業者を気楽に代えてサービスの比較もできるし、スマホの実質ゼロ円もかなりの魅力だ。

ただし通信業者にしてみれば、簡単に乗り換えられる状況は困ったことなのだ。ユーザーに簡単に他社へ乗り換えられては、通信料金の収入が減るし、安定的な経営基盤のためにもよろしくない。

番号ポータビリティを利用して他社のユーザーを乗り換えさせて自社のユーザーを増やす競争が「実質ゼロ円」にたどりついてしまったわけだが、それが自社のユーザーが簡単に他社に乗り換えるという状況になってしまっている。そればかりか、「実質ゼロ円」にするための負担も大きい。つまり負担ばかり大きくて、ユーザーは定着しないという困った状況になっているわけだ。

そこに浮上してきたのが高市総務相を旗振り役として総務省がすすめる、「実質ゼロ円を止めろ」の動きだ。通信業者にしてみれば、負担ばかりが大きい「実質ゼロ円」を廃止する絶好のチャンス到来である。廃止してしまえば、スマホをゼロ円にする負担もなくなるし、他社に移るメリットがなくなって、ユーザーを自社に留めて、通信料で儲けることができるのだ。自分たちで止めれば非難を覚悟しなければならないが、「お上」の言うことに従っただけなら文句をいわれることもない。通信業者にしてみれば、こんなに都合のいい話はない。

もちろん総務省は、通信料金の引き下げにも触れてはいる。触れてはいるが、「データ通信の使用が少ない人向けにスマホ利用料金を月額5000円以下に引き下げる」ように求めただけだ。なぜ、「使用が少ない人」だけなのか。ほんとうに必要なのは、「使用が多い人」の利用料金を引き下げることではないのか。消費者の立場にたっていない、おかしな料金引き下げ案としかいいようがない。

ほんとうに必要な料金引き下げを要求せず、「実質ゼロ円」廃止ばかりを求める高市総務相のやりかたは、消費者のためではなく通信業者のためだ、と言うしかない。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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