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なぜ『彼』なのか?

前屋毅フリージャーナリスト

知り合いの学校関係者が、つぶやいた。「なぜ、彼なのか?」。疑問だけでなく、「やっぱりな」という「あきらめ」のようなものが、彼のつぶやきから感じられた。

彼とは、伊原木隆太・岡山県知事のことである。その彼が、内閣府の教育再生実行会議の有識者メンバーに加わることが10月6日に発表された。学校関係者のつぶやきは、そのことについてだった。つぶやきというよりは、ため息に近かったかもしれない。

伊原木知事は、教育に熱心な知事として知られる。しかし、その熱心さの方向が問題でもあるのだ。

昨年度、伊原木知事の肝いりで岡山県教育委員会は「頑張る学校応援事業」を始めた。県内全域から学力アップに意欲的な取り組みをした公立小学校20校、中学校10校を選び、それぞれに100万円の「奨励費」を交付した。

その「学力」とは、文部科学省が実施している全国学力テスト(全国学力・学習状況調査」の「結果」でしかない。つまり全国学力テストの順位を上げる努力をした学校に対して100万円を支給する、というものだ。ニンジンを目の前にぶらさげて馬を走らせようという行為にほかならない。全国学力テストの順位だけを学力の基準とし、さらに露骨に競争を煽る方針に、県内の一部の学校からは反発もでた。しかし、強行したのだ。

さらに岡山県は、2016年度に小中学校ともに全国学力テストでの順位を全国で10位以内を目指すという目標を掲げている。もちろん、伊原木知事の意向を受けてのことだ。

その伊原木知事が、安倍政権の教育政策に大きな影響力をもつ教育再生実行会議の有識者メンバーに名を連ねたのだ。それだけで、安倍政権の教育政策の目指すものは明らか、と言うしかない。

文科省のいう「全国学力テストは学力状況を把握するもの」が本音ならば、伊原木知事の教育再生実行会議有識者メンバー入りに真っ向から反対するはずである。しかし、その気配すらない。

全国学力テストは「点数」だけの学力を競わせるもの、というのが実態になっている。伊原木知事を有識者メンバーに入れた教育再生会議は、それにますます拍車をかけようとしている、としか考えられない。

ほんとうの教育の姿から、どんどん離れていってしまっている日本の教育の現状を、「なぜ、彼なのか?」から問い直すべきではないだろうか。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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