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政治家主導で教育をぶち壊してみるのも手かもしれない

前屋毅フリージャーナリスト

教育長の任免権を首長がにぎることになる改正地方教育行政法が、13日の参議院本会議で可決し、成立した。政治家の教育における権限が飛躍的に強化されることになる。

これまでは、教育委員会の委員を首長が任命し、その委員からなる教育委員会が事務局をまとめる教育長を教育委員のなかから選ぶ仕組みになっていた。これからは、その教育長を首長が直接、任命することになる。そして、首長権限で辞めさせることもできるようになる。

つまり、教育長も首長に逆らいにくい仕組みになるわけだ。首長にすれば、教育において自分の主張を反映させやすくなる。

全国学力テストの結果公表を主張する静岡県の川勝平太知事が、公表に否定的な同県教育委員会と対立し、教育長が矢面にたって知事と対立することになった。それで川勝知事は、成績のいい学校を公表するならかまわないだろう、という理屈で公表してしまった。もちろん、そこに名前のはいっていない学校は「成績が悪い」というレッテルを貼られるという「罰」を受けることになったのだから、川勝知事は当初の目的を達したことになる。

ともかく、こうした対立が可能だったのは、教育長の任免権が首長になかったことも理由の一つにある。任免権を握られていては教育長は首長に逆らいにくいので、教育委員から首長方針に反対する声があっても、それをまとめて首長にぶつけるということがやりにくくなる。

逆らえば、首長は教育長のクビをすげ替えてしまえばいいのだから、楽だ。静岡県のようなケースは起きにくくなる。

そこまで政治家である首長の権限を強めていいのか。このところ首長たちが声をそろえて主張しているのが、点数だけで判断される学力の向上であり、全国学力テストの結果を公表することに熱心なのも、順位をつけることで競争心を煽って点数を上げさせる努力を学校に強いるためである。

首長の権限が強化されれば、そんな教育姿勢が蔓延することになる。それが、将来を担う子どもたちを育てていく教育なのかどうか、はなはだ疑問である。

ともあれ、現状の教育が問題だらけなのも事実だ。政治主導の教育になって、とことんメチャクチャになってみるのもいいのかもしれない。それが教育を根本から見直すきっかけになればいい。そこまでならないと、日本の教育は変わらないのかもしれない。

問題は、そうなる前に、子どもたちが大きな迷惑をこうむる可能性があることだ。点数至上主義が強まるなかで、子どもたちが失うものも大きい。ほんとうに学ぶべきことが学べないことにもなる。

その子どもたちの迷惑が最小限のところで、大人たちは気づかなければならない。そして、ほんとうの教育を考え、実行していくべきだ。政治家主導の教育が子どもたちのためにならないとわかれば、すぐに立ちはだかる覚悟をもつべきである。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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