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教育再生実行会議「素案」は変わってしまうのか

前屋毅フリージャーナリスト

この案が実現するのかどうか、ちょっと疑わしい。政府の教育再生実行会議が検討している大学入試改革案の素案が判明した、と10月3日付の新聞各紙が報じた。テストの点数優先から受験生の意欲や潜在能力に軸足をおいた選抜に変える考え方らしいが、実現すればすばらしい。

素案では、まず現在は1点刻みで表示している大学センター試験の結果を何段階かに分けたランク表示にするという。つまり、1点の差で合否を判断される弊害を小さくするわけだ。

それだけだと、大学ごとに行う入試の1点の差がより大きな意味をもつだけのことになる。そうならないために素案では、ランクに達していれば受験を認め、しかも大学側は面接などで人物本位の選抜を行うとなっている。大学が行う入試を、現在のペーパーテストではなく面接にしろ、といっているわけだ。

実現すれば、完全になくなりはしないものの、現在のような行き過ぎた点数へのこだわりは軽減されるだろう。小学校、中学校、高校における教育の質も、かなり変わる可能性がある。

その意味では、この素案は大いに評価すべきだといえる。そうした改革を実行しなければ、教育の質を変えていくことはできない。

問題は、大学に面接などによる選抜を求めていることだ。ペーパーテストなら一度に試験をやって採点するだけで合否を決められる。大学にとっては、効率的である。

しかし面接となると、大学側の負担は重くなる。莫大な時間と人員を割かなければならなくなるし、合否の決定も簡単ではない。えらく効率の悪い制度になるだろう。

大学に、そんな入試制度を受け入れる余裕があるのだろうか。現在でも資金繰りに苦労し、講師などの人員削減にも着手しているのが、大学の現状である。受験生の一人ひとりを面接しているような余裕があるとは、とてもおもえない。

となれば、教育再生実行会議の素案に対する大学側の反発が予想される。素案は11月に提言としてまとめられ、文部科学相の諮問機関で具体的な制度設計などを議論し、実行に移されていくというスケジュールになるが、反発が大きければ、それまでに内容が変わっていく可能性がある。

なぜなら、あくまで「素案」でしかないからだ。素案でしかないから、正式な提案のときに内容が変わっていたとしても、教育再生実行会議が責められることはない。

素案が大学の反発などでゆがめられず、むしろ、ほんとうの意味での教育改革につながるかたちに発展して、教育再生実行会議の正式な提案として発表されることを期待したいものだ。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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