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一般消費者が高額品購入?

前屋毅フリージャーナリスト

■高額品変えるほどボーナスは増えたのか

百貨店における高額商品の販売が、いっそう熱を帯びてきているという。7月10日付で『時事通信』は、百貨店で高級時計や宝飾品などの売れ行きが伸びているという記事を配信している。

その記事は、「夏ボーナスの支給時期を迎え、一般消費者の購買意欲も高まってきたのが背景だ」と書いている。夏ボーナスが懐が温かくなった一般消費者が百貨店で高級時計などの高額商品を買っている、としか読めない記事だ。

そんなに夏ボーナスの支給額は増えたのだろうか? 経団連(日本経済団体連合会)が6月におこなった大企業のボーナス妥結額の集計によれば、回答のあった大手64社の平均で前年比7.37%増と2年ぶりのプラスとなっている。これは「バブル期の1990年以来、過去2番目」の高さだというから、懐は温かくなったことになる。

ただし、金額ベースでいけば平均で84万6376円である。ここから住宅ローンや教育、将来に備えた蓄えにもかなりのものが支出されているはずだから、騒がれるほどの額が高額商品の購入にまわされるのか疑問である。

■消費者の心理は冷え込んでいるのが現実

消費者の購買意欲は低下している。7月10日に内閣府が発表した6月の消費動向調査によれば、消費者心理を示す消費者態度指数(2人以上に一般所帯)は、5月より1.4ポイント低い44.3となっている。前月を下まわったのは、6ヶ月ぶりだという。

50以上なら消費者が景気を楽観して購買意欲を高めると解釈される消費者態度指数が40台前半なのだから、消費者は景気の先行きを不安視し、財布のヒモを締めようという意識を強くしていることになる。前月より低くなったのは、消費者が警戒感を強めていることを示してもいる。

それが、7%ほどボーナスが増えたからといって大きく転換するとはおもえない。しかも7%増えたのは、あくまでも大手企業であって、依然として中小企業では厳しい状況が続いている。

つまり、『時事通信』が伝えたように、一般消費者の購買意欲が高まったことを背景に百貨店の高額品販売が伸びている、とは考えにくい。高額商品を買っているのは、株高の恩恵を受けている、ごく一部の人たちでしかないはずである。

高額商品販売の伸びを一般消費者の購買意欲の高まりだとするのは、それほど景気は回復しているという「雰囲気」をつくりたいからなのだろうか。そうなってほしいという「希望」からなのだろうか。ともかく、現実はそこまで楽観的になれる状況ではない。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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