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警察の姿勢が犯罪の抜け道に?

前屋毅フリージャーナリスト

■高齢者の年金を狙って巧妙化する犯罪

質屋を装って年金を担保に高金利で金を貸し付ける貸金業を営んだとして出資法違反と貸金業法違反の疑いで、福岡県警が福岡市の男ら数人を5月30日に逮捕する方針だと、「捜査関係者への取材で分かった」と共同が伝えた。昨年から福岡県警が捜査をすすめていた件で、ようやく逮捕にこぎつけたようだ。

オレオレ詐欺に代表される高齢者を狙った犯罪があとをたたない。その手口も、だんだん巧妙になってきてもいる。

今回のケースは、「男らは質屋として登録。安価な時計など財産的価値のない品物を質草として預かり、年金を担保に自動振替で回収する仕組みで、出資法上の上限金利(年20%)を超える利息を受け取る」という仕組みだ。振り込まれた年金が自動的に男らの指定口座に振り替えられるわけで、確実に回収できる仕組みだ。この仕組みで、「男らが年金受給の高齢者計数千人に総額数億円を違法に貸し付けた」とみられているそうだ。

■警察の通達に不満な金融機関

今回の事件が特別なわけではなく、こういうケースは増えつつあるらしい。それを警察では把握しており、今年1月31日付けで警察庁は金融機関に対し、年金など公的給付金にかかわる口座の名義人が高齢者で、自動引き落としサービスの申し込みがあった場合には、引き落とし先が無登録を含む貸金業者や質屋かどうかを含めて厳重にチェックするなどの対処を求めている。

怪しい業者かどうかを金融機関にチェックさせ、犯罪を未然に防ごうというわけだ。その趣旨はわかるが、当の金融機関にしてみれば自動振替の申し込みについていちいちチェックしなければならないわけで、手間がかかる。

そのため金融機関には不満がくすぶっているが、警察の方針に正面から反対するわけにもいかないのが実情である。だから、金融機関が熱心に取り組むわけもない。警察と金融機関の連携はうまくいっていないようだ。

■大きな抜け道になっている

問題は、先の警察庁の通達から漏れていた金融機関があったことだ。通達は、全国銀行協会と全国信用組合中央協会、そして全国信用金庫協会に宛ててだされた。

そこにJAとゆうちょ銀行はふくまれていなかったのだ。当時、その理由を警察庁の担当者に訊ねると、「一歩いっぽやっていく」との答が戻ってきた。「順番に」という意味らしい。

しかし、金融機関の段階で犯罪を防ごうとするのなら、金融機関に等しく協力を呼びかけるべきだろう。それを怠れば、犯罪の抜け道をつくってやるのと同じことになる。

実際、JAの店舗ばかりをねらって不正に口座を開設していた事件が昨年、神奈川県で摘発されてもいる。ヤミ金などに悪用された口座の名義人をまとめたリストを警察庁が、ほかの金融機関には届けられていたが、JAには届けられていなかったのが原因だった。まんまと抜け道を利用されたのだ。

金融機関を平等に扱わない警察の姿勢が犯罪の抜け道をつくり、金融機関との信頼関係を損なうことになっていると考えられる。高齢者を狙う犯罪が巧妙になりつつある状況では、警察と金融機関の協力関係強化が必要とされている。その関係を築く努力が両者に求められている。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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