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LCCで羽田から飛びたつ日が待ち遠しい

前屋毅フリージャーナリスト

■「100万人突破」は航空機初心者だけが支えたわけではない

最近注目のLCC(格安航空会社)の低運賃は、かなりの魅力である。しかし関東では成田空港、関西では関西国際空港に限られている現状では、なかなか利用しづらいのが正直な感想だ。

LCCを羽田空港発着で利用できれば、かなり便利にちがいない。それまで成田空港を使うしかなかった海外旅行者が、国際線ターミナルの完成で羽田空港を利用できるようになって、「出かけやすくなった」と口々にいうのが、それを証明している。羽田空港を利用して低運賃なら、利用者にとっては万々歳なのだ。

11月29日にLCCのピーチ・アビエーションが、利用者が100万人(国内線、国際線利用合計)を突破したと発表した。今年3月の就航から、わずか9カ月で「100万人超え」を達成したことになる。当初は来年3月ごろの達成を見込んでいたというのだから、大幅な前倒しである。

このニュースを伝えた『MSN産経ニュース』(11月29日 12:01)は、「低運賃を武器にこれまで航空機を利用したことがない層の取り込みに成功」と説明している。ここが、どうにも引っかかる。

「航空機を利用したことがない層の取り込み」は、最初にLCCとして就航したピーチ・アビエーションが強調していたことである。初フライトを伝えるテレビニュースも、「初めて飛行機に乗りました」という乗客をつかまえて、そうした会社の狙いを強調してみせていた。

しかし、ピーチ・アビエーションの100万人達成が、「航空機を利用したことがない層」だけで達成されたのか疑わしい。その層もいただろうが、それだけで、ここまでの数になるわけがない。すでに航空機を利用したことのある層の利用も、かなりの部分を占めていたにちがいないのだ。

そして、多くの人がLCCを羽田空港発着で利用したいとおもっているはずである。希望しているにちがいない。しかし、それは実現しない。

■低料金で便利な空港から旅したい人は多いはずなのに

11月30日に国土交通省(国交省)は、羽田空港の拡張工事完成にともなって来年3月から年間2万回(1日あたり25往復)増えることになる国内線発着枠の配分を発表した。そこにLCCの名前はなかった。

LCCが申請しなかった、という理由が大きい。羽田空港を利用する便は「ドル箱路線」といわれるほど確実に、しかも大きな利益につながるといわれている。だからこそ新発着枠をめぐっては、航空各社が熾烈な売り込み合戦を展開したといわれている。

にもかかわらず、LCC各社は申請すらしなかったのだ。国交省も、表向きには、LCCを加えたい意向を示していた。

11月19日に開かれた羽田空港の発着枠について検討する有識者会議に、安全性や地方路線の維持などの項目を点数化して採点し、それに基づく配分を国交省は提案した。高い点数を獲得すればいいのだから、LCCにもチャンスはあるといわけだ。しかし、LCCはどこも申請すらしていない。

申請しなかった大きな理由は、LCC各社が大手航空会社の系列であることが大きい。現在のところ日本のLCCは3社だが、ピーチ・アビエーションとエアアジア・ジャパンが全日本空輸(ANA)系列、ジェットスター・ジャパンが日本航空(JAL)系列である。

そして、ANAもJALもLCCが羽田空港で発着枠を確保することを望んでいない。わたしのインタビューに答えてANAの伊東信一郎社長は、「羽田にLCCはいれない」と断言したものだ。

理由は簡単だ。LCCが羽田空港にやってくれば、利用者は便利で安いほうに流れる。初めて航空機を利用する人だけでなく、それまでANAやJALを何回も使ってきた人の多くも確実に流れていく。

それではANAもJALも困る。対抗しようとすれば、LCCと同じ水準にまで運賃を下げなくてはならない。それではANAやJALの経営はなりたっていかなくなる。競争しようとすれば、かなりの経営改革が迫られる。それは、ANAもJALもやりなくない。

だから、LCCに羽田空港に来てほしくないのだ。ANAやJALが、子会社のLCCに「来るな」というのは難しいことではない。LCCにしても、親会社の意向に反対してまで羽田空港の発着枠を獲得して利用者に喜んでもらおうなどという気概はない。

もっといえば、国交省にしても、羽田空港にLCCをいれたいと本気でおもっているのかどうか疑わしい。ANAやJALに揺さぶりをいれてみただけのことかもしれない。

というわけで、羽田空港からLCCが飛び立つ日がくるのは先の先のことだろう。やってくるのかどうかさえ、おぼつかない。

利用者の立場からいえば、安い運賃のLCCを便利な羽田空港から利用できる日が待ち遠しい。それが実現する可能性がとぼしいというのなら、「何かがおかしい」といわざるをえない。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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