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日本が再び世界最多の新型コロナ感染者数に マスクに感染予防効果はあるのか?

忽那賢志感染症専門医
屋外で周囲との距離が保たれているのにマスク着用をしてしまうハチ公(筆者撮影)

10月31日以降、日本は再び世界で最も感染者数が多い国となっているようです。

日本ではマスクを着けている人が多いにもかかわらずこれだけ感染者が増えているため、マスクの効果に疑問を持つ人もいるようです。

 

日本は再び世界最多の感染者数に

日本、アメリカ、フランス、イギリスの新型コロナ新規感染者数の推移(Our World In Dataより作成)
日本、アメリカ、フランス、イギリスの新型コロナ新規感染者数の推移(Our World In Dataより作成)

日本では10月上旬から緩やかに新型コロナの感染者数が増加しており、10月31日〜11月6日の週間感染者数は40万人を超え世界最多となったようです。

各都道府県の新型コロナ新規感染者数の推移(大阪府資料より)
各都道府県の新型コロナ新規感染者数の推移(大阪府資料より)

日本では特に北海道の感染者数が増加していますが、ほとんどの都道府県で増加傾向にあります。

地域によって差があるのは、気温や湿度、暖房の使用による換気不足、これまでの流行により自然感染した人の多さ、などが関係しているものと考えられます。

このような状況の中「これだけ日本はマスク着けて感染対策も頑張ってるのに、やっぱりマスクは効果がないんじゃないか」という議論が再び散見されるようになりました。

テレビ番組でも外国人の人にインタビューをして「日本人はまだマスクを着けている・・・オレたちの国ではとっくに外してるぜ!」みたいなコメントが放送されているのを見ると、「うーん、やっぱり日本人がマスク着けてるのって意味ないんじゃ・・・?」と思われる人がいるのも無理はない気もします。

果たして、我々がやっていることは本当に無意味なんでしょうか・・・?

 

海外では新型コロナの感染者数は正確でなくなってきている

前述の記事では、アメリカでは今も2000人以上の人が1週間の間に亡くなられているのに対し、日本では391人であったとのことです。

アメリカで特に重症度の高い変異株が広がっているというわけではないことから、アメリカではすでに正確な新規感染者数を報告する体制ではなくなっていることが分かります。

アメリカ以外にも、こうしたサーベイランス体制を緩めて新規感染者数を正確にカウントしなくなった国は増えてきています。

オミクロン株の拡大以降、世界的に検査数の減少が指摘されており、実際には日本以外の国でも報告されていない感染者が多く存在し、過小評価になっている可能性が高いと考えられます。

一方、日本は届け出の基準については緩められたものの、自己検査も含め陽性となった患者数については今も報告される体制を維持していることから、海外と比べると新規感染者数が突出して多く見えているという可能性は十分ありそうです。

 

マスクには感染予防効果がある

ユニバーサルマスキングによる感染リスクの低減(DOI: 10.1126/science.abc6197より)
ユニバーサルマスキングによる感染リスクの低減(DOI: 10.1126/science.abc6197より)

新型コロナウイルス感染症が広がりやすい理由の一つとして、飛沫感染・エアロゾル感染が起こりやすいことが挙げられます。これは、このウイルスが、

・無症状の人からも感染する

・唾液の中にもウイルスがたくさん含まれる

という特徴があり、特に声が大きくなるほど飛沫の量は増えることが分かっています。

このため、症状のあるなしにかかわらず、屋内においてはお互いがマスクを着けることで非感染者が感染者から浴びるウイルスの量を減らすことができると考えられます。

屋外で周囲との距離が保たれている場面ではマスクを着ける必要はありません。

先日も、マスク着用についての新たなエビデンスが報告されました。

オミクロン株が拡大した2022年2月のアメリカのマサチューセッツ州の公立学校において、マスク着用の義務化をやめた学校と、マスク着用を継続した学校とで、新型コロナ感染者の発生率の違いについて検討したものです。

結果として、マスク着用の義務がなくなって以降の15週間で、マスク着用を継続した学校と比較して1000人あたり44.9件増えていたという結果でした。これはこの期間の対象地区で発生した新型コロナ感染者の約3割に相当するとのことです。

マスク着用を継続した学校は建物が古く、1教室当たりの生徒数が多い傾向にあったにもかかわらず、このような差が生じたことから、この研究結果はマスク着用の効果を裏付けるものとなっています。

このように、マスク着用については新型コロナの感染対策には有効であるというエビデンスが蓄積しています。

 

感染対策は無意味なものからやめていくべき

当初5%が超えていた新型コロナによる致死率も、ワクチン接種・治療薬の登場・オミクロン株の拡大によって現在は大幅に低下し、第7波以降は0.12%という水準まで低下してきています。

私自身も、経済活動を犠牲にしてまでこれまでと同じ感染対策を続けるべきではないと思っています。

しかし、緩和していくのは無意味な感染対策から始めるべきであり、感染対策として有効であるマスク着用については、その後に議論されるべきものではないかと思います。

ホテルの朝食会場での使い捨て手袋(筆者撮影)
ホテルの朝食会場での使い捨て手袋(筆者撮影)

例えば、私は今宇部市のホテルでこの記事を書いていますが、朝食はビュッフェスタイルであり、例によって使い捨て手袋の使用が必須になっていました。

写真の右上にはアルコールが写っていますが、アルコールの使用については特に必須にはなっていませんでした。

新型コロナの流行から3年が経過し、環境からの感染は極めて少ないということが分かってきました。

使い捨て手袋を使用する必要はなく、食事を取る前後にアルコールによる手洗いをするので十分です。

他にもトイレのハンドドライヤーの使用を止めていたり、講演会などでも演者が代わるごとにマイクを消毒していたりと、意味があるとは思えない「感染対策のようななにか」が今も続けられています。

飲食店のパーテーションについても、声が届きにくくなることから大声になりかえって飛沫やエアロゾルが発生しやすくなり、また換気の悪い空間ではパーテーションにより呼気の還流が起こりかえって悪影響を及ぼす可能性も示唆されています。

感染対策に有効であることが分かっているマスク着用について議論するよりも先に、まずは、こうした「不要な感染対策」「効果が不確かな感染対策」について緩和や中止を検討するべきではないでしょうか。

マスク着用は「場面」や「流行状況」に合わせて行うもの

その上で、マスク着用については単純に「やるかやらないか」ではなく、どういった場面でやるべきか、またどのような流行状況ではやるべきか、ということを議論していくべきと考えられます。

職場/学校におけるマスクのOKとNGの一例(筆者作成)
職場/学校におけるマスクのOKとNGの一例(筆者作成)

屋外で周囲と距離が保たれている場面でマスクを外すことは、感染対策上も問題はありません。

また、屋内でも会話による飛沫やエアロゾルがほとんど発生しない状況であれば必ずしもマスクは不要かと思います。

一方で、人と近い距離で話す場合には飛沫やエアロゾルが飛び感染するリスクが生じることからマスクは着ける方が安全です。

また「流行状況によって」マスクを着ける/着けないという考え方も議論されるべきです。

昨年の今頃のように新型コロナの新規感染者数が極めて少ない状況では感染リスクは低いと考えられますので、マスクを外すことによる感染リスクは相対的に低くなります。

フランスドイツなどの国でも感染状況が落ち着いていたときにはマスク着用は義務とはせず、流行状況が悪化してきた時期には再度義務にする、という対応をするようになってきています。

元々日本は、インフルエンザが流行するシーズンにはマスクを着ける人が増えていた国ですので、こうした考え方は馴染みやすいのではないかと思います。

感染対策を緩和していくという議論はとても大事なのですが、ワクチン接種など有効な感染対策をしっかりと行った上で緩和を進めていくという前提が十分に認識されていないことを危惧しています。

マスク着用についても感染予防効果はあることを前提として、その上でどういった場面では着ける/着けない、どれくらい流行している状況では着ける/着けないという議論をしていくべきかと思います。

また、こうした緩和の議論は必ずしも一方向性に進むものではない、ということも広く認識されるべきものです。

つまり「流行が落ち着いている時期にはマスクのルールは緩めてたけどけど、またそろそろ感染者が増えてきたからマスクを着けて感染対策しよう」という柔軟な考え方が必要です。

少しずつですが確実に社会活動が元に戻りつつある今、決して油断せず「3歩進んでも2歩下がる」という状況を許容しつつ、緩和を進めていくことが大事ではないかと思います。

※大阪大学大学院医学系研究科では、新型コロナに感染したことのある方の後遺症の症状について継続的に調査を行っています。研究の詳細はこちらからご覧ください。これまでに新型コロナと診断されたことのある方は、こちらからアプリをダウンロードいただきぜひ研究にご協力ください。

感染症専門医

感染症専門医。国立国際医療研究センターを経て、2021年7月より大阪大学医学部 感染制御学 教授。大阪大学医学部附属病院 感染制御部 部長。感染症全般を専門とするが、特に新興感染症や新型コロナウイルス感染症に関連した臨床・研究に携わっている。YouTubeチャンネル「くつ王サイダー」配信中。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。本ブログに関する問い合わせ先:kutsuna@hp-infect.med.osaka-u.ac.jp

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