イギリスを中心に、海外で小児の急性肝炎の症例が報告されており、日本国内でもこれまでに3例が報告されています。

現時点で分かっていることについてまとめました。

これまでの報告数は?

イギリスが最も多く、2022年4月20日までに111人の患者が報告されています。

また、2022年4月27日までにヨーロッパ12カ国から約55人の患者が報告されています。

さらに、米国から12例、イスラエルからも12例の小児の急性肝炎が報告されており世界的に増加傾向です。

日本からはこれまでに3例が報告されています。

急性肝炎の症例の年齢や性別などの特徴は?

イングランドで確認された症例は、ほとんどが3歳から5歳(65.4%)で、年齢の中央値は3歳、54.4%が女性でした。

これまでに共通の病歴、食事、旅行、動物との接触、医薬品や毒物への曝露などは確認されておらず、免疫不全などの病歴もなかったとのことです。

どのような症状がみられる?

黄疸(皮膚や眼球が黄色くなること)が出る前の数週間に消化器症状があった症例が多いと言われています。

イギリスではイングランドとスコットランドからそれぞれ報告が出ており、イングランドで調査した81症例では、

・黄疸(74%)

・嘔吐(73%)

・白色便(58%)

・下痢(49%)

・吐き気(39.5%)

・発熱(29.6%)

といった症状がみられたとのことですが、スコットランドでの調査では発熱がみられた小児はいなかったとのことです。

肝臓に炎症が起こっていて、肝臓の細胞が破壊されている状態のときにみられるAST、ALTという肝酵素の数値が500IU/L以上の上昇を認め(正常値は40IU/L未満)、スコットランドから報告された小児のほとんどが2000IU/Lを超えていたとのことです。

現在までに、イングランドでは81例のうち7例、スコットランドでは13例の報告のうち1例が肝移植を必要としました。ヨーロッパでは55例のうち5例が肝移植を必要としており、概ね10%の症例で肝移植が行われています。

これまでのところ、1名が亡くなられていますが、ほとんどの患者は回復しているようです。

これまでにどのような病原体が疑われている?

イングランドで小児肝炎の症例に行われた病原体検査の結果(UKHSA publication gateway number GOV-12076)
イングランドで小児肝炎の症例に行われた病原体検査の結果(UKHSA publication gateway number GOV-12076)

イングランドでは急性肝炎の小児に対して様々な検査が行われています。

現時点ではアデノウイルスが最も疑わしいとされており、それ以外にも新型コロナウイルス、EBウイルス、エンテロウイルスなどが陽性になった事例もあるようですが、現時点では原因と結論付けられたものはありません。

アデノウイルスの検査を受けた53例中40例(75%)が陽性であったとのことであり、特に肝移植を受けた重症例は、受けていない症例と比べてアデノウイルスのウイルス量が12倍多かった、とのことです。

血液からアデノウイルスが検出された症例も多く、この11例から見つかったアデノウイルスは全て41F型というタイプであったとのことです。

アデノウイルス感染症がイングランド全体で増加している

コロナ流行前後でイングランドでアデノウイルスが検出された報告数
コロナ流行前後でイングランドでアデノウイルスが検出された報告数

イングランドで報告されている1〜4歳児のアデノウイルス陽性数は、過去5年間と比較して増加しています。

新型コロナ流行以前は週50〜150例程度の報告数だったものが、新型コロナ流行語の2020年3月から2021年5月では急激な減少がみられ週50例未満となっていました。

それが、2021年11月から2022年3月は週200〜300例にまで増加しています。

インフルエンザをはじめコロナの流行によって感染者が激減した感染症は多くありますが、アデノウイルスもその一つで、そして現在はその反動か急激に増加しているようです。

アデノウイルス以外にも、イングランドでは2021年末から10歳未満のエンテロウイルス、ヒトメタニューモウイルス、ライノウイルス、ノロウイルス、RSウイルスが増加しており、これはコロナ流行後の人々の感染対策の徹底によって激減していた感染症が、徐々に行動変化によって感染が起こるようになったものと考えられます。

日本でも2021年にRSウイルス感染症の流行がみられました。普段はあまり感染しない2歳以上の小児での感染者が多かったことが特徴です。

これも、コロナの流行によってRSウイルス感染症が流行しなくなった一方で、RSウイルスに対して免疫を持たない小児が増えたことで、一気に感染症の急増がみられたものと考えられています。

イングランドでこれらの感染症が増加している原因も、同様のことが起こっている可能性があります。

現時点では、イギリスの調査チームは以下の5つ仮説を挙げており、現在も調査中です。

1. 従来から知られているアデノウイルス感染症が、以下のいずれかによってより重症化している

 a. 集団の感受性の変化、例えば、コロナ流行後にアデノウイルスに対して免疫を持たない人が増えた

 b. 新型コロナウイルスまたは他の感染症への先行感染

 c. 新型コロナウイルスまたは他の感染症との重複感染

 d. 毒素、薬物、環境への暴露 

2. 新規の変異型アデノウイルス。

3. 薬物、毒物、環境への暴露

4. 新規病原体の単独または重複感染によるもの

5. 新型コロナウイルスの新しい変異株

急性肝炎とは?

提供:イメージマート

さて、改めて肝炎とは、名前の通り肝臓に炎症が起こっていて、肝臓の細胞が破壊されている状態を指します。

肝炎を起こす原因には、

・ウイルス性肝炎

・薬剤性肝炎

・アルコール性肝炎

・自己免疫性肝炎

などがあります。

このうち、日本国内で最も頻度が高いのはA型からE型まであるウイルス性肝炎です。

小児では、これらの肝炎ウイルス以外にも、EBウイルス、サイトメガロウイルス、パルボウイルス、エンテロウイルス、アデノウイルス、風疹ウイルス、ヘルペスウイルス(HSV-1、HSV-2、HHV-6、HHV-7)、HIV等が急性肝炎の原因になりえます。

アデノウイルス感染症とは?

これまでに60種類以上のアデノウイルスが確認されており、AからGの7つのグループに分かれています。

種類によって、流行性角結膜炎、胃腸炎、上気道炎などを起こします。

ときに免疫が弱っている人の出血性膀胱炎、脳炎などの原因となることもあります。

アデノウイルスによる肝炎も同様に、主に免疫が弱っている人で報告されていますが、免疫が正常の小児での肝炎もこれまでに報告はされています。

患者さんの症状にもよりますが、便、呼吸器検体(鼻咽頭スワブなど)、尿、血液などを用いて、抗原やPCR検査などを行うことで診断されます。

自然治癒することが多いため、治療は対症療法が中心になります。

アデノウイルスは、アルコールにも抵抗性があり、皮膚や環境表面で長期間生存する可能性がありますので、流水による手指消毒が重要になります。

私たちが気をつけるべきことは?

まだ現時点では小児の急性肝炎の原因は分かっていません。

小児、特に3〜5歳くらいのお子さんに肝炎の症状(黄疸、嘔吐、腹痛、白い便など)が見られた場合は、かかりつけ医に相談しましょう。

アデノウイルスは、主に

・接触感染(触ったものから手にウイルスが付着し、その手で顔に触れることで感染する)

・飛沫感染(症状のある人からの咳やくしゃみで発生する飛沫によって感染する)

によって感染し、特に接触感染によって伝播します。

アデノウイルスの感染を予防するためには、流水でこまめに手を洗うことが重要です。

まだアデノウイルスが肝炎の原因と判明しているわけではありませんが、これらは新型コロナウイルス感染症と共通する感染経路でもありますので、日頃の基本的な感染対策をこれまで通り丁寧に行うことが重要です。

手洗い啓発ポスター(羽海野チカ先生作)
手洗い啓発ポスター(羽海野チカ先生作)

参考文献

1) UK Health Security Agency. Technical briefing 1: investigation into acute hepatitis of unknown aetiology in children in England

2) ECDC. Increase in severe acute hepatitis cases of unknown aetiology in children