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オミクロン株による第6波に備えて 我々にできることは?

忽那賢志感染症専門医
(写真:つのだよしお/アフロ)

1月5日、日本国内での新型コロナの新規感染者数が1日2000人を超えました。

これからオミクロン株が主流となる第6波を迎えようとしているところですが、海外の状況や研究結果などから現時点で分かっていることと、我々が備えるべきことについてまとめました。

オミクロン株の感染力は非常に強い

人口100万人当たりの新規感染者数の推移(Our World in Dataより)
人口100万人当たりの新規感染者数の推移(Our World in Dataより)

アメリカでは1日の新規感染者数が100万人を超えるなど、日本よりも先にオミクロン株による市中感染が拡大した欧米諸国では、かつてない規模の流行を迎えています。

仮に現在のデンマークのように人口100万人あたり3000人が感染するような状況が日本でも起こるとすると、1日に30万人の感染者が出ることになります。

デンマークのこれまでのピークは2020年12月の人口100万人あたり600人でしたので、現在はその5倍の規模になります。いかに現在とんでもない規模で感染が拡大しているのかが分かります。

ちなみにデンマークのワクチン接種率は日本とほぼ同等ですので、日本でここまでの規模の流行が起こるのかは分かりませんが、可能性としてはあり得るのかもしれません。

従来のウイルスよりも重症化しにくいという複数のエビデンスが揃ってきている

人口100万人当たりの新規死亡者数の推移(Our World in Dataより)
人口100万人当たりの新規死亡者数の推移(Our World in Dataより)

一方で、これらの欧米諸国では今のところ新規感染者数と比べると死亡者数の大幅な増加は見られていません。

これまでの流行と比べると、現時点での感染者数に占める死亡者数の割合は明らかに低くなっています。

世界で最初に流行が始まった南アフリカ共和国からも重症化に関する査読前の報告が発表されており、オミクロン株の感染者は、デルタ株と比較して入院リスクが0.2倍、重症化リスクが0.3倍であった、とのことです。

ただし、これらの結果はワクチン接種や自然感染によって得られた免疫の影響が大きいと考察されていることから、ワクチン接種をしていない人によっては安心材料とはならないかもしれません。

これらの実際の感染者のデータからだけでなく、「オミクロン株による感染者は従来の新型コロナウイルスによる感染者よりも重症化しにくいのではないか」ということを示唆する複数の研究結果が出てきています。

ヒトでのものではなく、実験室での肺組織を使った研究や、動物実験ではありますが、オミクロン株は従来のウイルスよりも肺組織で増殖しにくいという研究結果が香港ベルギーイギリス、そして日本からも報告されています。

肺でウイルスが増殖しにくい、ということは肺炎を起こしにくくなり重症化しにくくなることに繋がるのではないか、という推測できるかもしれません。

実験室や動物実験での結果は、必ずしもヒトでの病態を反映しないことがありますので、これらの結果をそのままヒトに当てはめることはできませんが、これらの研究結果はヒトにとっても良いニュースなのかもしれません。

ただし、従来のウイルスよりも個人個人が感染した際に重症化しにくいということと、オミクロン株が脅威かどうかということは分けて考える必要があります。

極めて強い感染力を持つオミクロン株では、感染者が爆発的な増加に繋がり得るため、重症化率は低いとしても感染者数そのものが多くなりすぎれば重症者数も増えて医療体制の逼迫に繋がる可能性があります。

重症化する頻度が0.3倍になっても、感染者数がこれまでの5倍の規模になれば、単純計算で重症者はこれまでの1.5倍になります。

また、これまで以上に重症者病床よりも軽症者の宿泊療養施設や中等症病床の需要が大きくなってくることが予想されます。

2回のワクチン接種では感染は防ぎ切ることは難しいが、ブースター接種によって予防効果が高まる

ファイザー社のmRNAワクチン2回接種後およびファイザーまたはモデルナによるブースター接種後のワクチンの有効性(UKHSA publication gateway number GOV-10869)
ファイザー社のmRNAワクチン2回接種後およびファイザーまたはモデルナによるブースター接種後のワクチンの有効性(UKHSA publication gateway number GOV-10869)

mRNAワクチンの効果はデルタ株よりもさらに低下することが分かってきています。

イギリスからの報告では、2回接種してから半年経過すると発症予防効果は10%まで低下してしまうとのことです。

ファイザーで2回ワクチン接種を受けた人は接種後経時的に発症予防効果が落ちてしまいます。

このため、ブースター接種が必要な状況となりますが、同じイギリスからの報告ではファイザーのmRNAワクチンでブースター接種を行った人は直後に70%程度まで高まり、ブースター後10週間以降は45%に低下しています(ぴえん)。

一方、モデルナのmRNAワクチンでブースター接種を行った方は、直後に80%近くまで発症予防効果が高まり、9週間以降も70~75%程度で推移しています。

これらのデータからすると、2回目まではファイザーのワクチンを接種した方も、3回目はモデルナという選択肢も考えて良さそうです。

2回の接種だけでも重症化を防ぐ効果は保たれていると考えられますが、特に高齢者においては重症化予防効果も経時的に低下していることが分かってきています。

オミクロン株の広がりが懸念される中、今はとにかくブースター接種を、特に高齢者に進めていくことが重要になります。

当初、「2回目の接種から8ヶ月以上」であった3回目の接種時期が2021年12月17日より「6ヶ月以上」となりましたので、該当される方はぜひ接種をご検討ください。

韓国、イギリス、タイ、ベルギー、フランス、シンガポール、台湾、イタリア、オーストラリアなどのように、オミクロン株の拡大に備え、2回目接種からの期間をさらに短縮している地域もあり、今後の日本国内の状況によってはより柔軟な変更を政府に期待したいところです。

繰り返しになりますが、とにかく今は重症化リスクの高い高齢者へのブースター接種をできる限り早く進めることが重要です。

私もこの年末年始に高齢者施設を巡りワクチン接種(通称「あけおめブースター」)をしてきました。

ただし、ワクチンだけで感染を完全に防ぐことは困難と考えられることから、ワクチン接種後もこれまで通りの感染対策はしっかりと続けるようにしましょう。

手洗いや3つの密を避ける、マスクを着用するなどの感染対策をこれまで通りしっかりと続けることが重要です。

手洗い啓発ポスター(羽海野チカ先生作成)
手洗い啓発ポスター(羽海野チカ先生作成)

感染症専門医

感染症専門医。国立国際医療研究センターを経て、2021年7月より大阪大学医学部 感染制御学 教授。大阪大学医学部附属病院 感染制御部 部長。感染症全般を専門とするが、特に新興感染症や新型コロナウイルス感染症に関連した臨床・研究に携わっている。YouTubeチャンネル「くつ王サイダー」配信中。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。本ブログに関する問い合わせ先:kutsuna@hp-infect.med.osaka-u.ac.jp

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