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感染防止のために「二重マスク」にすべきなのか?

忽那賢志感染症専門医
CDC Improve How Your Mask Protects Youより

アメリカ疾病予防管理センター(CDC)は2月10日に二重マスクの効果に関する研究結果を発表しました。

これを受けて各メディアは「CDC 二重マスクを推奨」と報じました。

本当にマスク二重にした方が良いのでしょうか?

CDCのマスクの研究はどういった内容だったのか

論文のタイトルは「Maximizing Fit for Cloth and Medical Procedure Masks to Improve Performance and Reduce SARS-CoV-2 Transmission and Exposure, 2021

(性能向上と新型コロナウイルスの感染・曝露を低減するために、布製マスクとサージカルマスクのフィット感を最大化する方法)」となっており、マスクをフィットさせることの重要性が強調されています。

今回の実験では3種類のマスクの効果が検証されています。

今回の実験で使用された3種類のマスク(MMWR Morb Mortal Wkly Rep. ePub: 10 February 2021.より)
今回の実験で使用された3種類のマスク(MMWR Morb Mortal Wkly Rep. ePub: 10 February 2021.より)

1つ目は、普通のサージカルマスクです。この写真では両側に隙間ができていることが強調されています。

2つ目は、二重マスクです。サージカルマスクの上に布製マスクを覆っています。これによって隙間がなくなっています。

3つ目は、結び目マスク(本文中では"knotted/tucked mask")です。両側に結び目を作ることで隙間をなくしています。

この3種類のマスクを用いて、飛沫を排出する側と飛沫を浴びる側がそれぞれマスクを着けた場合、着けなかった場合の、マネキンが飛沫を浴びる量を比較しました。

3種類のマスクによる飛沫を浴びる量の比較(MMWR Morb Mortal Wkly Rep. ePub: 10 February 2021.より)
3種類のマスクによる飛沫を浴びる量の比較(MMWR Morb Mortal Wkly Rep. ePub: 10 February 2021.より)

この結果、排出する側/浴びる側がどちらもマスクを装着していた場合、普通のマスクではマネキンが浴びる飛沫の量が84.3%減ったのに対し、二重マスクでは96.4%、結び目マスクでは95.9%減ったとのことです。

確かに二重マスクと結び目マスクでは、普通のサージカルマスクよりも飛沫を浴びる量が減るようです。

普通のマスクの84.3%という結果も立派なものだとは思いますが・・・。

二重かどうかよりも「フィットするかどうか」が重要

今回の実験の結果からは「二重マスク最高!」ということではなく、飛沫が入り込む隙間をいかに減らすかが重要である、ということが分かります。

MMWR Morb Mortal Wkly Rep. ePub: 10 February 2021.より
MMWR Morb Mortal Wkly Rep. ePub: 10 February 2021.より

CDCの論文のインフォグラフィックでも、マスクをフィットさせることが大事であることが強調されています。

マスクをフィットさせるための方法として、今回の「サージカルマスクの上に布製マスクを覆う(二重マスク)」「サージカルマスクに結び目を入れる」だけでなく、「マスクフィッターを使う」「マスクの上からナイロンで覆う」がオプションとして提案されています。

結局、二重マスクをした方が良いのか

マスクの種類ごとの効果の違い(国立大学法人豊橋技術科学大学 Press Releaseより)
マスクの種類ごとの効果の違い(国立大学法人豊橋技術科学大学 Press Releaseより)

今回の二重マスクは「両端の隙間をなくしフィットさせるための方法」としてのものですので、重ねれば良いというものではありません。

例えば今回の実験とは逆に「布製マスクの上にサージカルマスクを着ける」という二重マスクでは効果は不明です。

これは前提として、マスクの効果が「サージカルマスク(不織布マスク)>布製マスク」であり、布製マスクの上にサージカルマスクを覆っても「顔によりフィットする」とは言えないためです。

正しくマスクを使用するために

フィットしたマスクを装着すれば排出する飛沫、浴びる飛沫を最小限にできる(CDCより)
フィットしたマスクを装着すれば排出する飛沫、浴びる飛沫を最小限にできる(CDCより)

CDCはフィットしたマスクを使用するために、いくつかのポイントを挙げています

正しいマスクの付け方 (CDCより)
正しいマスクの付け方 (CDCより)

1. マスクはノーズワイヤー(マスクの上部に沿った金属片)付きのものを選ぶ

ノーズワイヤーを鼻の上で曲げて顔に密着させることで、マスク上部からの空気の漏れを防ぎます。

2. マスクフィッターやブレースを使用する

サージカルマスクなどの使い捨てマスクや布製マスクの上にマスクフィッターやブレースを使用して、マスクの端の周りに空気が漏れないようにします。

3. 鼻、口、顎の上にぴったりとフィットすることを確認してください。

マスクの両端に手を当てて隙間がないか確認してください。

目の近くやマスクの側面から空気が流れていないことを確認してください。

CDCはこの3つのポイントに加えて、今回の2重マスクや結び目マスクについて提案しています。

結び目マスクの作り方については、以下の動画が公開されています。

でもこれ、耳が痛くなるんですよね・・・。

間違ったマスクの使い方

間違ったマスクの使い方(CDCより)
間違ったマスクの使い方(CDCより)

一方、間違ったマスクの使用法についても解説されています。

上の絵の左側のように、サージカルマスクなどの使い捨てマスクを二重にしてはいけません。

これは、サージカルマスクを重ねてもフィット感が向上するわけではないためです。

また、右側の絵のように、N95マスクの上に他のマスクを重ねることも推奨されません。

N95マスクは1枚だけで十分な効果があり、上から重ねることに意味はありません。

マスクが二重かどうかよりも、正しく装着することが大事

結論としては、顔にフィットさせるために二重マスクを使用することは浴びる飛沫の量を減らすためには有効なようです。小顔の方は参考にして良いでしょう。

ただし、通常のマスク着用でも十分な効果が見られており、これを二重マスクにしてよりフィットさせることでどれくらい実際の感染者が減るのかは未知数です。

実際には感染リスクは「マスクなし>>>>>>>>>>マスク1枚>二重マスク」と考えられますので、二重にするかどうかよりも、会食などのマスクを装着していない場面での感染リスクをいかに減らすかの方が重要です。

また、今は冬なので問題ないですが、夏に二重マスクをすれば熱中症のリスクも高くなるのではないかと推測されます。

マスク着用が推奨されるのはいまのところ換気が不十分となりやすい屋内や混雑した場面のみであり、人との距離が十分に保たれている場合は屋外でのマスク着用は推奨されていません。

メリハリをつけてマスクを装着するようにしましょう。

参考:

CDC Improve How Your Mask Protects You

MMWR Maximizing Fit for Cloth and Medical Procedure Masks to Improve Performance and Reduce SARS-CoV-2 Transmission and Exposure, 2021

感染症専門医

感染症専門医。国立国際医療研究センターを経て、2021年7月より大阪大学医学部 感染制御学 教授。大阪大学医学部附属病院 感染制御部 部長。感染症全般を専門とするが、特に新興感染症や新型コロナウイルス感染症に関連した臨床・研究に携わっている。YouTubeチャンネル「くつ王サイダー」配信中。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。本ブログに関する問い合わせ先:kutsuna@hp-infect.med.osaka-u.ac.jp

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