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「北欧館」を皮切りに、店舗展開を次々と広げ、企業化への道をひた走っていた長谷川耕造さん。70年代の終わりからは、独学した労務管理の知識を生かして、店のマニュアルをつくり、組織改革にも挑んだそうです。その中で画期的だったのが、インセンティブ・システムの導入です。成果に応じた給料や賞与を受け取れるという仕組みは、社員のモチベーションを高め、優秀な人材を集めるのに貢献しました。他にも、昇給、昇格、人事異動を自己申告制にして、人事権を持つ職を廃止したり、すべてを合議で決めたりするなど、独自の経営方針を貫いています。

<ポイント>

・給料を高くしてハイパフォーマーを集めたほうが、生産性は高まる

・「国が言うことは絶対」なのか?

・アメリカと日本の休業補償の違い

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■グローバルダイニング独自の経営方針

倉重:グローバルダイニングでは、昇給・昇格したいときは、まず自分で手をあげるのも独特だなと思いました。

長谷川:手を挙げない人には、「おまえは力があるのに何で手を挙げないの?」と聞きます。日本の文化は挙げてはいけないということがありますよね。

倉重:日本企業だと、やはり人事権で昇格させるというところも多いですけれども。

長谷川:仕事の考え方は2つあると思うのです。例えば一番マジョリティーの人間たちの仕事はなるべく単純化して誰でもやれるようにして、業務をスピードアップして企業を大きくしましょうという考え方。たぶんこれが正攻法じゃないですか。でもそれはベルトコンベヤーにコントロールされる工場のスタッフのようなもので、人間の特性を生かしている仕組みではないわけです。

幸い僕が始めた商売はお客さんに対するサービス業なので、ベルトコンベヤーのようにつくれません。もしやるならファストフード化するしかないですよね。ファストフード化に全く興味を持てない自分がいて、自分が採用した人間もみんな興味がありませんでした。そうすると個々の才能が高い人たちを集めてその能力を伸ばすか、能力を伸ばさないようにして給料を抑えておくかの選択になるじゃないですか。

倉重:そうですね。

長谷川:人間は誰でも能力が高い人は自分の価値を知っているわけだから、給料が安いところで我慢をする理由はないわけです。だから、いいやつを集めようと思ったら、どこよりも給料を出せばいいわけです。みんなが言う「給料が高い」というのと、実際の生産性には実はずれがあります。分かりやすく言うと、時給でトレーニーに1,000円払うとしますよね。このトレーニーの人の給料というのは、たぶん仕事のために自分の時間をささげるという、基本的な人権を提供しているからお金をもらえるという部分と、その人の能力というのが2つまざって1,000円なのです。

もし仕事ができる人に1,500円を払うというと、「すごいですね」と言うでしょう。でも、この能力差は500円というお金にはあらわれていません。実際の生産性からいったら5倍ぐらいの差があるのです。生産性を本当に精査すると、給料を高くして能力が高い人を集めれば集めるほど費用対効果が良くなります。

ボーナスも予算に対する達成度で機械的に決まるので、個々人が「今俺はどのぐらいのところにいるのか」という計算ができます。

倉重:アルバイトであっても時給が交渉でき、「働いて成果を上げたら、いい給料をもらえる」というのは夢がありますね。

■コロナ禍でも営業を続けている理由

倉重:今回緊急事態宣言でも通常営業するというご判断をされましたが、やはり今までの生い立ちからすれば、そうなるだろうなと思うのですけれども、改めてどういう判断をされたのですか。

長谷川:若いときは世の中のことがよく分からないじゃないですか。それがだんだん見えてきます。首相も政治家もみんな僕よりも年下だし、「何をやっているのかな」と思いました。コロナの本質的なことは2020年の3月ぐらいには大体全部分かっていたのです。しかし、政治の利権構造を見ていて、何でこんな理不尽なことをやっているんだという思いがありました。

倉重:国が言うことが絶対ではないということですよね。

長谷川:あの頃はまだオリンピックが延期になる前でしたが、熱を出した人が保健所に電話をすると「4日ぐらい様子を見てください、熱が下がったらたぶん大丈夫ですよ」と言っていたのです。「他の国と比べて、日本の厚労省は珍しくまともなことをやっているな」と思っていました。

去年はパチンコ屋さんが闇営業していてたたかれましたね。「国の休業要請に従わないと名前を公表します」と脅かされていました。そのときから、「ああいう機会がきたら、自分から絶対に公表しよう」と思っていたのです。

倉重:公表される前に自分からと発表すると。

長谷川:もちろん、会社の経営のためだけに、国民の安全や生命を危機にさらすことは絶対にしません。健康に関しては、社内や店の禁煙を11年前からしているのですよ。会社で禁煙したのはうちが最初です。

倉重:お客様と従業員の健康を考えているんですよね。長谷川さんは「仕事より家族を大事にしないやつはダメだ」と言っていますよね。

長谷川:以前うちで幹部をしていた人間が、「離婚した妻ががんになったので、住み込みで看病したい。休ませてくれ」と言ってきました。「いいよ、最高だよ、そんなことをやれるやつはほとんどいないから」と言って送り出したんです。3カ月ぐらいは給料を丸々支払っていました。

倉重:いいですね。

長谷川:当たり前じゃないですか。そのために会社が存在するのです。

倉重:本にも「人間はいくら働いて豊かになっても、自分のやりたいことをやって自分に正直に生きられないなら、幸せになれない」と書いてありましたね。

あと2点だけお伺いしたいと思います。長谷川さんがされていることは賛否両論あると思います。その中で悩みながら決断された経験から、いま、同じように悩んでいる若い人に向けてアドバイスをお願いします。

長谷川:難しいのは、罪悪感の基本は日本の文化の根底にある、江戸時代の絶対主権制度ということです。儒教思想で磨きに磨いた帝国でも、2世紀半続いたらかなりのものなのです。明治憲法も江戸時代にちょっとお化粧したぐらいのもの。太平洋戦争の敗戦のときに、朝鮮戦争が起きなかったらもっと抜本的に社会を変えていたかもしれませんが、岸信介を巣鴨から引っ張り出しました。政府を形づくるために、元の戦前戦中の官僚を引っ張り出したわけです。そうしたら元に戻るに決まっています。だから、お上にたてつかないことを無条件に肯定させるように教育します。幼稚園のときから「絶対列を乱しては駄目よ」「寄り道をしては駄目よ」と言い聞かせますよね。アメリカは全く反対です。誰かが列を外していったら、「○○君が何か見つけたみたい、みんなで行ってみよう」と。

倉重:みんな寄ってたかって寄り道しているわけですね。

長谷川:そこが何もないから、若い子たちが遠慮しているのでしょう。今うちを支持してくれる方というのは、まともな人もそうではない人も、みんな目がやんちゃな子ばかりじゃないですか。自分が納得しなければ言うことを聞きたくないという人です。世の中に出て活躍している人は、ほとんどそういう人たちです。

倉重:言われたことを守るのが本当に正しいことですかと。

長谷川:そういう観点が正しいと思わない人は、うちを国賊と呼ぶわけです。だって国の言うことを聞いていないですからね。でも国は常に正しいですか?

倉重:「法律は常に正しいのか?」という疑問を私も本に書きましたので、本当にその思いはよく分かります。

長谷川:だって、権力はずっと倒され続けてきているわけですから。

倉重:長谷川さんは、毎日厚労省の発表したデータを読みこんだ上で、「こうすべきだ」ということを判断なさっているわけですよね。例えお上の言うことであっても、「自分が納得できないことには従えない」という姿勢が、幼少時から貫かれていると思います。最後に長谷川さんの夢をお伺いしたいと思います。

長谷川:僕の夢は、できればチャレンジの最中に死を迎えたいです。

倉重:まだ夢の中にいるときに終わるのですね。何か達成して終わりではないのですか?

長谷川:ピンピンコロリでもいいんだけれども。割とこれは特性もあると思うのですけれども、僕は本気でコケてどうしようもなくなったら、昔の部下のかばん持ちをやれると思います。

倉重:本当ですか。

長谷川:だって考えてみてください。人生は素晴らしいと思うのは、金正恩だろうが誰だろうが裸で生まれて裸で死ぬのです。どんなにぜいたくをしようが、すごく貧しい集合住宅に住んでいようが同じです。変な話だけれども、代々木公園の中で御殿のようなテントがありますから、あそこで暮らしている人たちは最高だと思います。

倉重:夢中を追いかけている途中で終わりたいと。達成してではないのですね。

長谷川:達成感は何分続くと思いますか?

倉重:1日は続かないでしょうね。

長谷川:3分です。

倉重:そうなのですか。

長谷川:本当の達成感は、マラソンが終わって3分です。調子がいいときはゴールがくるのが寂しいので、つらくなります。

倉重:終わらないでくれと。

長谷川:ここ3カ月半の練習が終わってしまうのか、残念です。

倉重:チャレンジしている今が楽しいのですね。

長谷川:その代わり、休むのも大好きです。仕事のチャレンジは一部ですから。その上でかみさんを幸せにする。それを実行している男性は少ないです。経営は人生を生きるためのただの道具です。

倉重:長谷川さんのタフ&クールさを分かって、今のグローバルダイニングを見ていただけると、きっとまた違った見方が出てくるのではないでしょうか。

長谷川:年を取ればどんどん忘れられていくので、じたばたしてもしょうがないです。

■日本とアメリカの休業補償の違い

倉重:ここからはリスナーからの質問にお答えいただいてもいいですか。

三原:飲食店の休業補償で、すごく多くて助成金バブルと言うところもいれば、全然足りないところもあって、かなり格差がある状況です。飲食業界の中でも対立が生まれているのではないかなと思ったのですが。

長谷川:たぶんそうでしょうね、僕は同業の方と会うのはほとんど元の社員ぐらいしかいないので、割と付き合わないのでわかりません。付き合うと言いたいことが言えなくなるのです。だから政治とも距離を置いています。

ただ、休業補償に関して思うことは、やはり日本の場合は官僚の能力は劣化したのかということです。もしくは道具をもらっていないからやりようがないのでしょう。どうしてマイナンバーカードを作ったのに、使わないのでしょうか?

倉重:マイナンバーもすごく制約されていますから、法律上、使えないものになってしまっています。

長谷川:うちはアメリカにも2店舗あります。ロサンゼルスで2回ロックダウンがありました。アメリカでは店をシャットダウンしないと強制的に逮捕されますから、こちらのほうがひどいです。ただその分、補償はすごいのです。

倉重:どのぐらいですか。

長谷川:期間によって金額が違いました。申請は難しかったのですが、すごかったのは政府やFRBがプログラムを組んだのがあっという間なのです。ロックダウンしてからサポートを実施するまでが早かった。そのときに「今のFRBの長官は、日本の官僚とはレベルが違う能力があるんだな」と思いました。プログラムがPPP(Payroll Protection Program)という雇用調整助成金のようなものがあったんです。新しい仕組みだったので申請に難儀はしましたが、みんなが申請して2週間ぐらいで現金が振り込まれるのです。全米の全企業にです。個人にもあっという間に1,000ドルずつ配られました。それはソーシャル・セキュリティー・ナンバーがあるからです。

倉重:早いのですね。

長谷川:企業に関しては企業番号が全部あって、全部追跡されます。

倉重:税金から、社会保険から、全部ひも付いているということですよね。

長谷川:日本の政治は、中小企業のプログラムに対してすごく甘いのです。僕は中小企業の毒と言っているのですが、中小企業で能力がある人が中小企業になってしまうと、会社の車で買って乗っていても許されているのです。

倉重:経費になるからですね。

長谷川:自分と家族のためには、そちらのほうが都合は良いのです。上場したときのほうが、きちんとルールを守る必要があるので、ぜいたくができなくなります。だから中小企業を10社も持っていて、年間何千万も使う人がいます。そういうところをつくってしまうと、すごく才能があって将来の大経営者になり得るような人が腐ってしまいます。

それがあるのでマイナンバーを始めたのですが、「全部給料を把握されるのは嫌だ」という圧力があるから、実行できないのです。この国が救われるためには、ほとんど革命的なことが必要です。そうでないと、本当に二流半か三流国になってしまいます。

倉重:この30年間、緩やかに沈み続けていますから。

長谷川:これでいいのですかという話なのです。

倉重:20年前のこの本にも、「日本の古いシステムがゆっくり破綻していく。これから悲惨になるかもしれないが、この過程がなければ日本は本当に変わることはできない」と書いてありました。結局20年たっても何も変わっていないから困っているわけです。

長谷川:少しは希望もあります。スポーツで井上康生のような監督は、昔はいませんでした。

倉重:新世代リーダーが少しずつ出てきていますね。

長谷川:あとはオリンピックで金メダルをこれだけ取っているということは、コーチが目覚めて、選手に上から言うのではなくて、きちんと対等に話し合うようになってきたということです。それはすごく進化していますよね。

山本:ラストに聞いていいですか。長谷川さんに雇われてすごく優秀な人でも、やはり会社に合わないで辞めていくのはどういう人ですか。

長谷川:合わないのは会社ではなく、企業理念だと思うのです。例えばうちには基本的なマネジメントの4原則があります。徹底して「言いたいことを言わせる」という表現の自由と、情報公開を徹底しているのです。僕の給料も会社がどれだけ金を使うかも、全部公開しています。みんなはこれをやれません。だから言いたいことが言えなくなります。

もう一つ大事にしていることは、物事を公開討論でしか決めないということです。「どこかで誰かが決める」ということは、絶対してはいけません。チームごとの物事は、チームメンバーの希望者全員を参加させることを徹底しています。

倉重:上の人で勝手に決めるということがないのですね。「勇気を持って主張しろ」というのが、社訓にも入っています。グローバルダイニングさんの社訓は10個ありますが、一番いいなと思ったのは、「すべて君次第だ」というものでした。

長谷川: 例えば言いたいことがあっても言わない人が2種類います。言いたいことを言うのが怖い人は責めてもしょうがないです。あとは言いたいことを持っていない人もいます。不満は言える、だけど建設的な意見や改善は絶対に言えません。そういう人たちがいて、納得がいかないと思って辞める人たちもいるでしょう。あとは、「すごくいい会社だけれども、俺は言えないことをいっぱいやってしまった」と言って辞めていく人もたくさんいます。

倉重:それは仕方がないです。

長谷川:できるやつは大体そちらで辞めていくのです。

倉重:お話しは尽きませんが、そろそろお時間です。長時間にわたってお話をありがとうございました。これからもグローバルダイニングさんを応援しています。

長谷川:どうもありがとうございました。

(おわり)

対談協力:長谷川 耕造 (はせがわ こうぞう)

株式会社グローバルダイニング代表取締役社長

1950年 横浜市生まれ。1971年 早稲田大学を中退し、欧州を放浪。1973年に有限会社長谷川実業を設立し、高田馬場に喫茶店「北欧館」をオープン。1976年「六本木ゼスト」を皮切りに、「カフェ ラ・ボエム」「ゼスト キャンティーナ」「モンスーンカフェ」「タブローズ」「ステラート」「権八」と次々に

エンターテインメントレストランを都内中心に出店を拡大。

1991年米国第一号店として、ロサンゼルスに「ラ・ボエム」、1996年にはサンタモニカに「モンスーンカフェ」をオープン。(2016年に「1212(twelve twelve)」にリニューアル)

1997年に商号を株式会社グローバルダイニングへ変更、1999年東証2部上場。2021年8月現在は、国内外に44店舗を展開中。