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コロナ時代にキャリアをどう作るか【森本千賀子×倉重公太朗】第1回

倉重公太朗弁護士(KKM法律事務所代表)

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今回のゲストは株式会社morichのAll Rounder Agentの森本千賀子さんです。今から約30年前、日本では終身雇用当たり前の時代、ちょうど大学3年生の時に読んだ本で、「アメリカでは“転職”により自身のバリューアップを実現していく」ということを知り、「いつか日本もそんな時代が到来する」と直感したそうです。終身雇用・年功序列制度といった日本の雇用システムが大前提だった時代にリクルート人材センター(現リクルートキャリア)に入社し、1年目にして営業成績1位。以来、転職やキャリアマーケットの旬をキャッチしながら、先頭を走ってきた森本さん。全社MVPや数ある各賞を30回超も受賞。これまで3万人超の転職希望者と接点を持ち、キャリアマーケットの変遷を見てきた森本さんに、コロナによって、求人市場がどのような影響を受けているのか聞きました。

<ポイント>

・オンライン採用で本音を引き出すコツ

・コロナ以降、転職支援が急増している理由

・都心から地方へ移住する人が増えている

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■オンラインで心を通わせることはできるのか?

倉重:このコーナーに2回目の登場の森本千賀子さん、通称「モリチ」さんに来ていただいています。よろしくお願いします。毎度のことですが、キャリアのダイジェストを簡単にお願いします。

森本:改めまして、株式会社morichのAll Rounder Agentの森本千賀子です。私は大学卒業後、リクルートの子会社に新卒で入社し、約25年間人材紹介業を本業としてまいりました。最大で100名ほどの組織マネジメントをしていたこともあります。次男の出産と東日本大震災が重なったタイミングで私自身の働き方を見直し、外向けに自分が貢献できることはないかと考えて、今でいう副業を始めたのです。株式会社morichはリクルート在籍中に立ち上げました。ウエイト的にはリクルートが7、morichの副業が3という割合で仕事を受けていました。3年前に独立し、いまは、株式会社morichとして、人材紹介業だけでなくビジネスマッチングやスタートアップ支援なども行っています。

倉重:リクルート在籍時のmorichの仕事は何だったのですか?

森本:リクルート以外の仕事をmorichiで受けていたので、講演や執筆、社外役員や顧問などのコンサルティングなどですね。

倉重:モリチさんといえば営業の神様のような人で、リクルートの1年目からMVPをとったのですよね。

森本:それも「全社で」というのが枕言葉としては大事です。新入社員のMVPは必ず誰かが取るのですけれども、「全社」となると響きが違います。そこにこだわったので、一生使える枕ことばになりました(笑)。

倉重:NHKの『プロフェッショナル~仕事の流儀~』でも特集されていました。

森本:それがちょうど東日本大震災の翌年です。NHKさんにとってもターニングポイントとなった年でした。それまでは比較的有名なアスリートやアーティスト、お医者さまなど、個人でブランディングできる方がフォーカスされていたのです。そのタイミングで、「働くことに命を燃やしている人に出ていただこう」ということで、私に白羽の矢が刺さりました。

倉重:出演当時は無名ですよね。

森本:誰も名前を知らなかったと思います。それがちょうど2012年です。その頃から2枚目、3枚目と名刺が増えていきました。副業を始めたのはそのタイミングになります。

倉重:なるほど。モリチさんとの対談は2回目になります。前回は「女性の働き方をどうするか」という話をしました。共通して「変化対応力が大事」とおっしゃっていましたが、まさにコロナによって、価値観の根本から考え直させられています。

森本:私自身も対応力はあるほうだと思っていましたが、まさに今年の4月7日の緊急事態宣言の発令された夜に、「これからどうしようか」とおののきました。私はイッツ・ザ・オールドスタイルの「会って何ぼ」という考え方だったので(笑)。

倉重:濃厚接触は大事だと。

森本:「同じ空気の中でしか人間関係は培われない」と思っていたので、これから人と会わずして仕事はできるのかと、不安でいっぱいの夜を過ごしました。今は皆さん当たり前に使っていますけれども、実はオンラインツールの「Zoom」を4月7日以前には1回しか使ったことがありませんでした。それも、2時間の会議で一回も発言しなかったのです、というか発言できなかったのです。

倉重:モリチさんが一回も発言しないなんて、あるのですか!

森本:なぜならば、しゃべりたくても、ミュート解除という機能が分からなかったのです。

私の声がうまく出ない、「このパソコンは壊れている」と思っていましたので、一回も発言できずに2時間終わってしまいました。私のZoomのスタートがそんな経験から始まっています。そもそもそういう機能も使ったことがなかったのです。

倉重:今では、壁紙も含めて、完全に使いこなしています。

森本:録音も録画もできます(笑)。

倉重:オンラインでハートを通わせたコミュニケーションはできますか?

森本:できます。当然画面を通してですし、同じ空気を吸っているわけではないのですけれども、心理的安全が守られていて、「この人なら全てさらけ出せる」という空間さえつくれれば、全部開示されることが分かりました。

倉重:どうやってその空間を作っているのですか?

森本:まずは、「ここが安心安全ですよ」「何を言っても大丈夫ですよ」「全て私は受け入れます」ということを最初に示しています。以前はあらたまって「私とは」という話はしていなかったのですけれども、Zoom面談になってから、自己紹介をきちんとするようになりました。なおかつ、事前にメッセンジャーやメールでつながる人には、私のホームページの中にかなり細かくプロフィールを書いてありますので、そのURLを送っています。大体の皆さんはそれを読んできてくださいます。

倉重:モリチさんのことを知っている状態で、「初めまして」とあいさつするわけですね。

森本:そうなのです。やはり相手のことが分かると、オープンマインドになりますよね。

倉重:ネット上の情報は、やはりデジタルトラスト、名前でネット検索したときに出てくる記事や動画などのアーカイブ情報が大事ですね。

森本:大事です。安全な空間を確保したら、後は画面を通してだろうと、直接会っていようと変わらないと思いました。

■コロナ以降、転職支援と紹介の数が急増

倉重:緊急事態宣言以降、転職支援と紹介の件数はいかがですか?

森本:圧倒的に相談が増えました。企業さま側からの相談も、それから求職者さま側からの相談も、両方増えています。

倉重:森本さんが担当されているのはエグゼクティブ層ですよね。

森本:ですけれども、お会いするのは老若男女、本当に幅広いです。なぜかといいますと、会議や出張、飲み会がなくなったことで、ほとんどの方に時間の余裕ができて、自分の人生を考えるようになったからです。

倉重:時間ができると、「自分はこれでいいのだろうか」と考えがちですよね。

森本:時間ができると、自分に向き合って、いろいろ考えてしまいます。場合によっては昔のアルバムなどを引き出しながら、「この頃は輝いていたな」と振り返ったりします。この間もその話で盛り上がったのですけれども、この3カ月でアルバムを見た方がたくさんいます(笑)。

倉重:僕も見たかもしれません。

森本:あとは皆さん、家の中を整理して、断捨離しながら、自分にとって大事なものは何か?これからもこだわりたいもの・こだわりたいことは何か?と考える機会が増えました。ビフォーコロナと比べると、圧倒的に自分のことを振り返る時間を持っているのです。

倉重:皆さんの転職先を探すときの判断基準はどこにあるのですか。

森本:「自分はこれからの人生をどうしていきたいのか」ということです。これまでは時間の大半を本業に使ってきた方が、「それで本当に幸せなのか」「もしかしたら本業以外でもやりたいことにチャレンジできるのではないか?やりたいことが実現できて、輝けるのではないか」と考えています。実際に、副業ができる職場や、副業先の相談がかなり増えました。

倉重:「副業先を探してください」という相談もあるのですか。

森本:いわゆる業務委託で仕事を請けられないかというご相談もあります。

倉重:転職エージェントは本業に限らないわけですね。

森本:雇用形態はいかようにでも選択できますので。例えば今の仕事を8割にして、2割の力で副業できる場所を探すこともできます。「今の会社はフルコミットで、基本的に副業はダメ」という組織であれば、その辺も自由にウエイトを変えていける会社を探してくださいと言われることもあります。

倉重:人をつなぎ留めるという意味でも、「副業もOKです」というほうが良いのですね

森本:これは絶対です。世の中の経営者が考えている以上に、それを希望される方が一気に増えました。皆さん「人生の余白をもっと有益なことに使いたい。時間がもったいない」と思われて、学びをするか副業をするか考えられています。

倉重:「テレワークできないから転職したい」という要望もありますか?

森本:もちろんです。テレワーク以前に、会社のスタンスが問題ですよね。緊急事態宣言が発令され、あれだけ世の中が騒いでいるのに、基本的には出社前提という会社がやはりあるのです。業務上の特性や、会社の仕組み上、どうしても出社したり、リアルな環境で行わなければいけない仕事は一定数ありますので、それは仕方がないのですけれども、そうではない場合もあります。要は、経営者が性悪説で社員の仕事ぶりを疑ってかかるケースなどです。

倉重:「家だとサボる」という考えは、テレワークになじまない発想ですよね。

森本:テレワークやリモートワークを許可しても、毎日非常に細かい日報を書かせる会社も一定数あるのです。中には、「監視カメラ付きのパソコンを渡されて一気に冷めた」という方もいらっしゃいました。

倉重:ずっとカメラで見られているのは、はっきり言って気持ち悪いです。

森本:プライベートも何もないですよね。会社の社員に対するスタンスや、働く環境に対する考え方で見切ったという方もいました。

倉重:私もいろいろと相談を受けて、テレワークは信頼関係がないと無理だと悟りました。相手を疑いながらやっていたら気持ちが持ちません。

森本:ずっと監視しているわけにはいきませんので、どんな場所でどういう仕事をしているかが全く見えませんので、きちんと信頼関係ができているかどうかが試されたのではないかと思います。

倉重:働くことに対する位置付けも変わってきていると感じますか?

森本:変わったと思います。まず、私の知人、友人だけでも数人が都心の家を売り払って地方に移住しました。

倉重:そんなにいるのですか。

森本:基本的にはそこでリモートワークをして、週に1回必要なときに新幹線で通勤しています。そういう形で、働く環境を変える方がこれからもっと出てくるのではないでしょうか。私もそうなのですが、住宅事情を考えますと、家で仕事をする設計になっていません。だからたまにすごくエコーが効いた方がいて、「どこですか?」と聞くと、お風呂場だったりするのです。あと、トントンとドアノックされているから、「大丈夫ですか?」と聞いたら「トイレです」と言われたり(笑)。

倉重:確かに。ZOOM会議の時に「洗濯機の上です」という人もいました。

森本:そうなると、都心でもう一回家を買い替えるのではなく、子どもが育つ環境も含めていろいろ変えようと考える方もいらっしゃるのです。私もそうなのですが、家族と一緒に毎日3食を食べるのは久しぶりでした。コロナ禍の在宅勤務が続き、ずっと子供たちと過ごしながら「子どもがこんなに成長していたのか」と気付くことも多々ありました。成長プロセスを見逃したという後悔も含めて、仕事のウエイトを変えなければと思っています。私の場合は次男もすでに小学校6年生でもう親離れのタイミングですけれども。お子さんがまだ小さい場合、ワーク・ライフ・バランスをもう一回設計し直す方もいます。

倉重:そうすると、会社としても多様なニーズに応えられるような度量が必要ですね。

森本:一方で「今が成長しどきだ」ということで仕事にフォーカスしたい方もいらっしゃるので、柔軟な働き方ができる選択肢が大事です。

倉重:今すでにそういう対策を取っている会社と、コロナが収まるのをじっと待っているだけの会社では、相当差が付くでしょうね。

森本:とても差が付きます。採用の面接一つとっても、内定、入社も全部オンラインにして、「入社後いまだに会っていない」という方もいます。そうやって全て切り替えると、多少のリスクはあるかもしれません。「対面で会ってみるとイメージが違うな」ということもあると思います。そのリスクも承知の上で、時代の流れにしっかり追い付いて、プロセスも含めて全部変えているところもあれば、変え切れずにいらっしゃるところもあります。

倉重:「オンラインの採用をどういうふうにしたらいいでしょう」と相談を受けることもあると思います。何とアドバイスするのですか。

森本:先ほど申し上げたように、その人の本音を引き出す上で、心理的に安全な面談環境をつくっていただくようにアドバイスしています。自己紹介は対面以上にきちんとしていただきますね。相手の素性を知らないまま、画面を通してコミュニケーションを取ることはとても難しいですから。「なかなか画面では空気や温度が分からない」ということであれば、「短くてもいいので何回も実施してください」と頼んでいます。特に今は、海外出張や国内出張がないので、社長であっても比較的時間の融通が利いたりするのです。

できれば1対1ではなくて、多面的に面接するのもよいですね。例えば私が候補者で、「倉重法律事務所に入社したい」ということであれば、他のスタッフや幹部の方にも同席していただいて、3~4人から質問を受けながら面談していく形です。リアルだと複数名の日程調整だけでも大変ですが、オンラインだと比較的融通が利くので多数での面談が実現できます。

倉重:オンラインなりに緻密に選考することもできるのですね。

森本:通常時であれば、会食したり飲みに行ったりして、最後に人となりを確認する会社も多いのですけれども、それもオンライン飲み会という形で実施しています。先日はクライアント企業が銀座のお寿司を候補者のところに送り、3人でお寿司をつつきながらオンライン飲み会をしたのです。

倉重:最高ですね。同じものを食べるというのはいいですね。

森本:そういう演出を会社がしてくれているという意味でも、採用に対しての本気度が伝わります。

倉重:この間うちの事務所も暑気払いで、和食屋さんのお土産を各家庭に配って、同じものを食べながらZoom飲みをしました。

森本:これは本当に一体感がありますよね。

倉重:そうでしょう。「これ、おいしいですね」という話も弾みます。

森本:そういう演出をしてくれると、モチベーションアップやロイヤリティにもつながります。飲み会や会食での人となりのチェックもオンラインでしているところもあります。ですから「オンラインだからできない」ということはないと思います。

(つづく)

対談協力:森本千賀子(もりもと ちかこ)

1970年生まれ。獨協大学外国語学部英語学科卒。

1993年リクルート人材センター(現リクルートキャリア)に入社。転職エージェントとして、大手からベンチャーまで幅広い企業に対する人材戦略コンサルティング、採用支援サポート全般を手がけ、主に経営幹部・管理職クラスを求めるさまざまな企業ニーズに応じて人材コーディネートに携わる。約3万名超の転職希望者と接点を持ち、約2000名超の転職に携わる。

約1000名を超える経営者のよき相談役として公私を通じてリレーションを深める。累計売上実績は歴代トップ。入社1年目にして営業成績1位、全社MVPを受賞以来、全社MVP/グッドプラクティス賞/新規事業提案優秀賞など受賞歴は30回超。

プライベートでは家族との時間を大事にする「妻」「母」の顔 も持ち、「ビジネスパーソン」としての充実も含め“トライアングルハッピー=パラレルキャリア”を大事にする。

2017年3月には株式会社morich設立、代表取締役として就任。

転職・中途採用支援ではカバーしきれない企業の課題解決に向けたソリューションを提案し、エグゼクティブ層の採用支援、外部パートナー企業とのアライアンス推進などのミッションを遂行し、活動領域も広げている。

また、ソーシャルインベストメントパートナーズ(SIP)理事、放課後NPOアフタースクール理事、その他社外取締役や顧問など「複業=パラレルキャリア」を意識した多様な働き方を自ら体現。

3rd Placeとして外部ミッションにも積極的に推進するなど、多方面に活躍の場を広げている。

本業(転職エージェント)を軸にオールラウンダーエージェントとしてTV、雑誌、新聞など各メディアを賑わしその傍ら全国の経営者や人事、自治体、教育機関など講演・セミナーで日々登壇している現代のスーパーウーマン。現在、2男の母。

弁護士(KKM法律事務所代表)

慶應義塾大学経済学部卒業後司法試験合格、オリック東京法律事務所、安西法律事務所を経てKKM法律事務所 第一東京弁護士会労働法制委員会外国法部会副部会長、日本人材マネジメント協会(JSHRM)理事 経営者側労働法を得意とし、週刊東洋経済「法務部員が選ぶ弁護士ランキング」 人事労務部門第1位 労働審判等労働紛争案件対応、団体交渉、労災対応を得意分野とし、働き方改革のコンサルティング、役員・管理職研修、人事担当者向けセミナー等を多数開催。代表著作は「企業労働法実務入門」シリーズ(日本リーダーズ協会)。 YouTubeも配信中:https://www.youtube.com/@KKMLawOffice

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